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銀色の双眸  作者: 熢火
第一章-Real Name. 〜《第二都市》編〜
17/18

深黒の命刀

いきなりの更新日変更と更新が遅れたこと、申し訳ありません。


前回のあらすじ

《擬食者》の群れを殲滅の一歩手前まで追い詰めた一条の元に、再び《変位種》が現れた。

一条は、完全な《中位》となった《変位種》に手も足も出ずに、助けに入った雛魅もろとも殺されかける。

そして一条は、トドメの一撃から自分を守ろうと《変位種》の前に立ち塞がった雛魅を庇ったことで死に、あの日と同じように蘇る。

ぶわっ、と一条の左腕の断面と胸の傷から銀光が湧き水のように溢れ出した。

膨れ上がる銀光は、傷口を押さえていた雛魅の手を押し退け、彼女の頭上に迫っていた《変位種》の腕を斬り飛ばした。


人の背丈程もある丸太のような腕が、数秒の滞空を経て地面に叩きつけられ、墨汁のような血が一際強く飛び散る。


腕を失った《変位種》が飛び退ると、少年はゆっくり身を起こした。


傷が治る。

千切れていた右腕が、

臓腑がはみ出していた腹の穴が、

切断されていた両脚が、

元の姿を取り戻す。


一条が再び立ち上がると、一定以上の大きさになっていた銀光は鎮火するように消え、後には斬り落とされたはずの左腕と、胸の傷から翼が出現した。

そのどちらも、人の血肉とは異なる墨色。


(つば、さ?傷が治った・・・?)


一条の《銀血》は枯渇していたはずだ。再生は止まり、死にかけていた。

そのはずなのに、再生能力が戻るとはどういうことだ。

そもそも、左腕と胸の傷は治ったと言うより、


(侵食・・・?まさ、か、『擬食者化』・・・?)


雛魅は状況に理解が追いつけず目を白黒させた。

違和感もある。

いつもは薄い彼の存在感がはっきりしている。

だが、間違いなく生きているという事実だけは受け止めることができた。


「いちじょう君、生きてーーーーー」


名前を呼ぶと、銀色の双眸が雛魅を捉えた。


生きている。助かった。そう思った。

だが、違った。


目が合うと同時に、心臓を握り潰されるような威圧感を覚えた。

別人だと直感で理解できた。


「っッ!?!?だれーーーーー」

「・・・」


問いかけようとした雛魅に、一条だったはずの人物は翼を差し向けた。

翼はまるで針金のように細かく分裂し、触手のように動いた。


雛魅は咄嗟に逃げようとするが、思い出したかのように腹部の激痛が襲った。吐血し、意識が低迷し始める。


(まず、いーーーーー)


殺されるのかと思いながらも、ろくな対応もできずその場に倒れそうになる彼女を分裂した翼が支えた。


「え・・・?」

「・・・我慢して」


頭上に疑問符を浮かべたのも束の間、雛魅が『別人』と断定した一条は冷淡な指示を出すと、翼の先端を腹部の傷にねじ込んだ。


「ッ!?あアぁぁぁッ!?!?」


雛魅は身をよじって逃げようとするが、全身に絡みつく触手状の翼を振りほどけない。

翼が傷口を抉り、さらに血が流れたことで意識が沈みそうになり、激痛でまた浮上する。掻き乱れる思考の中で聞こえるのは自分の絶叫だけだった。


対し、一条は心中で抑揚のない平坦な言葉を紡いだ。


(DNAの解析を開始、対象と自己の《銀血》の適合率を確認)


「DNA解析完了」


(適合率三十パーセント以下。拒絶反応の可能性を考慮し、自己の《銀血》を対象の体へ適性化)


「適性化完了」


(自己の《銀血》による対象の傷の修復開始)


「・・・修復完了」


悲鳴を無視した一条が三度目の工程完了を告げると、雛魅の全身の傷は完治した。


傷が治ったことで痛みが引き、鮮明になった思考で彼女は驚きの声をあげた。


「傷が・・・!」


絡みついていた触手状の翼は、少女を静かに地面に降ろすと解け、元の形に戻った。


拘束を解かれた雛魅は、恐る恐る腹部の穴が開いていた場所に触れてみるが、痛みはなく、肌の柔らかい感触が返ってきた。


痕すら残らない超速再生。

間違いなく《銀血》による再生能力だが、自分の《銀血》で他人の傷を癒すなど聞いたことがなかった。


「君は、・・・誰なの・・・?」


思わず問いかけた雛魅は、威圧感に怯みそうになるが、合わせた目は逸らさない。


一条はただ黙って彼女の目を見つめていたが、根負けするように息を吐いた。威圧感に負けると踏んでいたようだ。


雛魅はその仕草から人間味を感じ取った。同時に、威圧感を放っているが、傷を治してくれたこともあり悪い存在ではないようにも思えた。


一条は諦め半分に口を開いた。


「・・・私は(・・)ーーーーー」

「おシ!?まやさカ、さミ、カミゅッ!?」


自分を私と称した一条の言葉を、《変位種》の滅茶苦茶な言葉が遮る。


「あハイ、堕ハしたザいッ!!」


何が面白いのか、《変位種》は涎を撒き散らしながら心底可笑しそうに嗤う。


一条は、耳を塞ぎたくなるような気持ちの悪い狂笑に、同調するように(・・・・・・・)微笑むと目を向けた。


「どうかしたの?なり損ない(・・・・・)


