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銀色の双眸  作者: 熢火
序章-Last Christmas.
1/18

血色の救済

待っていてくれた方、ありがとうございます。

いつの間にか7月・・・。

書き溜めが全然できていなかったりします。

二一〇〇年 十二月二十五日 夜。


あと一週間で二十一世紀が終わり、二十二世紀が始まる。

だが、クリスマスを楽しむ人々にとっては二の次で、あまり関係のない話なのかもしれない。


世界に点々と都市が存在することも、

その全ての都市が周りを壁と兵器で守りを固めていることも、

捕食者達から今も狙われていることも、

同じようにあまり関係のない話だ。


その例に漏れず、日本《第二都市》のほとんどの住民にとっても、それらはどうでもいい話である。

歪んだ笑みを浮かべる、この男にとっても、だ。


男は、黒いパーカーのフードを目深かにかぶって、両手をポケットに突っ込み、背を街頭に預けていた。


クリスマスという理由もあるせいか、賑わいを見せる表通り。男が浮かべる『笑み』は、賑わいの一端を担っている人々の『笑み』とは全く別物だ。

これから起こる出来事を、否、現在も進行している出来事を、想像するだけで愉快で堪らないという『笑み』。


そんな彼に声をかける者はおらず、時折侮蔑の視線を向ける者はいるが、それもどうでもいいこと。

男にとっては、それら全て目の前を通り過ぎる羽虫以下の存在でしかない。手で払うことも、目で追うことすらしない、どうでもいいもの。

彼らが、現実から目を逸らして浮かべる『笑み』を壊すことも、嘲ける手間すらかけない。


どうでもよくないのは、現在も進行している出来事。


突如銃声が聞こえた。どこかで死闘が行われている。

だが、表通りを行く人々は誰一人として気づくことはない。

普通の聴覚では聞き取ることができないほど極小の音。


それを確かに耳にした男は、歪んだ笑みをより深くし、雑踏の中に消えて行った。





死闘は終わった。

その結果、銀髪の少年は血溜まりに沈んでいた。


十年生きたかどうかくらいという、死ぬにはまだ早いであろう年齢の彼には左腕が無かった。

友達の代わりに受けた凶刃によって、左腕は二の腕から綺麗に斬り落とされ、重度の裂傷が心臓付近まで達していた。


暗い。薄目の隙間からねじ込む照明の白い光が、視神経を刺激しているにもかかわらず、意識は今にも暗闇に閉ざされそうだ。

寒い。失血という内的要因から来る寒さは、冬の夜より凍える。


少年は漠然と思った。


(死ぬ、のかな・・・)


手足の感覚は消え、もう既に痛みすら感じない。

靄がかかったような意識では、死に対する恐怖や焦りすら覚えることができなかった。


(だっ、たら、伝えな、きゃ・・・)


ただ一人の友達に。

すぐ隣に居るのはなぜか理解できた。

少年は、白く冷たい太陽で眩む眼球に鞭打ち、視界に友達を収めようと瞼をこじ開けた。


友達ーーーーー黒髪の同い年くらいの少女は、やはりすぐそこに居た。血溜まりに膝をつき、少年を見下ろすような形だ。

目が合った。


大量の血を見ても表情を変えない、理知的というより冷淡。少年の意識がハッキリしていたなら、そんな彼女の目には疑問の色が浮かんでいたように思えただろう。


少年は最後の力を振り絞り、伝えたい想いを声にした。


「い、ぃ・・・っーーーーー」


だが、言葉にはならなかった。

少年の意識はそこで暗闇に沈み切った。


完全な喪失。凍えるような寒さ、ねじ込んで来るような光、濃厚な血の臭い、隣に居る友達の存在感、時間感覚も消失した。


だから、どのくらいの時間が経過したのか分からない。数秒なのか、数時間なのか、数日なのか、はたまた数年なのかすら。

もしくは、時間など関係ないのかもしれない。


重要なのは、


「ありがとう」


冷淡な印象なのに、微笑む姿が自然と思い浮かぶ少女の声と共に、全てが戻ったこと。

完全な意識の喪失の後は、完全な意識の覚醒。


凍えるような寒さは消え、代わりに体を濡らす血の感触と冷たさが。

隣に居た友達の存在は消え、代わりに少年を囲むように立って居た十人近い男達の存在が。

より鮮明に伝わって来る。


傷は痕を残しただけで治り、左腕も繋がっていた。

夢?幻?

違う。


少年は、変わらない照明の光と濃厚な血の臭いで、先程までのことが現実であることを認識し、少女が忽然と消えてしまった現状を理解した。血溜まりから立ち上がり、男達に目を向ける。


彼らの手にはそれぞれ武器があった。銃刀法に対して『抵触』では済まない代物ばかりだ。

それら全てが敵意と殺意を込めて、時間感覚を取り戻した(舞台に戻った)少年へ向けられた。


少年は臆さなかった。それどころか、男達に向ける視線に憎悪と憤怒をたぎらせた。

こいつらのせいで!お前らさえ居なければ!!

感情の赴くまま、宣言する。


「全員、殺す」


言い終えると同時に瞬き。目を見開く。

黒かった双眸は、銀色になっていた(・・・・・・・・)


直後、高層ビルの一フロアがまるごと消し飛ばされた。





ズガァァァァァンッッッ!!!!!!!!

ビルのフロアが吹き飛ばされた音が、夜の街に響き渡った。粉塵と瓦礫の雨が街の灯に照らされる。

盛大な音だった為、すぐに人が集まって来るだろう。


それを近くで見ていた歪んだ笑みを浮かべる男は焦る様子を見せず、落下して来る瓦礫の雨を危なげなく避け、瓦礫に混じって落ちて来た子供の左腕を拾い上げた。

彼が浮かべる『笑み』の理由は変わらない。これから先に起きる出来事を想像しただけで、愉快で堪らなくなるから。


「まあ、これはその余興だな」


そう言いながら、理由は変わらなくとも歪みが一層増した『笑み』を浮かべる男は、噛み跡が残る拾い上げた腕に、躊躇なく噛み付いた。


しばらくの間周囲には咀嚼音と呑み込む音が続いていたが、やがて途絶え、代わりに笑い声が聞こえ始めた。


笑う男の体は銀光となると、十歳ぐらいの銀髪の少年に姿を変える。

服のサイズが大きすぎる為、着ているというより包まれているという表現の方が適切だ。

今度はその少年が青年になった姿に変わると、服のサイズが丁度になる。


彼は、自分しか知らない野望のことを考えながら、変身した際に脱げたフードをかぶり直した。

その野望が叶うことを想像すると、狂おしいまでに楽しみで、狂笑が漏れる。


そんな笑い声が漏れるフードの中には、銀色の双眸が輝いてい(・・・・・・・・・・)()


「失望させるなよ、《第三(サード)世代》」


男は呟きながら、集まりだした人々に怪しまれることなく、夜の闇に消えて行った。

・時は2100年12/25夜、クリスマス。

・世界に点々と存在する都市は、壁と兵器で捕食者達から守りを固めている。

・少年は少女を失う代わりに生き返った。

・少女は言葉にならなかった少年の想いを聴いて・・・。

・男は優れた身体能力と変身能力を有している。少年の斬り落とされた左腕を食べたことと、変身後の姿は何らかの因果関係があると思われる。




読んでくださってありがとうございます。


次話は来週の水曜日、18時に投稿します。


Twitter始めました。

@Hohka_noroshibi

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