3-8彼について。
駅に向かうバスに乗り込む。
私たち以外に乗ってくる人もいなければ、乗っている人もいなかった。
「どこか行こうよ」
「…」
「墓参りついてきてもらったからさ、次は合わせるぜ!どこ行く?」
せっかくおしゃれしてるんだから!と。
気を使われていると感じれば感じるほど
私は頑なになる。
「別に、希望はない」
「言うと思ったけど。こっちも何も考えてかったからさ」
「じゃあ、別にいいんじゃない」
「帰るってこと?えー、それは寂しくない?」
こんな態度をとっているのに、帰るという選択肢をとらないところが嬉しかった。顔には出さないけど。
とにかく「ここに行きたい!」と指定するのが嫌だった。
こういうことをしたくて今日来たんだなって思われたくない。
あー、馬鹿すぎる馬鹿すぎる馬鹿すぎる馬鹿すぎる。
彼は、絶対そんなことを思う人じゃないって、わかってるのに。
「ディズニーランド?」
「今から行っても…」
「猫カフェ?」
「それでもいいけど…」
「横浜?」
「それはそっちが嫌でしょ」
横浜に行くと何故か必ず喧嘩になる。だから、彼はあまり横浜には行きたがらない。
私は非常に好きな場所ではあるのだけど。
「横浜だな」
彼から発せられるはずのない単語に驚いて彼を見たが、
その目は既にスマホに向けられていた。
「どこに行こうかね」
楽しそうに見える彼に、
心底ほっとした。