絶対零度。雛魅が初めて見た笑顔は、そう表現するのが適切な程冷たかった。


笑いから一転、《変位種》は黙り込み、冷笑を映した眼に怯えの色が浮かぶ。

一条は体も《変位種》の方へ向けると、雛魅を振り返らずに会話を打ち切った。


「私のことはタクミに聴いて」


返答を待たず、一歩踏み出した。

その素足に黒い血管が浮かび上がり、肌が墨色に変色した。


直後、一条と《変位種》がほぼ同時に消えた。

各々の足が接地していた地面が抉れる。


《変位種》は、体から生える三桁もあろうかという触手全てを、攻撃という名の時間稼ぎに当て逃走を図った。

一条は、階段に突き刺さっていた直刀を左手で引き抜き、発動した。間合いに入った触手を片っ端から全て切断しながら、逃げようとする相手を上回る速度で肉薄する。


《変位種》は驚愕に目を剥き、剣を振り回す少年の接近を拒むように腕を振り下ろした。


「りゅガあァァアぁぁぁッッ!!」

「私が『堕在』なら、あなたは『堕物』ね・・・」


一条は、さらに加速した。怯えるように振り下ろされた腕を相手の懐に踏み込むことで避けつつ、すれ違いざまに直刀を上から下へ一閃。


《変位種》の頭部が二つに割れ、黒ずんだ脳漿が墨色の血と混ざり合う。

触手を含めた動きが止まった。

数秒後には復活するだろうが、一秒もいらない。


一条の胸の傷から生えた翼が根元から三枚に分裂する。

分裂した翼の先端が圧縮凝固して、墨色から全てを飲み込むような漆黒になり、銀色に輝いた。

全てを斬り裂く最強の刃と化す。


三枚の銀刃が伸び、《変位種》を下から貫いた。

怪物に相応しい巨体が、軽々と宙に持ち上がる。


一条は墨汁のシャワーを浴びながら、その場で旋回。翼もそれに合わせて大きく回り、働いた遠心力と共に投げ飛ばした。

入り口を破壊し、中央ビルに突っ込んだ《変位種》は、広々としたロビーの中央付近でやっと止まる。


唸り声をあげ殺気と怒気で満たされた複数の眼が、破壊された入り口に立った一条を射抜いた。

だが、音速を超えて殺到する触手が彼を傷付けることはない。

一条は右手に持ち替えた直刀で斬り払いつつ、《変位種》に歩み寄った。

黒い残像が《変位種》との間の空間を染め上げ、《黒刃》の軌跡が一条を守るように展開される。

まるで黒い瘴気と銀色の盾だ。


切り離された触手が次々に転がり、墨汁が屋内を汚す。接近する程それは加速した。


「キリがない・・・」


一条は距離が半分になったところで、一際強く一歩を踏み出す。

三枚の翼で触手を一蹴し、さらに接近。返す刀で《変位種》の四肢ならぬ五肢を斬り落とした。懐に再度踏み込む。

直刀の逆袈裟斬りで胸の甲皮を斬り裂き、入れ替わるように放たれた左手の手刀を切り目にねじ込んだ。

手脚を斬り落とされ崩れ落ちる体を腕一本で支える。


「『血』、もらっていくわ」

「!?」


そのまま《銀血》の生成器官である心臓まで貫き、干渉、《銀血》を容赦無く奪い取る。


断末魔に似た絶叫がビルの中に響いた。


「ッっっギャがあァァ!?!?アアあァァァアるラぁあああアガァァッッっ!!!!????」


《変位種》は腕を集中的に再生させ、やっとの反撃で一条を振り払う頃には、《銀血》が枯渇寸前になっていた。

僅かに残った分も心臓を治すので使い切り、手脚の再生は半端なところで止まる。半端な手脚と暴落した身体能力では、肥大化した体を支え切れず、その場に崩れ落ちた。


「聞こえてるでしょ?『採点係(・・・)』」


一条が見下ろす、《変位種(優位種)》の目に理性の光が宿った。


「ア、タは・・・、かーーーーー」

「私は凛音(りんね)。お互い時間が無いから手短にいきましょ?」


一条は凛音と名乗り、《優位種》の言葉を遮ると、いきなり本題に入る。


「これが『神髄』よ。一端に過ぎないけどね」

「・・・ソゥ、でスか・・・」


反応が素っ気ない。元々あまり興味が無く、死にかけている状態が拍車をかけているようだ。


「今私に何かできることはある?」

「アゼ、デ、すカ・・・?」

「ただの同情。同じく運命を歪められた者として・・・」


凛音の視線に憐憫の色が混ざる。


そういうことか。

理解した《優位種》は少し思案してから、気になったことを質問することにした。


