銀眼の交差
本当はもう少し長くなる予定でしたが、分けました。
来週も投稿できますかな?(´・Д・)」
多分無理です´д` ;
努力はします 笑
一条は両腕の力を抜き、機能を停止させた《黒刃》の切っ先を地面に向けながら、《銀血》による身体能力の強化は保ちつつ、身の丈を超える大剣型の《黒刃》を持った少女ーーーーー雛魅 明日火と相対する。
戦いの影響か、彼女の服は所々が裂け、血痕が付着している。
マスクの途切れ目から出る茶髪のポニーテールと、めりはりのあるボディラインから性別はわかるが、年齢などの他の情報はわからない。一条は知るつもりもないようだが。
ただ、身の丈を超える《黒刃》を発動させて振り回す能力を鑑みれば、
(『普通』じゃないな・・・)
俺もだが、と自嘲していると、彼女は警戒心を隠さず問いかけてきた。
「君は、人間?」
「・・・さあな」
一条は素っ気なく一言だけ返すと、その場を後にしようとする。
まともに答える理由がなければ、助けるつもりもない。《擬食者》にまた集まられても面倒なだけだ。
早々に立ち去るのが吉だ。
だが、雛魅は食い下がった。
「君は《擬食者》と敵対してた。人じゃないなら何者なの?」
「・・・」
無視。
故意でなくとも、彼女のせいで《優位種》を逃す隙を作ることになった。恨み言の一つや二つ言ってやりたかったが、密かに利用していたのも事実だ。
自業自得としか言いようがないことも自覚している為、黙って立ち去ろうとしたが、考えを改めた。
(情報源としては貴重か?)
歩き出す前に一つだけ質問した。
「お前は、《神位種》について何か知ってるか?」
「こっちの質問には答えないのに、自分の質問には答えてもらえると思ってるの?」
そう返され、一条は少し間を置いてから答えた。
「・・・分類としては、俺は《偽抗者》だ」
《偽抗者》は別段珍しい存在ではないはずだが、雛魅はその答えが納得いくものではなかったのか、猜疑の視線を強めた。
「どこの都市から派遣されたの?」
《偽抗者》ならば、なぜ《第二都市》に居るのか。
人間が白、《擬食者》が黒だとするならば、《偽抗者》は白に近い灰色だ。当然、《擬食者》からは狙われる。
《擬食者》が跋扈する《第二都市》に居る一条に対し、そんな疑問を抱くのも当然かもしれない。《第二都市》で暮らしているなど思いもしないはずだ。
「俺は生まれも育ちも《第二都市》だ」
「嘘よ。『ラストイヴ』で生き残った人はいない。それに、両眼に《銀血》の影響が出る《偽抗者》なんて、世界に一人だけ」
一条の回答を即否定した、雛魅の言い分は正しい。
《銀血》の影響で両眼に変化が起きるのは、たった一人の《偽抗者》しか確認されていない。
そして、それが一条でないことは言うまでもなく、《第二都市》で起きた『ラストイヴ』の後に確認された生存者数はゼロだ。無論《偽抗者》も含めて。
《擬食者》が紛れ込んだ《第二都市》は、いとも簡単に崩壊した。
他の都市から来た救助隊も、人間か《擬食者》かの判断ができない為手が出せなかった。
ある者は擬態し群衆に紛れ、ある者は圧倒的な力で殺戮しながら迫る《擬食者》。
互いに信用できない大勢の人々は、恐怖と不安から混乱し、互いに疑って殺しあった。
信じられる話ではないが、そんな中でも一条が生き残ったのは事実。だから、こう返した。
「《偽抗者》であって『人間』じゃない」
「っ」
自分はあくまでも《偽抗者》という分類。
その皮肉ともとれる言葉に対し、雛魅は明らかに怒気を滲ませた。
一条を見る目が鋭くなり、殺気が強まる。
だが、彼はそんなこと気にも留めなかった。
「質問には答えた。それで、お前は《神位種》について何か知ってるのか?」
「そんなことより、君は《擬食者》?それとも《偽抗者》?」
譲らない両者。
質問に答えてもいいが、相手が情報を言うかわからない状況で、ぺらぺらと一方的に答える気はない。
似たようなことを考えているからこそ、話が進まない。
そんな状況にすぐさま嫌気がさした一条は、面倒くさそうな表情をした。否、『そうな』でも『ように』でも既になかった。
「埒があかないな・・・」
「・・・」
その態度に、雛魅は警戒心を強める。
「結局は、」
彼女の対応を見ながら、彼は重心を落とし、
「力ずくの方が早い」
続けながら《黒刃》を発動させて走り出した。
それに合わせて雛魅も走り出す。
(無力化してから聴きだす)
(やっぱり《擬食者》!)
