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銀色の双眸  作者: 熢火
第一章-Real Name. 〜《第二都市》編〜
3/18

夜色の廃都

遅くなりました。


説明が続きます。ご了承くださいm(_ _)m

本来なら部屋の中も明るい日没前。しかし、他の超高層の建築物が陽当たりを阻害し、部屋の中は既に暗くなり始めていた。


《第二都市》の夜は暗い。

暗いといっても他の都市に比べての話であって、人類の支配が終わった『外』よりは当然明るいが。


支配が終わったというのは、百年近く前に突如として現れた《擬食者》達によって、人類の活動領域が著しく狭まったという意味だ。我が物顔で人々が住んでいた街は、今や自然に飲み込まれている。


身体能力は人間より高いものの、使う武器は近接戦闘用の《黒刃》のみ。

人類より圧倒的に頭数が少ないそんな《擬食者》達の侵攻を阻めなかった理由は、大きく分けて三つある。


一つ目は、高い不死性。《銀血》による反則なまでの再生能力。


二つ目は、《擬食者》の全身を覆う銀濁色の甲皮。対物ライフルや核爆弾などでも傷をつけることができない程の硬度と靭性を兼ね備えている。

再生能力と合わせれば、関節や眼球といった弱点を狙おうとも、再起不能にできる方法は限りなく少なく困難を極める。


三つ目は、捕食対象の姿を完全再現することができる擬態能力(・・・・)。これが最も《擬食者》を脅威たらしめた。


擬態の欠点は、記憶を引き継げないという見ず知らずの他人同士では、《擬食者》かどうか判断しようのないものだった。

それでも人類が絶滅しなかったのは、人間のしぶとさと言ったところか。だが《擬食者》に対抗する術を確立するまでに、人類の総人口は十分の一まで減少した。


その対抗する術というものは、《擬食者》の甲皮を易々と斬り裂く《黒刃》を扱えるようにすることだった。

だが、《黒刃》を発動させるには《銀血》が必要となる。


この《銀血》は《擬食者》の体内にしか存在せず、『普通』の人間には扱えない。つまり、一条のような『異常』な存在でなければならない。


偽抗者(ぎこうしゃ)》。

倫理など無視して、《擬食者》の因子を人間に組み込んでつくられた存在。

人の姿をした《擬食者》。

《銀血》を保有していることから、《黒刃》を扱うことができ、《擬食者》差ながらの身体能力と不死性を持つ。ただし、《擬食者》のような甲皮はなく、体の耐久性は常人よりは高いものの、《擬食者》には劣る。


十人に一人は《偽抗者》と言われる程、今や珍しくもない存在となっており、《黒刃》は《擬食者》に対して最も有効な武器と認識されている。


閑話休題。

そんな敵対生物の力をその身に宿す人々が普通に街に居る現代は、様々な発電によって街中の電気を自動で賄い、人が居なくても電気は供給され続ける。

二年前に廃都と化した《第二都市》でもライフライン生きている場所は珍しくなく、街灯など自動点灯の物が、暗くなれば今でも明かりを灯す。

だが、『神』が襲来した際に起きた騒動で、街は破壊の波に呑まれた。街灯もそのときに多く壊されている。

だから、暗く静かになる。


一条は、そうなる前に拠点としている建物へと戻り、食事を済ませ休息に入る。

彼は電気や水道が生きている場所を拠点に選ぶが、夜に明かりなどつければ格好の的になることは言うまでもない為、室内の照明をつけることはしない。


一条が拠点としている建物は、高層マンションの地上六階の一室で、中には《黒刃(こくじん)》などの装備品の予備や、携帯食料を入れたバックが用意されている。

六階を選んだ理由は、強襲され逃げる際に、飛び降りても無傷で着地できる高さだからだ。そして、すぐに逃げられるように、コンバットブーツを脱ぐことはほとんどない。


彼の戦闘能力は低くない。その辺をうろついている《擬食者》では、相手にならないだろう。

だというのに、逃げることも想定しているほどの用心深さだ。


ちなみに、《擬食者》は脅威度順にランク付けされており、下から《劣位種》、《平位種》、《優位種》となっている。特殊な例として、《銀血》を短時間のうちに大量摂取したが為に、姿形が変わった《擬食者》を《変位種》と呼ぶ。さらに、その各ランクごとに《下位》、《中位》、《上位》と分けられる。


