銀色の剣嵐
アンケートを参考に文字数を半分くらい減らしてみました。読みやすくなれば幸いです。
もう少しで1章完結する・・・予定です!
前回のあらすじ
《変位種》を殺すことを考える一条と、仲間が生きている僅かな可能性に賭ける雛魅は決別した。
雛魅は黒田達を捜し中央ビルへ向かうが、そこで《優位種》に仲間の末路と、彼らを殺した理由が雛魅を殺しやすくする為だったことを告げられる。そして、さらに仲間が殺された雛魅は生きることを諦めかけるが、一条の言葉を思い出し、最後まで足掻くことを決心する。
彼女は《優位種》が集めた《擬食者》の群れと戦うが、圧倒的な数の差に敗れてしまう。
そこへ一条が現れた。
⌘/数分前
空気を切り裂いて進む。靴底を削りながら建物を蹴り、暴力的なまでの推進力と飛翔力を得る。
屋上から屋上へと数棟飛ばしで飛ぶ。
減速する頃に足を着け、また加速する。
体が空中分解しそうになっても構わず走り続けた。
《擬食者》に見つかろうが関係ない。どうせ追いつけない。
銀眼が軌跡を残す黒い弾丸。
目の前に迫った中央ビルから放射状に伸びる道路へと進路を変える。
飛び降りたらひき肉だ。
だったら、と一条は逡巡することなく跳んだ。
屋上から看板へ。
看板から高架へ。
高架から外壁へ。
外壁から街灯へ。
足場を破壊しながら最終的に道路へ降りた。
(間に合え・・・!)
少年は一直線の道を全力で駆け抜けた。
*/数分後
歪んだ笑みが浮かぶ口元から、
「あと一駒」
*
「助ケル?オ前ガカ?」
《優位種》は嘲笑する。
「救エナカッタカラ、今コウシテイル分際デーーーーー」
言い終わる前に《優位種》が吹っ飛び、後方の《擬食者》の壁にぶち当たった。
《優位種》が先程まで立っていた場所では、一条が上げた足を下ろすところだった。蹴りを放ったのだ。
砕けた足の骨が治るのを感じながら、一条は雛魅に向き直ると、
「無様だな。まだ半日しか経ってないぞ」
いきなりの皮肉。
雛魅は弱々しく苦笑した。
「君にまで言われると傷つくんだけど・・・」
一条はそう言い合っている間にも、雛魅の体に刺さっている《黒刃》を二本握った。
「抜くぞ」
「え?」
発動させて一気に引き抜く。
銀色の切っ先が、紅い軌跡を残して姿を現す。
「ぐッツゥっ!?!?あああぁぁぁッ!!」
「うるさいし、動くな。面倒くさい」
動かれると無駄に体を傷つける。仕方なく片手で雛魅の体を押さえつけると、もう片方の手で刺さった《黒刃》を次々に抜いた。
《優位種》がどう動くかわからない。行動は早い方がいい。
というわけで、問答無用で《黒刃》を全て引き抜いた。障害物が無くなり、傷が治る。
「痛いよッ!もっと優しく抜いてくれてもいいでしょ!?」
「うるせぇ、無様の分際で文句言うな」
一条は苦情をあしらいつつ、いちいち面倒な反応をすることから雛魅が本人だと判断した。
彼女も一条の『両眼』から本人だと判断しているはずだ。
「まだ戦えるか?」
一条は、立ち上がった《優位種》に視線を向けながら、そばに落ちていた大剣を拾い上げ、雛魅を立たせる。
「《銀血》を使い過ぎたから厳しいかも・・・」
「やっぱりそうか・・・」
あぁ面倒くさい、と辟易といった感じでぼやいた一条に、雛魅は躊躇いがちに声をかけた。
「一条君、その・・・」
「何だ・・・?」
「・・・ありがとう、助けに来てくれて」
「礼はこの状況を切り抜けてからにしろ。それに、《変位種》を殺すのを手伝ってもらうからな」
「うん」
《変位種》が邪魔であることに変わりはない。その邪魔な存在は今は居ない。
一条は《銀血》を中央ビルに来るまでにある程度とは言え消費してしまった。《変位種》には万全の態勢で挑みたい彼にとっては都合がいい。
「・・・仲良クナッタナ」
《優位種》が会話に割り込む。
「ソノ女ヲ目ノ前デ殺シテヤロウ」
「・・・日向、大剣借りるぞ」
イントネーションが乱れた宣言を無視して、一条は雛魅の大剣を発動させた。
《偽抗者》にも腕力が強い者や足の速い者、視力が高い者など、突出する才能は人によって違う。