互いに思考しながら一瞬で距離を詰める。
相手を先に間合に捉えたのは、身の丈を超える大剣を持つ雛魅だった。
《銀血》で強化された腕力で、普通大剣では成し得ない速度の横薙ぎを放つ。
一条はさらに姿勢を低くし、二本の剣でそれを上方に流す。
ジャリィィィンッ!!
《黒刃》が擦れ合う音が響く。
一条は、続けざまにきた返す刀での攻撃を今度はバックステップで避ける。
雛魅がそれを追わなかったことで、一旦距離が開く。
(重過ぎだろ・・・)
(流された!?)
一条は予想以上の攻撃の重さに眼を細める。
『流した』というより、『少し逸らした』といった方が適切なほどだった。
正面から受け止めたら腕が折れるかもしれない。少なくとも、《黒刃》は耐えきれず折れてしまうだろう。
正面から打ち合って勝てる相手ではない。
逆に、雛魅は攻撃が流されたことに驚愕しつつも、反撃が来なかったことから自分の優勢を悟り、裂帛の気合いと共に踏み込み、大剣型の《黒刃》を振るった。
「ハアァァァッ!!」
一条はそれを今度は受け流さず、間合から逃れることで避ける。
返す刀での横薙ぎ。
袈裟斬り。
逆袈裟斬り。
上段からの振り下ろし。
一撃が致命傷になりうる高速の連撃を、一条は淡々と躱し続ける。
《銀血》が枯渇するのを期待しているのではない。
何度戦うことになるかわからない戦場で、持久戦に持ち込むなど愚の骨頂だ。
だが、早期決着は難しい。
剣速なら僅かに、手数なら圧倒的に一条に軍配が上がるが、リーチでは僅かに、一撃の重さでは圧倒的に敵わない。
相手が両手持ちだというのにリーチで敵わないのは、大剣型の《黒刃》の長大さ故であり、一条が間合に捉える前に、一撃は確実にくる。
攻撃は重撃だ。一撃目を凌いでも、万全の体勢で次の攻撃に移ることはまずできない。
間合に捉えようと接近している手前、攻撃を避けるのは難しく、逸らしたとしても、痺れによる筋力の低下や体勢の乱れで剣速は鈍る。
一条の初撃と雛魅の二撃目が放たれるのはほぼ同時だろう。
だが、体勢が整ったままの彼女は、大剣のリーチを活かして退がりながらでも攻撃を加えられることから、明らかに一条の方が不利だ。
一条はその不利をなくす為、大剣の動きを止めることができる場所に誘い込む。
回避を移動としていた一条の背中に、トン、と路上に放置された車の側面にが当たった。
彼はわざと背後へと視線を向け、状況を確認する。
それは予想外の事態に、思わず敵から意識を外したようにも見えただろう。
雛魅はその隙を逃さず、自ら退路を塞いだ彼に向かって、上段から大剣を振り下ろした。
しかし、銀色に発光する刃は、車体を修復不可能なぐらい深々と斬るに留まり、右方向へのサイドステップで回避した一条には当たらない。
雛魅は咄嗟に、刀身が切っ先から半分ほど車にめり込んでいる《黒刃》を途中で切り返そうとした。
そして、自分の失態に気がつく。
車体に剣がめり込んでいる為、一旦引き抜かなくては反撃にも防御にも回せない。
避けられたら剣を止めて、次のモーションに移る。体に染み付いた動きが仇になった。
一条が右手の《黒刃》を振るう。
《黒刃》を引き抜いていては間に合わない。
《黒刃》を手放せば回避できるが、予備の武器で凌げるようなぬるい相手でもない。
焦燥に駆られた彼女の顔を見て、一条は勝利を確信した。
《黒刃》の刃は銀色の軌跡を残しながら、彼女の首に吸い込まれていく。
(取った!)
