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3-6彼について。
「母がさ。月に一度は必ず墓参りに行くんだよ。」
「そんなに行ってどうすんの?って思うんだけど。」
「うん」
「だからさ、いつも綺麗なんだよ。こっちは水をちょろっとかけるだけだから簡単だ!」
タバコを取り出し、軽く吸う彼。
何かを堪える私。
「親父が好きだったんだよね。」
「だから、此だけ持ってんだ。」
銘柄はよく分からない。
私はタバコが嫌いだ。
吸うのは絶対で、吸われるのも許せない。
「お線香のかわり?」
「そうだね。」
「こっちのほうが、安く済む。」
踵を返す彼に、慌てて声を掛けた。
「私まだ、お祈りしてないよ。」
「別にいいんじゃん?」
「…」
「悪かった。お願いします。」
「…うん。」
私は願った。
(ずっとこのまま…)
振り返る。
…やられた。
「ねぇ!ちょっと待ってよ!」
(何処までも勝手なんだから!)