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剣戟の幻想物語 2 折れた剣  作者: やきたらこ
空いた穴を埋めるモノ
7/8

6.

 ローグルと少女の近くの男の脳天を撃ちぬいた。

 残りの数は七人。うち、一人は昼間の小太りな男。

(どういうつもりだ?)

 ゼノは疑問への答えを聞き出す為、小太りな男の周囲で武装した男へ指先を向けて撃ちぬいた。

「この野郎!!」

 ようやく男たちは各々の武器を構え、ゼノの方へ駆け寄ってくる。射線から逃れるべく、倉庫内の荷物を遮蔽物として使って距離を詰めてきている。

(ったく、めんどくせぇ)

 ゼノはようやく抜剣する。



 沈黙が場を包んだ。

 ゼノは漆黒の刀剣を力無くだらりと下げている。あたりには音一つ無い。

 静寂が支配する中ゼノの視線はいたるところを捉える。

(あの昼間のデブはどっかに行った。隠れたのは三人。残りの三人は子供ガキとローの近く……)


「ぁぁあああああ!!」

 一人の男の声だ。戦斧を構え、左側から叫んで突っ込んでくる。

(馬鹿野郎が。こういう時は音は出すモンじゃねぇぞ)

 戦斧を小盾で軽くガードする。勿論体格差がある為、衝撃は中々のものだが体を右回転させて男の懐に潜り込む事でいなす。それと同時にゼロ距離まで接近する事を成功させた。

「なん!?」

 目をひん剥き驚愕を露わにし見下ろす男の胸に漆黒の刀剣を肩越しに突き刺す。

 刃物が人肉に刺さる生々しい感触を右手に伝える。漆黒の刀身はぬるりと滑るように心臓を貫いた。

「が、はぁ」

 剣を勢い良く右側に振りぬく。

 肉と骨と同時に内蔵もまとめて斬り裂かれる。体の中央に深い亀裂が入る。

 男は血を吐き出し、倒れた。

 ゼノは斬り払いをし、刀剣に付いた血を払った。

「隠れてないで出てこいよ。こんなんになるのが怖いのか?」

 ゼノは笑いながら辺りに向かって呼びかけた。


「畜生が!! よくもアレスを!!」

 親友だったのだろうか。荷物の出てきた男はガタイに似合わない細剣を持ち、突っ込んでくる。

「だったらこんな所に来るんじゃねぇ!!」

 ゼノも叫び、小盾を細剣の軌道に合わせた。

 しかし細剣はゼノの小盾をすり抜け肩に刺さった。

「げ、ばぁ!!………」

 刺さったのは左肩。ゼノは右手に握る漆黒の刀剣を横薙ぎに一閃するが、細剣を持つ男は上半身を反らすことでこれを回避した。

(中々闘い慣れてやがる。だが!!)


 ゼノは魔法術を顕現させる。

 闇の刃は地面から飛び出し、細剣持ちの胸を切り裂く。


「ああああああああああああああ」

 細剣持ちの男はあまりの痛みに地面を転がり、苦しみ悶える。男の傷は広く浅く広がり、えげつない量の血が止めどなく流れている。

 闇の刃が切ったのは男の前面だけじゃなかった。

 ローグルの両手両足を縛る縄が小さな刃に切られ、自由になる。少女の縄も切れたが気絶している為、力無くだらりと地面に転がっている。

(都合が良い。子供ガキにこんな場面見しちゃいけねぇな)

 その思考は今までのゼノならば考えられないモノだった。


 他人を思いやる心。


 今までのゼノは他人を傷つける事を愉しみとしていた為、そんな感情は持ちあわせていなかったのだ。



 ローグルが近くに居た男の首をひねって意識落とした事を、ゼノは確認した。

 ローグルが落としたその男の得物は彼女に運良く短剣だった。ダガーという種類らしいがゼノにはその武器種の違いが分からない。

 弓を構え、ローグルを背後から狙おうとしている男が居た。勿論援護する。

 ゼノは魔法術を展開。その左手の平から紫の光線が飛び出した。

 その光線は闇さえも呑み込み対象へと延びる。


 しかし、轟音と共に唐突にその光線は、ある一点を中心に四散し後方へと流れ、荷物類を吹き飛ばした。弓手は健在であった。

「な……にが?」

 光線を四散させた者は二本の白い剣を交差させてそこに構えていた。

 その刀身は白く発光していた。

(光か…………)

 闇を打ち消せるのは光しかない。それと同時に光を覆えるのも闇しか無い。

(あとはコイツと弓手ともう一人の三人か…………とっとと終わらせて帰る!!)