そう内心で叫ぶ。
直後、メキゴキバキッ!!と骨が砕けるのを感じると同時に、体から少なくない量の血が飛び散り、一条の体は宙を舞った。
「!!??」
景色が高速で去っていく。
ボールのように吹っ飛ばされ、盛大な音と共に、ビルの二階に突っ込んだ。部屋にあったデスクやらを薙ぎ倒し、部屋の壁に叩きつけられてようやく止る。
一条は痛がる素振りを見せない。あれだけの攻撃を受けても離さなかった《黒刃》の機能を停止させ、それを杖代わりにして、平然と立ち上がろうとする。
だが、あらぬ方向に折れ曲がった腕や足では上手くいかず、また床に突っ伏した。
一条は内心舌打ちしつつ、一度立ち上がるのを諦めると、《銀血》による傷の回復を優先する。
(大剣をあれだけの速度で振るうだけならまだしも、車を片手でとは・・・)
痛みが引くのを感じながら、彼は少し前の出来事を思い返す。
首を撥ねようと右手の《黒刃》を振るったが、 雛魅は自分で付けた車の切れ込みを利用して車のフィーラーを掴むと、身を引きながら裏拳気味に車を振るっていた。
身を引きながらの攻撃だった為、直刀は薄皮一枚切り裂くに留まり、フルスイングされた一トン近くある鉄塊が直撃した一条は吹っ飛ばされた。
折れた骨が刺さった内臓の損傷に加え、直撃を受けた左半身の骨のほとんどがお釈迦だ。
大剣の数倍重い鉄塊を振り回すのは、流石に予想していなかったとはいえ、
「甘かった・・・」
一条は完治した体を起こす。
完治までは十秒とかかっていない。
急所を一撃で捉えるのは、相手との実力差がある程度無いと難しい。
自分と相手の間には、あまり差がないのは戦っていて分かっていたことだというのに、一撃で無力化しようとするなど甘い。
首を落としても《偽抗者》は死なないとはいえ、《銀血》が少ない状態では再生しきらず死んでしまう可能性もある。
そんな危惧から無駄な負傷は避け、《銀血》に余裕があるうちに急所を狙おうとした。
一条は、自分の浅はかさを反省しながら、体を動かして調子を確かめる。
異物が入り込んでいれば適切な再生が阻害され、その部位に違和感を覚えるはずだ。
銃弾を撃ち込まれても傷は消えるが、弾が体内に残っていても自然には排出されない。
人間と同じことが、《擬食者》や《偽抗者》にも当てはまることがある。
今回は運が良かった。
あれだけ派手に吹っ飛ばされたのに、何も体内に入らなかったらしく、動きには何の問題もない。
一条は自分が入って来た窓際を見ながら、ポツリと呟いた。
「加減、やめるか・・・」
殺すつもりでやるぐらいが丁度いい。
そう判断すると床を蹴った。
少女の気配に向かって、ビルから砲弾のように飛び出す。
雛魅は車が邪魔になると判断したのか、殴打に使った車が随分離れた場所に落ちていた。
それが一瞬視界に入った後、彼女を間合に捉える。
「ッ!?」
手を伸ばせば届く距離にある敵の驚愕に見開かれた目を見ながら、一条は右手の直刀を上段から振るった。
彼のその一撃を、雛魅は大剣を水平に構えて防ぐ。
硬質な音と共に、靴底がアスファルトに沈んだ。それでも彼女は平然としている。
車を片手で振るうことができる者が、その程度の一撃を防げないわけがない。
そのことを見越して、一条は既に二撃目を放っている。
左手の直剣を左から右へーーーーー心臓ごと胴体を斬る軌道で振るう。
これを雛魅は、切っ先を左上に柄を右下に大剣を傾けることで、一条の《黒刃》を二本同時に防ぐ。
そこで動きを止めず、右へ大剣を押し込み、攻撃を退ける。
足場がない一条は、それに対して踏ん張りがきかず容易に退けられた。それだけに留まらず、《黒刃》を持った両手がそれに引っ張られた。
そして、両手の次は両腕、次は上半身と、連鎖的に体勢が崩れるが、一条はそれすらも利用する。
押された上半身と入れ替わるように、空中で蹴りを放った。
ドッ、という鈍い軽音。
軽い蹴りは相手の左腕で防がれたが、それでいい。
唯一の接地点に爪先を引っ掛け、体を引き寄せ、《黒刃》を振う。
「ぐっ!?」
雛魅は紙一重のところで、バックステップで避ける。
どさっ、と軽い音を立てて、身につけていた彼女の軍用ベストが路上に散らばった。
それを一瞥もすることなく、着地した一条は再度肉薄する。
雛魅も両手で大剣を持ち直し、迎え撃つ。
銀色の尾をひく銀色の双眸と銀色の隻眼が、再び交差した。
「「ーーーーーッ!!!!」」
ーーーーーガンガンガギンギンガンガギガンギギン!!!!