一条でも大剣は使えないことはないが、雛魅のようには扱えない。腕力に決定的な差があるからだ。
しかし、彼が気にした様子はない。どうするの?という雛魅の質問にも応えることなく、その場で大剣を腰溜めに振りかぶった。
雛魅は、彼が何をしようとしてるのかやっと理解した。
「ちょっと待っーーーーー」
「ッ!!!!」
一条は制止を無視してその場で一転。遠心力を乗せた大剣を《優位種》に向かって投擲した。
全てを切断する質量の塊が回転しながら飛来する。
「!?」
《優位種》は転がって避けた。弾くことなどできない。
《優位種》が避けたことで、背後の《擬食者》達が肉塊に変わる。
包囲網に穴が空いた。
一条は腕で雛魅の脚を背後からさらうと、バランスを崩して仰向けに倒れた彼女の背をもう片方の腕で支え走り出した。
悠然と包囲網を抜け、広場の階段を軽く飛び越えると、少し進んだところで足を止めた。雛魅を降ろす。
お姫様抱っこの状態から解放された彼女の顔は僅かに紅くなっていたが、一条は気にも留めず、背中から《黒刃》を抜くと押し付け背を向けた。
「中に居ろ」
「一条君は?」
一条は、階段下から忌々しげに睨んでくる《優位種》を見下ろし、雛魅の質問に傲岸に答えた。
「お前を助けるついでだ。今度こそ殺してやる」
「逃げないの!?」
「お前を担いで逃げるより楽だ」
「でもこの数は・・・」
「信じれないか?」
雛魅は、振り向いた一条から困ったように目を逸らした。
「その言い方はずるいよ・・・」
「知るか」
「・・・殺ス、カ。イイダロウ・・・」
やり取りを聞いていた《優位種》は、《黒刃》を一条に向ける。
「オ前ヲ潰シテカラ女ヲ殺ス。自分ノ無力サヲ知レ」
「それなら嫌っていうほど知ってる・・・」
自嘲を返しながら両腰の《黒刃》を抜き、だが、と皮肉に繋げる。
「お前より強い」
その言葉を合図に、《擬食者》が一斉に動き出した。
一条は《黒刃》を発動させつつ階段から跳び、濁流のような《擬食者》の群れの中へ身を投じた。
*
一条と《擬食者》達が接触した。直後、大量の墨色の血と、手足や頭部といった体の部位が舞った。
相手を斬り伏せて作り上げた空間に踏み込み、また相手を斬り伏せる。
時には相手の膝程度まで体勢を低くし、時には相手の頭上に、時には体を上下反転させ。奇抜的でありながら速度は殺さずに敵を屠る。
だが、まだ多数の《擬食者》が残っている。
雛魅は歯嚙みした。
「私が戦えれば・・・」
せめて、もっと数を減らせていれば。
意味をなさない思考だ。
雛魅は頭を振って思考を切り替えた。
(ここに居ても、一条君の邪魔にしかならない・・・)
雛魅は言われた通り中央ビルの中へ向かおうとして、足を止めた。
彼女の視線の先では、ヘリだった墜落物が今も黒煙を吐き出し続けている。
操縦士は死んだ。墜落前に見えたコックピットの様子から間違いないだろう。
(もし、私のせいで一条君まで・・・)
仲間が死ぬことへの恐怖心が鎌首をもたげた。
不安に駆られた雛魅は振り返り、戦う一条を見た。
彼は自分の攻撃だけでなく、相手の攻撃を利用して同士討ちまでも狙うが、接近される数の方が多い。《擬食者》は倒しても殺し切らなくては復活する。包囲され、既に押し切られそうになっていた。
「一条君・・・!」
一条が雛魅より強いと言えど、やはり無理があった。対多数戦では彼より雛魅に軍配が上がる。
(どうすれば・・・)
雛魅は打開策も思いつかぬまま飛び出しそうになった。
その時だった。
一条の戦い方が一変した。
持っていた《黒刃》を咥え、空いた手で倒した敵の《黒刃》を奪取した。
二刀から三刀へ手数を増やす。そこで止まらない。
倒れた《擬食者》の《黒刃》を蹴り上げ、すぐに体を捻りながら跳ぶことで、足元で復活した《擬食者》 の攻撃を回避。同時に膝の裏で、蹴り上げた《黒刃》を挟み、そのまま回転を伴った跳躍で背後の敵を貫いた。ついでに持っていた《黒刃》を奥の敵に突き刺し、膝の《黒刃》を持つ。
