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結局昨夜も寝具の高級感なんて気にしていたのは眠るまでだったな。と、羽のように軽い体で寝起きを迎えてしみじみと思った。

そのうち慣れるのかもしれないが、どうにもまだ居心地の悪さを感じてしまう貧乏性が抜けない自分が少し恥ずかしい。


軽くベッドを整えてからカヌレに餌をあげ、手早く着替えると今日は久々に食堂に足を向けてみることにした。





時間は朝七時、まだ少し早い時間だがそれなりに人は居るようでがやがやとした話し声に交じって食器の音が聞こえてくる。

軽く周りに引かれながらも大皿にとろとろのスクランブルエッグを山盛りに、もう一枚にはパンの山を積み上げて席を探していると何処からか深雪!と声を掛けられる。


「あれ?結唯おはよう、いつも朝は食堂だっけ?」

「おはよー!そうだよ、今日は朝練無かったからいつもより遅いけどね」

「そうなんだ。それより唯結が食べてるの、お弁当?」

「ん?あぁ」


結唯の食べているガラス容器を見て思わず声をかける。

そこには美味しそうな煮物と綺麗な卵焼き、鮮やかなほうれん草のおひたしが入っていた。


「あぁこれ。これはうちの母さんの作ってくれたヤツ、母さん朝ごはんが一番大切だ!って考えで朝の分だけは1週間分作って届けてくれるんだよね」

「そうなんだ、素敵なお母さんだね」

「うーんご飯作るの好きなだけじゃないかな?自分のお店持っちゃうくらいだし」

「お店?」


お店、という言葉にそういえば結唯の家族については聞いた事無かったなぁ。と思わず聞き返すとあれ?言ってなかったっけ?と結唯は箸を置く。


「割烹ゆいいつってお店、聞いたことない?」

「えっ…!あ、あの割烹ゆいいつ……!?」

「どのかは知らないけど多分それだよ」

「どのって!予約は半年待ちであの飲食店格付けのミスランで日本で初めて二つ星をとった和食料理店!!女将自ら食材にこだわって全て一人で手作りする隠れ家的料理店の割烹ゆいいつでしょ!?」

「み、みゆき落ち着いて…!」


軽く引きながらどうどうと私を落ち着けさせる結唯を改めて見ると、確かに昔雑誌でみた女将さんによく似ているかもしれない。


「いいな、いいな…羨ましい、そんな美味しいご飯毎日食べられるなんて……」

「えぇ〜!深雪のとこだって美味しいご飯食べられるでしょ?」

「今は、ね?穂波に居た頃は食事は全部私が作ってたし普通の食事だったよ。それに!割烹ゆいいつは別なの!!私の憧れのお店なんだから…!」

「そ、そうなんだ…何か深雪って端々から苦労が感じられるよね」



そう言ってから結唯はうーーんと悩み込んだ後、ちょっとごめんね。とスマホでどこかに電話を掛けると何やらごにょごにょと小声で話をしてホント!?と大きな声を上げルンルンで電話を切った。

何か良い知らせでもあったのだろうか。


「深雪!今度の土曜日、暇?」

「えーっと、うん。土曜日は何も予定ないから大丈夫だよ」

「そっかそっか!じゃあさ、私と遊びに行こう!!一度深雪と遊んでみたかったんだよね〜」

「遊びに…?私と?」

「そう深雪と、折角の休みなんだからね!後で桃歌にも声掛けてみようよ、めちゃくちゃ楽しみだ〜」



そう言うとじゃあお先に、といつの間にやら食べ終えた結唯が食器を片付けて行ってしまった。




突然の展開に付いていけずぼーっと見送っていたが、ハッ、と我に帰り八時を示す時計を見て慌てて山盛りのスクランブルエッグに着手した。

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