壮絶な剣戟が始まった。
一条は大剣の一瞬のスイングに合わせ、無理矢理攻撃を避ける戦法に切り替えた。
流すことも防ぐこともできない重撃なら、剣と剣の接点を支点に、自分から動けばいい。
一歩間違えれば《黒刃》ごと両断される無茶苦茶な戦法で攻勢に入り、真っ向から張り合おうとする。
躱し、振るい、流し、薙ぎ払い、防ぎ、突き、躱し、また振るう。
彼らの攻防は体がぶれて見え、瞳と《黒刃》の刃が残す銀色の軌跡しかはっきりと視認できない驚異的速度まで達しても、まだ加速する。
やがて亜音速まで達し、衝撃波を撒まき散らしながら動く彼らは一種の嵐だ。
劣化したアスファルトは弾け飛び、そこいらに転がっている《擬食者》の死体は吹き飛ぶ。
二人の装備品はこの様な戦闘を想定し耐久性に優れているが、《黒刃》で斬られれば壊れるし、これほどの動きを続けて、体が保つかどうかは別の話である。
ミシミシと悲鳴をあげ、限界が近い体。
しかし、それを無視して二人共剣を振るう。
そして、没頭していく思考。
(手強いな・・・。だがーーーーー)
(強いッ。擬態していてこの強さ・・・。けどーーーーー)
互いに、戦闘と思考を並行して続けながら、心中で叫ぶ。
( (勝つ!!) )
直後、さらに剣戟が加速した。
ーーーーーギガガギギガギガギギガガガギガギン!!!!!!
一瞬のうちに、数え切れないほどの打ち合い。
だが、それを経て、限界が訪れた。
パキンッ、という高い音。
宙を舞ったのは、両刃が銀色に光る半分ほどしかない剣。
一条の左手の《黒刃》が、折れていた。
瞬間、雛魅の目がギラリと殺気を帯びた。
それに対して一条は、全力のバックステップで後退を始める。
一本の《黒刃》だけでは決め手に欠ける。
折れた《黒刃》を捨て、太腿の横にある短剣型の《黒刃》を抜いて発動すると、時間稼ぎの為雛魅に投擲した。
肘から先のスナップで。流れるように放たれたそれを、彼女は易々と大剣で弾くが、気が逸れ、僅かなタイムロスを生む。
隙にすらならない程度に逸れた意識。
一条はそれを狙って、本気の殺意を向けた。
「ッ!?」
投擲された《黒刃》に意識が向いた瞬間、雛魅を襲った殺気。
優勢のはずなのに、それを覆されるかもしれないという根拠のない警戒心が芽生え、僅かに身構える。
一条は、意識が自分に向き直った雛魅の目の前で、《黒刃》を振るった。
だが、彼女は間合に居ない。
斬ったのは、自分自身の左手首。
激しく動き回っていたことで血行が良くなっていた為か、手首の切断面から勢いよく血が溢れた。
「なっ!?」
それを見て絶句した雛魅に向かって、《擬食者》の墨色の血とは似ても似つかない真紅の血を浴びせるように、手首から先がない左腕を振るった。
身構えていたところに来た予想外の反撃。
この上ない『咄嗟に動けない』状況で迫るのは、視界を潰す『赤』。
「ッ!!」
なんとか左手を眼前に掲げて目を守る。
だが、その間に遮断された視界を元に戻しても、一条を認識することはできなかった。
彼は、手を斬り落としたことで発生した激痛の中でも、ただ静かに動いていた。
(この程度の痛みーーーーー)
あの時に比べれば、と続けながら、先ほどの殺気など見る影もないほど、気配と共に殺す。
《擬食者》達に囲まれた時と同じ。
それは、自分の存在を自ら否定するかのようだった。
踏み込んで右手の《黒刃》を上段から振り下ろし、決着をつける。