「・・・答えテ、クダサイ。アナタハ、ナぜ、ソ、少ネ、ン・・・を」


思ってもみなかった質問に少し驚いた凛音の顔を、すぐに憂いが覆った。


「・・・そうね、強いて言うならーーーーー」





一条はいきなり意識が覚醒した。

睡眠とも違う、闇に沈んだ意識が浮上する感覚。

前にも体験したことがある、時間をスキップしたような違和感。


違和感は目の前の光景からだろう。

自分を殺そうとしていた《変位種》が死にかけていた。

何をどうすればこうなるか聞きたい。


意識が途切れる直前の記憶を遡り、状況を理解しようと試みるが逆効果だった。


(俺、死んだよな・・・?)


《銀血》が枯渇した状態で雛魅を庇い、致命傷を受けたはずだ。

それなのに傷が完治しており、体内が《銀血》で満たされていた。


《変位種》は誰がここまで追い込んだのか。


雛魅ではないだろう。彼女の気配は外にある。

気配がはっきりしていることから無事であると結論づけると、現状に対し、誰もが思いつくような在り来たりな推測を口にした。


「俺がやったのか・・・?」

「ソ、うダ・・・。イチ、条、タ、く・・・」


一条は珍しくギョッとした。頭の中を占めていた疑問や雛魅の無事に対する安堵などが、驚愕で消える。

狂獣が話すこと自体驚きだが、一条の名前を知っていることから、


「《優位種》なのか・・・?」


《変位種》の首が僅かに動いた。

肯定か否定か判断しかねる程度だが、すぐに話を進めるところをみると肯定のようだ。


「ジカン、が、無イ。答、ロ・・・。ナゼ、助ケ、ょうト、スる?人じ・・・、ナイ、ノニ・・・」


一条は誰のことを言っているのかすぐに分かった。

答えるべきか迷ったが、自分も聞きたいことがある為、答えることにした。


「・・・そんなこと関係ない。俺自身が助けたいと思ったから助ける。必ずだ・・・」

「・・・ナゼ、ソコマデ」


理解できないといった感じの質問に、今度は即答した。


「俺にとって大切な人だから」

「・・・ソ、か。・・・クハァハ、ハハ・・・」


空気を吐き出すような掠れた笑い声をあげた。

だが、その『笑い』には嘲りの色は無く、爽快ですらあるような気がした。


「第イチト、市に、行ケ。ソぉ、伝えロ、と、言われタ・・・」

「《第一都市》?」

「あァ・・・」


結局、《優位種》は駒でしかなかった。

《神位種》の手の平の上で踊っていた、もうすぐ退場する舞踏者。


一条も踊る舞踏者なのだろう。でもその戦いを最後の先まで(・・・・・・)見てみたいと思った。

同じ手の平に居るが、駒に甘んじた自分とは違い、足掻き続ける少年。戦いで見せたような加速する剣舞は、いずれ手の平(舞台)を破壊し、『神』と同じ土俵に立つだろう。


手の平(舞台)を破壊した時点で踊りは終わりだ。だからその先をーーーーー。

神殺し(戦い)を見たい。


「シテ、レ、ガ、・・・餞、ベッ・・・、だ」

「待てッ、お前をここまで追い詰めたのはーーーーー」

「ゴォ、・・・カ、ク・・・」


パキパキッ、と何かが凍るような音がした。音は断続的に鳴っていたが、鳴る間隔が狭くなっていき、ついには連続した音になった。

パキキキッパキパキキパキパキッ。

目に見えた変化が起こる。


《変位種》の背中に黒い突起が現れた。生え際は丁度心臓の真上辺りだろう。

音に伴って突起は伸びていき、最終的に一本の直刀の形を成した。


全体が黒く、特に刃は、他が薄い黒に見える程の深黒。


「ーーーーー」


言い切れなかった質問の答えは返ってこない。

一条は直刀を手にした。


「言いたいことだけ言いやがって・・・」


パキンッ、と心地いい音を奏で、《変位種》の背中から切っ先が離れる。

重い。手を通して命の重さが伝わってくるようだ。


一条は直刀を強く握りしめ、怪物の骸に成り果てた存在に背を向けた。

読んでくださってありがとうございますm(_ _)m

次話は12/4日(日)更新予定です。


Twitterにて更新予定の変更のお知らせ&友人M氏のイラスト公開中!

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