《変位種 上位》ともなれば化け物で、一体で街が滅ぼされても不思議ではないレベルだが、その怪物より上の存在も居る。

その《擬食者》は約二年前に《第二都市》に襲来し、都市の防衛線を壊滅状態に追い込んだ。

《擬食者》達を撃退する術を失った《第二都市》は、それが原因で崩壊した。


『その《擬食者》』と『他の《擬食者》』との間には、絶対的な壁があると言われ、《変位種 上位》をも寄せつけないほどの強さ故に、こう呼ばれるようになった。

《神位種》。


それが『神』。

一条が捜している《擬食者》だ。


一条の実力的に、《優位種 上位》レベルの敵が襲って来なければ問題ない。そんな《優位種》も数万から数十万体に一体の割合だ。


ほとんど寝る為だけの拠点とはいえ、生活感が出るのを防ぐ為一箇所に留まることもしない。装備品の予備や食料を入れたバックと共に、一週間もしないうちに拠点を変更している。

そうした拠点変更や、バックに入れてある物の他に、都市の約十箇所に装備品の予備や食料が備蓄してあること、さらに、拠点の出入りは《擬食者》に尾行されていることも考え、ーーーーー彼の索敵能力的にそれはほぼありえないがーーーーー回りくどい道を通る念の入れようだと知れば、その用心深さもわかるだろう。


そんな用心深い一条は、リビングの壁に背を預け食事をしていた。

食べているのは、ナリッシュメイトという携帯食料だ。


ナリッシュメイトは、元々非常食として作られていることもあって保存がきき、長さ十センチほどの直方体のそれ二本で、一食分栄養が得られるという優れものだ。

だが、ナリッシュメイトとは『栄養(ナリッシュメント)』と『仲間(メイト)』をかけたネーミングセンスが破滅的な商品だが、味など考慮されていない。味を知らない十人に食べさせたら、その全員が確実に吐き出すほど不味い。

クラスメイトやチームメイトのように、『メイト』は複合語として『仲間』などを表すが、味を知った者とは『仲間』になど到底なれないだろう。

しかし、例外が約一名。


一条は、ナリッシュメイトを躊躇なく食べ続けていた。表情に変化は見られない。

ポーカーフェイスではなく、既に慣れているのだ。


スムーズに食べることができれば、二本分でも量が少ないナリッシュメイトを食べきるのに、そう時間はかからない。

充分な栄養が摂取でき、保存がきき、短時間で食べられる。ただし、とにかく不味い。

味を気にしない合理主義者が求めるような食べ物のお仲間になれたのは、人間の娯楽の一つである食事を、ただの栄養摂取と考えられる精神を持った彼ぐらいであった。


ナリッシュメイトを食べ終えた一条は、キッチンで水を飲むことで乾いた喉を潤すと、もう一度リビングに戻り、置いてあるソファーを無視してフローリングの床に腰を下ろした。座るのに邪魔にならないように、《黒刃》は全て外すのも忘れない。

胡座をかくと、外した《黒刃》を一本一本メンテナンスしていき、それが終わると、今度はその他の装備品のメンテナンスを始める。


装備の欠陥は、戦場で暮らす者にとって死に直結することだ。

《擬食者》の筋力は、『人間』よりも遥かに高い。それに張り合う一条も相当だが、筋力が高い者同士が武器をぶつけ合えば、武器にかかる負荷も大きくなる。

他の装備品も同じで、高い身体能力相応の動きをすれば、負荷がかかり、壊れやすくなる。

だからこそ彼は、毎日欠かさずメンテナンスを行うようにしていた。


(いきなり武器が折れるなんて笑えないしな)


全ての装備品のメンテナンスが終わる頃には、普通の人間ならほとんど何も見えないほど室内は暗くなっていたが、夜目が効く一条には、最後に確認したブーツの靴紐まではっきりと見えていたので問題ない。


一条は、脇に置いておいた三本の《黒刃》を抱き抱えるようにして、胡座をかいたまま片膝を立てる。


(明日は住宅街に行ってみるか・・・)


