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突然の本家訪問から早3週間が経った。
季節も梅雨を迎え、しとしとと雨音が響く中外の草木を眺める雅な日々…と言いたいところだが、振り返ってみると目の回るような忙しさで梅雨入りに気付いたのも結唯と桃歌との会話の中でという始末だった。
というのも、この間の騒動で私は質の良い家具だなぁなんて思っていた部屋も実は久世家当主である先輩達兄弟のお父さん等々によって不当な扱いを受けていたらしく、私のもとを訪れた時お父さんに悪事がバレて左遷?解雇?とりあえず色々と罰を受けたらしい。
詳しくは聞いてないけど本当に色々大変だったみたいなのは久世先輩を見せていると分かった。
まぁそういう事があったので、私の部屋は前の3階よりもっと上階の、寮の中でもセキュリティが高くて広い部屋へと変更になり家具も総入れ替えされてしまった。
その上週に一回本家のお屋敷からメイドさんが学園の私の部屋まで通ってくれることになって、とうとう私も本格的にお金持ちのお嬢様の仲間入りをし始めたようである。
ちなみに通ってきてくださるメイドさんの香重さんは大層な猫好きらしく私の授業中カヌレを疲れるまで遊ばせてくれて丁寧なブラッシングをした上シェフ監修の美味しい手作り猫ご飯をたっぷり作って置いてくれる。
もしかすると、この騒動で一番生活水準が上がったのはカヌレかもしれない。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさいませお嬢様、本日も学業お疲れ様です」
前の部屋の扉よりも数段重厚でどっしりとした扉を生徒証で開けると丁度香重さんが来る日だったようで丁寧なお辞儀で迎え入れられた。
「香重さんこそ今日もありがとう御座います」
差し出された手に未だに申し訳なさを覚えながら鞄を手渡すとお先にお召し変えをどうぞ、と奥の自室へと促される。
様変わりした自室には前よりも数段大きく数段豪奢な天蓋付きベッドに高級感漂うドレッサーやデスク(正式にはライディングビューローと云うらしい)が運び込まれ、アンティークで重厚感ある雰囲気へと様変わりした。
しかし敷かれた絨毯は可愛らしい桃色の薔薇柄で縁には繊細なレースが飾られた女の子らしいものであったり、カーテンには大きなリボンをあしらったり小物類で女の子の部屋だと人目で分かるようになっている。
確かに、コレと比べられると前の部屋が数段劣って見えてしまう…気がする。
いやここまで来ると逆に違いがよく分からない気もする。
そう考えながら他の家具と同じテイストで揃えられたアンティークのワードローブから某有名ルームウェアブランドにオーダーメイドしたとの話の可愛らしい部屋着を取り出し着替える。
足を通したこのスリッパ一つをとっても最高級品だ。わざわざ私の足に合わせてオーダーした品だそうで、白く長い毛足のこれなら音も立てずに人を殺せそうなレベルで足音を消してくれる。
傍の大きな姿見で縛った髪を下ろせばすっかりどこにも出掛ける気のない女の子の完成だ。
「お待たせしました香重さん」
扉を開けリビングルームへ向かえば美しい彫刻が施された猫足のダイニングテーブルに美味しそうな食事が所狭しと並べられているのが目に入る。
「まぁ、本日もまた可愛らしいお部屋着ですね。よくお似合いです」
そう言って振り返る香重さんに照れながらへへ、と笑い返しながら席に着く。
既に美味しそうな香りが空っぽのお腹を誘惑している。
「本日のメニューはさっぱり食べられるように海鮮御膳にしてみました」
「わぁ…!今日もすごい、いただきますっ」
また更新していきます。
もう20話なんですね、そろそろ人物紹介を書こうと思います。




