«12»
手を引かれるまま慌てて連れてこられたのは偶然にも久世くんに呼び出されて怒鳴り散らされたのと同じ、校舎裏だった。
「先輩、あの突然何が…」
「ホントごめん説明してる余裕がないんだ、休暇中秀政様がいらっしゃったってホント!?」
「あっ、え、…はい」
「マジかぁ〜…うわ、どうするどうする……」
「何か不味かったですか?」
「あー…うん、話していいのかな?まぁいいか、実は今父がちょつと秀政様と揉めててね」
「それとこの間の件と何の関係が?」
「うーーんそうだね…」
その時、ガチャン!と大きな音を立てて扉を開け昌輝がこちらへと向かってきた。
いつか怒鳴り散らされた時のような激しく激昴した雰囲気に思わず一歩後ずさると、後ろの壁に背中が当たった。
「お前…ッ!」
「おい昌輝ちょっと落ち着け!」
「落ち着いてられるかよ兄貴!!このクソ女に騙された!お前のせいで親父は社長を降ろされるしこのままじゃ俺は勘当だ!いい加減にしろよッ!!!」
「ど、ういう――」
こと、と言い切る前に胸倉を掴まれ壁に押さえつけられる。
強い衝撃に壁に打ち付けられた肩や背中が痛み必要以上の力で掴まれた首元に体内に取り込まれる筈の酸素が遮断され目の前がチカチカと点滅している。
「バカやめろ!!」
意識の外側で声がしたかと思うと浮いていた体ががくり、と開放されそのまま地面へと崩れ落ちてしまった。
ひゅー、ひゅー、と喉はか細い音を立てながら空気を吸い込み両手は体を抱きしめて自らを落ち着けていると、がちゃり、とまた扉が開く音がして人の気配が出てきた。
見られる訳にはいかないと動く為に目線を上げるがそこに居たのは桃歌と結唯だった。
「痴情のもつれ、って訳ではなさそうね」
「だろうね。しかしあんたら兄弟は本当にここが好きだね」
桃歌に痴情のもつれ、と言われて改めて見回すと私を掴み上げていた弟の昌輝は兄である芳樹に殴って止められたようで頬を腫らして尻餅をついている、そして殴りつけた芳樹の方は未だ私の前に立ち塞がっていた。
桃歌はそれを横目に私の傍へと駆け寄ってきて桃歌らしい可愛いいハンカチを目元に当ててくれて、その時になって初めて自分が泣いていたことに気付かされる。
「話によっちゃ私も黙ってないけど…きっちり説明してくれるんでしょうね?久世兄弟」
結唯はそう言いながら仁王立ちで肩を回している。
冷静でない頭でもこれは説明せざるを得ない事と味方が来てくれたことの二つを理解することが出来た。昌輝はそれを聞くとチッと舌打ちして立ち上がり私を指差して忌々しげに言い放つ。
「所詮女狐の娘は女狐、この女は本来華房にも通えないような薄汚い血なんだよッ!それを助けてやって同情してやってたって言うのにこいつは!!!」
「はぁ?穂波って言ったら確かに歴史は浅いけれど充分入学に足るレベルの家柄でしょ」
「いや違うね!お前達は勘違いしてる!!こいつは穂波でも鼻摘み物の私生児、しかもその上厚顔無恥にも母親の再婚に付き纏って五辻に入り込んだ恥知らずだ!」
「昌輝!いい加減にしろ!!!お前の発言見逃す訳にはいかないぞッ!!」
「ちょっとまって、五辻ってフィブノコーポレーションの五辻?あそこの社長って五辻秀政だよね?結婚してたの!?」
「私それパパに聞いたかもしれない…ワケ有りだから大変そうだって言ってたけどまさそれって…深雪、本当なの……?」
みんなの視線が一気に私に集まる。
隠していたことが全て明るみに出てしまう…そうだ、最初からいつかこうなるって分かってた筈だったじゃないか。
「久世くんの、言ってることは……本当です、ごめんなさい、嘘ついてて………」
今回は投稿が遅くなりました。
明日からまた修正に入るので次は25日辺り予定です。