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 私の村に住む者は皆が特殊な魔力を持っていて、【魔女の村】と人々から恐れられている。だから村は森の奥にあって人避けの魔法で守られているけれど、襲われる事などあまりない。

 私の村の特産品は薬。

 普通の魔法では治せないような傷や病気も、瞬く間に治してしまう様な薬を作る事ができるので、王侯貴族から保護されているのだとか。


 私の母は、そんな村の中でも更に特殊な魔法を使う事ができる。

 それは人の心を魅了し操る禁忌とされるもので、その効果を持った薬も作る事ができた。

 それ故に村の長として村人に守られ、どこの領地にも属さない独立性を保っていられた。そして私も、その魔法を使う事ができた……。

 母は「血が可能にする魔力の伝承故」と言っていて、特に厳しく私を躾けた。

 十歳になると、村の子供たちは薬の調合を学ぶようになり、私も例にもれず両親から教わってきた。

 それなのに、魔力が強いからなのか特殊だからか調合に失敗する事が多く、習い始めの年下からもバカにされる始末だった。

「アンジュ! もっと集中しなさい! こんな初歩の薬を失敗するなんて!」

「アンジュには調合の才能が無いのかもしれないね。でも魅了の魔法は使えるのだから、それで良いじゃないか。十五の成人を迎えたら、村の誰かを魅了して子を儲けさせればいい」

「はぁ。精々、孫の才能に期待をさせてもらいましょうか」


 目の前で交わされた両親の言葉に、思わず家を、村を飛出し森の奥へと逃げ出してしまった。

 両親にとって、私は血を繋ぐ道具でしかない。十歳までは愛情を注いでもらっていたけれど、今は一切の愛情を感じることは無いのだから。

 いっそ人攫いにでも会って、売られてしまった方が楽かもしれない。その先に地獄が待っていたとしても、守ってくれない両親や蔑んでくる村人と居るよりも……。

 そんな事を考え、涙が止まらないまま森を歩いていると声が聞こえた。

 立ち止まって当たりを見回すと、また声が聞こえる。

「こっちだよ。君の右手の方だよ」

「あ!」

 そこには少し年上だろうか、髪を短く刈った見た事のない男の子がいた。

 感じる魔力に何故か心が軽くなって、思わず走り寄ってしまう。

「君は迷子かな? それなら休める場所に連れて行ってあげるから、僕に付いて来て」

 笑顔で差し出された手を警戒する事も忘れ、コクリと頷いて握り返した。


 付いて行った先は、熊か何かの巣だったらしい横穴。

 入り口は目立たないように加工され、中はいろいろな物が持ち込まれている割には、整理が行き届いていて清潔感があった。

 この男の子は、独りでここに住んでいるのだろうか?

「とりあえず座って。えっと、水でも飲む? お菓子もあるよ?」

「お水、ください。お菓子も、いい?」

 この一年と少し、誰もしてくれなかった優しい言葉をかけてもらって、嬉しさが勝ってしまって甘えてしまう。それでも口を出た言葉は拙いもので、最後にちゃんと話したのはいつだったろうかと悲しくなった。

 出してもらったお菓子は始めて見る物で、少し甘みが強い焼き菓子がとても美味しかった。村では甘い物などジャムくらいしか口にした事が無かったから、この男の子は外の村の子で、それなりに裕福な育ちなのかもと感じた。


 男の子はアルトと名乗った。

 私も名前を教え、調合に失敗して怒られたので、家出をした事を伝えた。すると、アルトも両親とケンカをしてここ気に来たのだと教えてくれた。

 アルトも仕事の手伝いでけんかしたのかと思って理由を聞いてみると、将来の事で両親と意見が合わないようだった。そして、魔力を持っている自覚もあることが分かった。

 稀に外の世界でも魔力を持って生まれる人はいるらしい。そういった人たちは国を挙げて歓迎され、幸せに暮らせるのだと言う。

 アルトもその為に遠くに行ってしまうのかもしれない。せっかく出会えたのにこれっきりになるのは嫌だった。

 だから、泊まっていくアルトに我儘を言って泊めてもらう事にした。少しでも長く一緒にいたかった。出来るならば、私を連れて行ってほしかった。


 アルトは料理も出来た。作ってくれたのは魔法を使った温かいスープだ。

 そのスープは本当に温かかった。物理的にだけでは無く、心を温めてくれるような優しいものだった。

 彼の魔法は私を優しく包んでくれる、私の魔法とは真逆のもの。

 彼の優しさが、気持ちが、心が欲しくなってしまった。

 だから、寝入ったアルトに禁呪をかけてしまう。ダメと解っているのに、私を愛する魔法をかけてしまったのだ。


 翌日、家に帰ると両親が寝ずに待っていてくれた様で、玄関の所で抱きしめられてしまった。

「いったい何処にいたの? 外の人に会ったりしていないわよね?」

「森の奥、にある横穴で、寝た。人には、会ってない」

「気を付けてね。この辺りの村人は、私達を危険だと思っているから殺されてしまうかもしれないのよ」

「殺される」

「さもなければ、売られてしまうかもしれない。アナタの血は貴重なものだから、粗末にしちゃだめよ」

 結局はそれなのだ。口調は優しくなっていても、愛が有る訳ではない。

「森で落ち着ける場所、見つけた。暫らくは、そこで練習したい」

「構わないけど、外の人とは絶対に会ってはダメ。もし会ってしまったら、魅了を使ってここに連れてきなさい。良いわね!」

「はい」

 とりあえず返事だけはしておく。アルトとの仲は邪魔されたくはないのだから。


 調合に必要な物を少しずつ秘密の場所に運び込んだ。

 そうする内にアルトと再会し、心臓が止まる様な事を言われてしまう。

「両親から聞かされたんだけど、森には危ない者が居るんだって」

 それは、私たちの事だ。

 私もその一人だと言ったら、彼はどうなってしまうだろうか。恐怖と私の魔法で心が壊れてしまうかもしれないけど、聞かずにはいられなかった。

「危ない、者?」

「詳しくは聞いていないんだけど、危険な獣でも居るのかもしれない」

 どうも、アルトは勘違いをしている様だった。だからそれが、私の事だとは思っていない。

「そう。私の魔法、獣にも効く。危ない事、無い。それに……。アルト、勘違い」

「そっか。アンジュに危険が無いなら良かった。無理して怪我でもしたら大変だし、そうなったら悲しいからね」

 私が掛けた魔法のせいで心底心配してくれていると思うと、胸の奥がチクリと傷んだ。


 その後も度々会っては、話をしたり食事をしたり遊んだりした。

 アルトは常に私に優しく接してくれて、何よりも私を優先してくれた。

 それが、だんだん辛くなってくる。魔法によって束縛を受けた心は、本来向けるべき人に向かなくなっている。私が横取りをしてしまって、彼の幸せを奪てしまっているのだから。

 掛けてしまった魔法を解く方法を調べはしたけれど、どうやっても見つけ出せない。ママに聞けば教えてもらえるだろうけど、きっとアルトに酷い事をする。

 そして夏が来てしまった。

「必ずもどって来るから、また会ってね」

「うん。ずっと待ってる」

 そう挨拶をして別れた。

 必ず戻って来て。ちゃんと魔法を解いて、あなたの幸せを壊さないようにするから。だから必ず。


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