彼は適当に明日の予定を決めながら目を閉じた。


街の一部だけで活動するより、全体を巡った方が《擬食者》と多く戦える。

それは、ここ二年半で学んだことであった。


普段は布で体を拭く程度で、風呂やシャワーはほとんど使わないせいか、わずかに汗臭さを感じたが、彼は気にすることなく、すぐに浅い眠りに入った。





一条は深夜一時を過ぎたあたりに目を覚ました。

《擬食者》の接近に気づいて目を覚ましたのではなく、十分な睡眠をとった為勝手に目が覚めたのだ。

夜の戦闘を避けている一条が、目が覚めたからといって深夜に拠点から出るはずがなく、《黒刃(こくじん)》を脇に置いて、寝ている間に固まった体を解し始める。


彼が夜の戦闘を避けているのは、真っ暗な中で《黒刃》を使用すれば、銀光が目立つからという理由が大きい。

目立てば、他の《擬食者》を呼び寄せる。呼び寄せられた《擬食者》は、さらに他の《擬食者》を呼び寄せる。

雪だるま方式に戦闘が大規模化すれば、加減などできず、ただの殺し合いになりかねない。


それでは意味がない。

一条の目先の目標は、『神』の情報を集めることであって、《擬食者》を殺すことではないのだ。

さらに、大規模化した戦闘の影響で、《変位種》が現れでもしたら厄介極まりない。


知能では、《優位種》どころか《平位種》にも劣るものの、身体能力は《変位種 下位》で《優位種 上位》に匹敵する。

だが、《変位種》の最も恐ろしいところは身体能力ではなく、共食いすることだ。

《擬食者》の胃は特殊で、一部の物は即吸収する。

人間の肉体然り、《擬食者》の《銀血(ぎんけつ)》然り。

つまり、《変位種》は周りに居る《擬食者》の分だけ、《銀血》を得ることができる。

そんな《変位種》の《銀血》を枯渇させるのは難しい。《擬食者》が数多く居る《第二都市》ではなおさらである。


体を解した一条は、邪魔になる軍用ベストを脱ぐと、一時間近くかけて柔軟を徹底的に行った。

だが、それを終えた後は特にトレーニングなどをすることはない。トレーニングなどは、意味のないことだ。


《偽抗者》の体質は、筋肉の破損を許さない。

どれだけ筋力トレーニングを行っても、筋肉は傷ついた傍から《銀血》によって、元の状態に復元される(・・・・・・・・・・)

