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食事を終えた後は香重さんの淹れた美味しい緑茶を頂きほっと一息をついた。
今日も美味しい食事だった、入学してすぐに生徒数と比べて食堂の利用者が少ないように感じていたがこうやってお手伝いさんが来て作りたての食事が部屋でゆっくりと食べられるなら確かに食堂の利用率も下がるというものだ。
流石はお金持ち。
「それではお嬢様、私はそろそろお暇させて頂きますね」
エプロンを外してキッチンから出てきた香重さんは帰り支度をしながらそう言った。
「香重さん今日もありがとうございました、ご飯とっても美味しかったです」
「いえいえ!お口に合ったようで良かったです、本日も幾つかお食事作りおいてありますから傷む前に食べて下さいませね」
「はい、大事に頂きます」
香重さんについて部屋を出るとすぐ向かいのエレベーター前でお見送りをする。
初めての時にエントランスまで見送りしようとしたら、お願いだからやめて欲しいと懇願されてしまい協議の結果ここまでと決まった。
「それでは次回はまた来週の火曜日に参ります」
「了解です、気をつけて帰って下さい」
「お嬢様…いつも本当にありがとうございます、お嬢様こそ寮とはいえ戸締り火の元に気をつけて下さいね」
「子供じゃないんだから大丈夫です!」
「…心配ですわ、やっぱり毎日通っては駄目ですか?」
「もー!その話は無しで落ち着いたじゃないですか!ほらほら、エレベーター来ましたよ?帰り遅くなっちゃいますから、ね!」
そうやって誤魔化せば不満げにしつつも香重さんは最後には笑って頭を下げてから帰って行った。
部屋へと戻ると先程とは打って変わってしん、と静けさが満ちていてちょっぴり寂しさを覚えるものの、床に転がるカヌレを見てつい笑いが込み上げてきて元気が出てきた。
今日は早くお風呂に入ろう。
そんなこんなであの騒動以来すっかり私の生活は変わってしまった。
お手伝いの香重さんが週に二回も来てくれるお陰で食堂の利用回数も減ったし三食しっかりお腹いっぱいご飯が食べられるようになった、掃除も必要最低限以外はしなくて良くなった上お洗濯物も自分でランドリールームに行かなくても香重さんが全部やってくれる。
制服に至っては金曜日の夜に香重さんに回収され日曜日には学園内のクリーニング店から各部屋へと配送されてくるのだ。
なんて至れり尽くせりの生活だろう。
そしてあの一件、どうやら母も関わっていた様で秀政様…もといお父さんからキツく言い含められたと何故か母から苦情の電話があった。
ヒステリックに怒鳴り散らすだけ怒鳴り散らして切られたが断片的な内容から察するに五辻に迷惑をかけない為にやっただけなのに私が責められるのはおかしい、と言うことが言いたかったようだ。確かに、私の知る限りでは騒ぐ程の雑な扱いはされていなかったと思う。
多分。
同じ事を桃ちゃんと結唯にボヤいたら深雪って自分の事に対して鈍感だよね。と残念な感想を貰ってしまったのでどうにも自信が持てないでいる。
入浴後、ぼーっと一人で見るには大きすぎる50インチのテレビを眺めてから明日の準備を済ませてしまうと、特にやる事も無さすぎて結局布団に入ることにした。
天蓋のレースを少し垂らして頭まで布団を被ればカヌレがのそのそと私の足を枕に横になった気配がした。
カヌレがモゾモゾと動いて座りの良い場所を決めるのを待ってからスマホを開き貰っていたクラスメイトや知人からのメッセージに返信を済ませ明日の目覚ましをセットする、なんて平和な日々だろうか。
寝ている寝具が何処ぞの王室御用達のマットレスとフルオーダーの枕、敷かれたシーツは絹、掛けるものは手織りのレースが飾られた柔らかい肌触りの肌掛け、上の方はホテルのようなクッションの山に囲まれた状態でなければもっと心置き無く眠れたことだろうとは思うけれど―――