 ゼノは床を蹴り出し、駆け出した。

 二刀流の傭兵も左の剣を構え、右の剣を引く半身の構えを取り迎え撃つ。




 ゼノの戦闘は平行線のまま続いたが、ローグルの方はすぐ終わった。

 ローグルが短剣を投げつけ、一人を刺殺。弓手は近づいて一捻りだった。

 ローグルは手出しが出来ない。ここで介入すると足手まといになるからだ。

 ゼノもそれを分かっていた。援護を期待出来ない為、目の前の敵に集中する。

「っらぁ!!」

 ゼノは気合いと共に袈裟斬りを放つ。しかし片方の剣に阻まれその剣は肉体に届かず反撃を食らう。ゼノは小盾で守る。

 その繰り返しだった。

 体力が切れた方の負け。

 ゼノはハンデを背負っていた。前に数回戦闘を行っていた為、ギリギリの闘いだった。

(なんとかこの現状を壊さないと)

 しかし互いの剣戟は続くだけだった。



「くっ!!」

 左手が動かなかった。

 戦闘の疲労に重なって負傷している肩が傷んだのだ。

 僅かに動きが鈍る。

 その隙を逃すほど敵は甘くなかった。

った!!」

 男は叫び、その右手の剣を小盾の上を抜ける。

(マズッ!!)

 顔を右に傾けるがもう間に合わない。


(クソッ!!こんな所で…………)

 ゼノは眼前に迫る刃を目をひん剥いて見つめた。

 その時不自然に二刀流の体が前につんのめった。

 敵の後ろを見ると、いつから起きていたのか十歳の茶髪のショートが可愛らしい、小さな少女が目を瞑って歯を食いしばり、二刀流の背後にタックルを決めていた。

 小さい力だが、背後からの不意打ちに加えて全体重をかけてゼノに剣を振っている所だったのだ。倒れるのは必然といえよう。

 眼前に迫った刀剣は上方に逸れ、ゼノの前髪を少し切った程度だった。

 ゼノは歯を食いしばり思い切り頭を前に突き出した。


 ゴンッという鈍い音を最後に二刀流の男は地面に倒れ伏し、動かなかった。




「終わったか…………」

 倉庫内を見渡すが人の気配は無かった。

 唐突に体に軽い衝撃が走る。少女に体当たり気味に抱きつかれたのだ。

「なんだよクソ子供(ガキ)、いつから見てたんだよ」

 ゼノは薄く笑い、年端もいかない少女の茶色いサラサラした髪を撫でた。

 少女はより一層抱きつく力を強めた。



「まだ、終わってないんだなぁコレが……」

「ッ!?」

 ゼノは視線を前方に移す。

 そこにはローグルの首にナイフを突き立てる小太りな男。彼の口からひんまがった声が発せられる。

「なんかいけ好かない野郎なんだよなぁ」


 目の前の豚めがけてゼノは大きく言い放った。

「てめぇの目的はなんだ!!」

「さぁ? なんとかくムカつくからやってるだけ」

 小太りな男は口を尖らせて言う。ゼノは斬り払いして血を落とし、鞘に収めた。

 小太りな男は眉間にシワを寄せ、怪訝な表情を浮かべる。

「どういうつもりなんだよ?」

「もう俺の出番は終わったんだよ。お前、人質を選ぶの間違えたな。やるんだったらこの子供ガキにするんだったな……」

 ゼノが剣を完全に鞘に収めると同時にローグルが動いた。

 ローグルは小太りな男のナイフを掴む腕を掴み、足を払って投げた。

 盛大に投げられた男は唐突過ぎて受け身も取れず、床に激しく打ち付けられる。

「ご、ほぁ……」

 ゼノは容赦なくその足を醜く出張った腹に突き刺した。そしてグリグリと押し付けた。

「てめぇがやった事はこんなことじゃ済まねぇぞ」

 小太りな男は呻き声を強くする。ゼノが足に更に力を加えようとした所で、小さい腕に服の裾を引っ張られ思わず止めた。

 見ると茶髪の少女はゆっくりと頭を横に振っていた。

「ここまでだ。子供ガキも見てることだしな」

 ゼノはポケットに手を突っ込み、踵を返した。

 少女とローグルもゼノに続いて倉庫を出た。

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