持っていた剣を突き刺し、持ち替える。
さらに、相手に刺した《黒刃》を回収し、落ちていた《黒刃》をまた蹴り上げ宙へ。相手を斬った《黒刃》を振るった勢いのまま放ると、落ちてきた《黒刃》が丁度手に収まった。
《黒刃》を持つのは手だけではない。体中の関節すら利用する。
一条の周囲を鮮血だけでなく、銀刃の黒剣が飛び交い始めた。 《擬食者》を倒し、落ちている《黒刃》を蹴り上げ、さらに手数を増やしていく。
敵を倒すごとに手数が増え、攻撃速度が加速した分倒す敵の数が増える。手数のインフレーションが起こる。
「あの戦い方は・・・」
雛魅は知っている。
『偽抗者序列』に登録している《偽抗者》なら、知らない者は居ないと言っても過言ではない程有名だ。
《黒刃》は斬れ味こそ最高峰と言えるが、攻撃範囲は剣そのものだ。《擬食者》の群を殲滅するには、《偽抗者》側もそれなりの人数が必要となる。
それを解決する為に生み出された、《擬食者》との対多数近接戦闘を少人数で行うことを想定した剣術。
《擬食者》に最も有効な《黒刃》を用いて、最も効率的に殲滅する剣技。
「ロイ・スミスの、」
周囲の《黒刃》の位置を把握しながら持ち替えることは、《偽抗者》の身体能力だからこそ可能だったが、多数の《擬食者》と戦いながら行わなくてはならない無理難題の為、編み出した《偽抗者》にしか扱えなかった。
それが目の前で実現されていた。
実現された唯一のはずの名は、。
「対多数式黒刃剣技・・・!」
彼女は思わず足を止め、その剣舞に魅入っていた。
今尚、剣舞は加速する。
*
一条は凄まじい速度と曲芸じみた動作をもって、敵を斬り伏せていた。返り血で黒く濡れながら、さらに流血を巻き起こす。
雛魅のように一撃で広範囲を薙ぎ払うことができない分、手数と速度で補う。だが、それでは敵を近寄らせ過ぎる。
《擬食者》は無力化された同族などお構いなしに殺到する。周りなど気にせず《黒刃》を振るう。
同士討ちを気にしない《擬食者》の群れは、最も確実に敵を潰す数の暴力として機能する。
だというのに、《擬食者》達は一条に群がることができなかった。間合いに入った瞬間にバラバラにされる。
一条の周りを大量の血と《黒刃》が飛び交う。無数の《黒刃》は、倒した《擬食者》から奪った物だ。
一条は《黒刃》を振るうとすぐの手放す。空いた手に、丁度落下中の《黒刃》が収まる。
斬る、手放す、掴む。ジャグリングの要領で繰り返される高速の斬撃。
それを両手に限らず、口から始まり体中の関節で挟むようにして行うことによって、普段の二刀を超えた手数を実現する。落ちてきた《黒刃》を蹴り飛ばし、持つことすらしないこともある。
手数のインフレーションの結果は、単純に斬撃の嵐だった。
雛魅が暴風なら、一条は疾風。
疾く、鋭く吹き抜ける風。
あまりの速度に一条の姿はブレる。彼が触れた《黒刃》は消失と出現を繰り返す。
銀閃が乱舞し、墨色に血煙る。《黒刃》が残す銀色の軌跡のみが、斬撃の数を物語った。
恐れを知らぬ《擬食者》達はそれでも接近を試み、手数の一部に変わる。時には《黒刃》を投擲され、なす術なく崩れ落ちる。
殲滅されるまで五分とかからないだろう。
*
「ダメだな」
異常に気配に敏感な少年に気づかれることなく、上空から戦いを眺めていた青年は駄目出しした。
「ダメダメ、全然駄目だ」
言いながらも、歪んだ笑み消えない。それどころか、歪んだ笑みをさらに歪める。
「それは真髄じゃない。それじゃ行き着く地点はあいつと変わらない。そのままじゃ、」
言葉を区切り、少し視線を上げた。
中央ビルの足元ではなく、広場から離れた場所を見る。
「絶対に届かない。さあ、今のお前じゃ届かない残りの一駒が来たぞ、どうする?」
読んでくださってありがとうございますm(_ _)m
次話は11/19(土)更新予定です。
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@Hohka_noroshibi