大剣とその柄を掴んだままの両手が落下を始めた。
雛魅からすれば、気づいたら両手首を斬られていたように思えただろう。
彼女は、大剣が地面に落ちた音と共に襲った、突然の激痛に膝を着いて呻く。
一条は雛魅をただ見下ろし、もう一度《黒刃》を振りかぶった。
(ここに留まるには、騒ぎ過ぎたな。場所を移すか・・・)
手加減をしなかった為、《擬食者》が集まっていないこの状況の方が不可解だと言える程の剣戟を響かせた。
一条は、《擬食者》が来る前にさっさと去ろうと思い、 彼女の絶望に染まりかけた視線を無視して直刀を振るう。
だが、《黒刃》は振り切られることなく、雛魅の首ギリギリで止まっていた。
彼女は、状況に頭がついて来ないのか、目を白黒させていたが、両手が完治した頃落ちていた大剣を拾いつつ、一条から距離をとる。
一条は離れた彼女から視線を外し、明後日の方向を向くと小さく舌打ちした。
(何だ、この殺気は・・・。誰だ?)
強烈な殺気が、かなりの速度でこちらに近づいて来る。
すぐにここにたどり着くだろう。
そんな距離まで接近に気づかなかったのは、戦闘の最中だったからか、相手が意図的に殺気を隠していたからか。
一条は生え変わっていた左手で、周囲にある《擬食者》の死体から代わりの直剣型の《黒刃》を二本拾い、ついでに投げた短剣も回収する。
(こいつの仲間・・・、とは考えにくいか)
雛魅の仲間なら《偽抗者》だろうが、わざわざ殺気を出して、《擬食者》達に居場所を教えるメリットがない。
(逃げるか?だがこいつはどうする・・・。素直について来るとも、今ここで俺の質問に答えるとも思えないが・・・)
一人で頭を悩ませていると、声をかけられた。
「なんで、止めたの?」
この場で一条に声をかける人物など一人だけだ。
『止めた』というのは、最後のとどめのことだろう。
「分からないのか?新手だ」
一条は短剣を太腿に装着してから、雛魅に向き直り、前と同じ質問をした。
「《神位種》について、何か知っているか?」
「・・・君はーーーーー」
雛魅は何か言おうとしたが、その前に、殺気の主が姿を現す。
そいつは、高層ビルの屋上から降って来た。
ズドンッ!!と重々しい音を立て、アスファルトに放射状のひび割れを入れながら、雛魅の背後に着地したのは、通常の姿とはかけ離れた三メートル近い巨躯の《擬食者》。
《変位種》だった。
一条はやっと理解した。
(《優位種》が言ってた『邪魔』は、生存者じゃない・・・《変位種》だ!)
思考しつつ迎撃態勢をとる。
《変位種》は《優位種》以上に数が少なく、遭遇することなど稀だ。
そして、理性がない。
ただ《銀血》を求めるだけの獣だ。
それを差し引いても、総合的な能力は《優位種》より高いことがざらなのだから笑えない。
一条と雛魅の戦闘によって《擬食者》が来なかったのも、《変位種》の来襲を予期していたからかもしれない。
《変位種》は、雛魅の頭上で大きく口を開いた。
雛魅は《変位種》が着地した影響で、体勢を崩しており、回避できそうにない。
一条は茫然としながらこぼした。
「ちょっと待て・・・」
この距離では間に合わない、と彼が判断するのとほぼ同時に、マスクで覆われた少女の頭部は、《変位種》の口の中に消えた。
読んでくださってありがとうございます。
また来週・・・会えるかな?´д` ;
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