筋肉を鍛えたかったら毎日体を動かし、その『筋肉が必要』という環境に体を順応させ、少しずつ筋肉をつけていくしかない。


そもそも一条にとって筋力は、『高い身体能力の実現』ではなく、『高い耐久性の実現』という役割が大きい。


高い身体能力は、《銀血》によって簡単に実現できるが、強化された身体能力に任せて動けば、脆弱な肉体では耐えきれず損傷してしまう。

肉体が損傷しても治癒するが、それでは《銀血》の浪費となる。

だからこその『高い耐久性の実現』なのだ。


柔軟を終えた一条は、シャワー代わりに濡れたタオルで全身を拭き、早いが朝食としてナリッシュメイトを食べ始める。

咀嚼していたナリッシュメイトの味が口内に広がるが、気にせず呑み込み、残ったもう一本も口にしようとして、そこで手を止めた。

テラスとリビングを隔てている大窓から、外を睨むようにーーーーー実際は目つきが悪いだけであるがーーーーー見つめる。


彼の視線の先には、曇っているせいか月明かりに照らされていない隣のマンションがあるだけだ。


一条は視線を室内に戻し、残ったナリッシュメイトを口に詰め込むと、軍用ベストを掴んで、音も無く立ち上がった。

手際よく軍用ベストを着て、床に置いてあった《黒刃》の留め具が着いた三本のベルトを着けると、それぞれの留め具に《黒刃》を固定し、キッチンで水を飲んでから外に出る。

音を立てないように注意しながらドアを閉めた彼の体を、夜のうちに冷やされ涼しくなった外気が包んだ。


閉まったドアのノブの上部に付いている電子錠のランプが緑から赤になり、オートロックがなされたと利用者に告げる。

月と星が雲で遮られ、外は真っ暗に近い状態だった。夜明けまで、あと一、二時間はあるだろう。


一条は暗闇であることなど気にせず、外廊下から上階の外廊下へと軽々と跳び移り、階段などは使わず、屋上へと移動する。

一歩間違えれば真っ逆さまだというのに、彼は臆することなく登り続け、すぐに屋上に着いた。

一条は、汗一つかいていない顔で、曇天の夜空を見上げた。


三十階を超える高層マンションの屋上から見える空の広さは、高層建築物に囲まれた地上から見た時よりも、当然広かった。

《第二都市》の夜は暗い為、星空は一層輝いて見えるが、今日の天候はあいにくの曇りだ。星どころか月すら出ていない。

だが、夜空に星が輝いていない状態、つまり空が真っ黒の状態だからこそ目立つものはある。

一条が見ているなか、遥か上空で銀光が閃いた。


(《黒刃》・・・?)


一条は、怪訝そうにしながら、銀光が閃いた付近を目を凝らして見る。

見えたのは、(ほとばし)る紫電と、それに照らされた片翼がない飛行機だった。


(都市内に落ちる・・・。面倒くさいが行ってみるか・・・)


一条はそう判断すると、瞬時に墜落地点を予測し、気怠そうな表情をしつつそこへ向かって走り出す。


静寂に包まれている《第二都市》に飛行機など墜落すれば、数多くの《擬食者》が寄って来ること間違いなしだ。無論、《優位種》や《変位種》も例外ではない。

だが、知能が高い《優位種》が《神位種》の情報を持っている確率は、《平位種》や《劣位種》に比べると高い。

《優位種》の知能が、人間より優れていることは珍しくなく、《神位種》が手駒にしている、もしくは過去に接触したことがある可能性もある。


だが、《優位種》は多数の《平位種》を従えていることがある。

その場合、《優位種》と多数の《平位種》を同時に相手にしなければならないことから、当然リスクは大きくなる。

手加減できず、情報を聞き出す前に殺してしまうかもしれない。

しかし、飛行機が墜落すれば、まず《平位種》に様子を見に行かせるだろう。そうすれば、《優位種》の周りの《擬食者》が減り、結果的に戦闘が楽になる。


(《優位種》がいるなら、《平位種(雑魚)》が集まる前に戦いたいところだな)


一条は、ビルやマンションの屋上から屋上へと移動する速度を上げた。

読んでくださってありがとうございます。

次話は29日20:00の予定です。


Twitterで予定変更などお知らせしています。

@Hohka_noroshibi




・《擬食者》は約100年前に突如現れ、人類の領域は大きく狭まり、総人口は1/10まで減った。

・《擬食者》の体を覆う甲皮はあまりに頑丈で、《黒刃》でなければ傷つけることすらできない。

・《擬食者》は甲皮で覆えない関節や眼球が弱点だが、《銀血》による再生能力的に従来の武器では効果は薄い。

・《擬食者》は捕食した相手の姿に擬態できる。ただし記憶は引き継げない。

・《擬食者》は驚異度順にランクづけされている。下から、《劣位種》《平位種》《優位種》《神位種》。短期間に大量の《銀血》を摂取し、姿が変異した個体を《変位種》と呼ぶ。さらに各ランクごとに《下位》《中位》《上位》と分けられる。

・《優位種 上位》は数万〜数十万体に1体。

・知能が高く強い《擬食者》の方が《神位種》の情報を持っている可能性が高いが、他の《擬食者》を従えていることもある。

・《黒刃》は《擬食者》に最も有効な武器だが、《銀血》を持たない普通の人間には扱えない。だから《偽抗者》がつくられた。

・《擬食者》にも劣らない身体能力と不死性を有する《偽抗者》は、今や10人に1人の割合である。一条も《偽抗者》に分類される 。

・《偽抗者》に筋トレはほとんど意味がない。

・《神位種》の襲来で廃都と化して2年以上経つが、《第二都市》のライフラインは生きている場所が多い。

・一条は《第二都市》中に多くの拠点を用意しており、一週間以内に移動を続けている。

・一条は6階から飛び降りても無傷でいられる。

・ナリッシュメイトはゲロまずな一品だが、一条は気にしない。

・一条には面倒くさがりな一面があるようだ。

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