4.
「そぉいえばお前、だらしないカッコのままだったな」
体を起こしたゼノは少女を見て、言った。
それに対し少女はキョトンとした表情を浮かべるだけだった。
「おい、ロー。女どうしなんだから、こういうのはお前に向いてると思うから頼むわ」
ゼノに視線を向けられたローグルは発言に対し目を細めた。そこに隠された真意は彼女にしか分からない。
ローグルは立ち上がり、少女の手を握った。
少女は未だ困惑する様子だったがローグルを信頼して付いて行く。最後に、自分に向けられた寂しそうな目をゼノは見た。その視線を受け、何故か胸の奥のどこかがチクリと傷んだような気がした。
「さぁて、そろそろ行くとしようか」
ゼノは受け取った札束のちょうど真ん中辺りに指を入れ、そこから一枚の紙を取り出す。
依頼は直接言い渡さない。誰かに盗聴されるとマズイからだ。そこで依頼人が工夫を凝らして偽装する形をとっていた。
(この程度か…………)
内容は簡単なモノだった。
とある屋敷で重鎮の密談があるらしい。そこに潜入し、両者を殺せという端的な依頼だった。
こういう依頼はローグルの方が適任ではないかと毎回思う。貴重な収入源なので感謝してはいるが。
ゼノは漆黒の得物と小盾を持ち、宿の窓から宙に身を躍らせる。わざわざ入り口から出なくとも、こちらの方が速いからだ。
日が落ちかけ、紅の街を黄昏に染める。
そんな建物たちの屋根を跳び渡り、目的の屋敷を目指す。
仕事自体は簡単に終わった。いつもどおりに首をはね、特製の巾着袋にしまって屋敷を脱出する。
報告も、滞り無く終わった。
尾行が居ない事を確認し、事務所に入る。
「ご苦労様、報酬はまた後日」
完璧にいつもどおりだった。
しかし。
異変は宿に帰る途中に起こった。
『ゴメン、ゼノ。なんかピンチ』
決して使われる筈の無い術式。闇属性の念話が脳内に響く。
「どぉいう事だ?」
周囲に人が居ない事を確かめると念話に応じた。
『分からない。けど、掴まって……監禁されてる』
「子供も一緒か」
「……………………う、うん」
最後の答えは僅かに言い淀んだが答えてくれた。
「場所は?」
『亭地区の四番通りから裏路地を行った所の奥の倉庫』
「しっかしなんで、お前が掴まるなんて事態に陥ったんだ?掴まるようなタマじゃ無ぇだろうが」
『………………………………………………………………………………』
返答は無かった。ゼノは気になってしまい、幾度か尋ねた。すると、
『忘れてきたの。いつもの暗器を部屋に』
思わず笑いを漏らしてしまった。勿論念話がそこで途絶える。
数瞬後、笑みは消え、見たものが凍りつくような冷徹な表情を浮かべ、走る速度を上げた。