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 最初は振れるだけのキスをして、嫌がる素振りがないので長いキスをする。背中に手が回されてきたので、遠慮する事無く舌を絡ませる。

 どのくらいそうしてたいだろうか、アンジュの膝から力が抜けたのを腰に回した腕で支え、ゆっくりと座らせてあげる。

「なん、で?」

「君を愛しているから、キスしたかったから、かな?」

「そうじゃなくて、なんで魔法が効いてないの?」

「僕の魔力は振動系なんだって。漏れ出た魔力は、僕に影響する魔力に振動を与えて霧散させるらしいんだ。だから、僕には魔法が効かない」

 発現自体が稀なのか、目に見える効果を出しにくいので自覚しないのか、とにかく珍しい魔力だそうだ。加減によっては物を崩す事も出来るし、熱する事も出来る。

 そして魔法を無効化するとなれば、戦局を大きく替える可能性も否定できないから、国から出る事を許されずに庇護される事となる。

 例え魔女の村の者だろうと、魔力による干渉ならば恐れることは無い。


「もう一度聞くけど、僕以外に気になる人はいないんだよね?」

「うん。私が好きなのはアルトだけ」

「僕の気持ちは嘘でない事も分ったよね? なら、僕と王都に来てくれるかい?」

「付いて行きたい。でも、ママが、村長が許してくれるとは思えない」

 不可侵を結んでいる事も知っているし、魅了の魔力が門外不出なのも聞かされている。それならば、直接話に行くしかないだろう。

「なら、ご両親に挨拶しないとね」

 否は聞かないよって顔で問えば、顔を赤くして頷いてくれた。これで長く夢見ていた生活に、一歩を踏み出せる。

「その必要はないわ」

 外から聞こえた声に、アンジュの顔は青ざめる。

 蔦を潜って入ってきたのは女性が一人。見た目はアンジュそっくりだ。

「アンジュのお母さんですね。はじめまして、アルトです」

「そう。初めまして、でも無いけれど」

「そうですが、アンジュの母親としては初めてでしょ」

 アンジュは困惑したように僕たちの顔を見ている。

「学校で一度、お会いしているんだよ。主に薬学の話を聞いたのだけど、君の事も聞いたんだ」

「だから貴女が、誰を思って見合いを断っていたかも知っているのですよ。まさか禁呪を使っていたとは思わなかったけれど、本当に効いていなかったのにも驚きね。そして賭けに負けてしまった以上は許すしかないでしょう」


 学校でお会いしたのは、学長が僕の成績を考慮して引き合わせてくれたからだ。予備知識として聞いていたおかげで、アンジュの村の人間だと判っていたが、顔を見て確信した。

 薬学の話が終わったところで、「娘さんはお元気ですか」と問いかけて緊張感が走ったが、たぶんその場で魅了の魔術を使ったのだろう。見る間に表情が傲慢なものから驚愕に変わっていった。

 そんな中を平然と話す僕に、警戒しつつも耳を傾けてくれたのだ。

 魔術が効かない体質も、アンジュと出会っている事も、アンジュを愛している事も全て語った。そこで問われたのは、アンジュを守れるかと言う事だった。

 アンジュの血は誰よりも濃く、この世界を変えてしまう可能性がある。だからこそ密かに確実に守られ、その存在を隠されなければならないのだと。

 だから彼女と賭けをした。

 アンジュが本当に僕を愛していて、付いて来てくれる意思を示すのかを。そして、連れて行く代償を求められた。

「僕が用意できたのは、この転移の指輪です。指輪に念じれば、一度だけ片割れのコインがある場所に転移できます。僕にもしものことがあったら、アンジュはこの指輪であなたの所にお返しします」

「アンジュ。後悔はしないわね?」

「はい!」

「ならこれに着替えなさい。街で買ってきた物です。村の物は一切持ち出す事は許しませんから、今この場で縁を切りなさい。良いですね。」

「はい。今までありがとうございました」


 アンジュが着替えている間にお義母さんは村へと帰って行った。

 しばらくしたら、この場所も封印してしまうと告げられた。

「アンジュ。これからはずっと一緒だよ」

「うん。ずっと寂しくって、苦しかった。でも、今は幸せ」

「これから、両親に会ってもらうよ。式を挙げて、王都に行こう。その頃には店が出来ているはずなんだ。薬屋なんだけど、手伝ってくれるかい」

「うん、手伝わせて。住む所は?」

「決まってはいるけど、家具とかは一緒に選ぼう。幸せになろうね」

「ずっと一緒にいてね。それだけで私は幸せだから」

 そうして、二人して暗い森を抜け出した。


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