第六話
あの筋肉ダルマを撒いてから走って学校に着いたが、時刻は7時45分、ホームルームの始まりが8時半なので45分近く暇が出来てしまう。
「何して時間を潰すかな、とりあえず大輔にイタ電だな」
携帯のアドレス帳から篠家大輔の名前に非通知でかける。
四コール目でようやく電話が繋がった。
『ふぁい、どちら様ですか?』
一度喉を鳴らし、出来るだけ野球部の顧問の声を真似る。
『いつまで寝ておるつもりじゃ、篠家! 寝坊で朝練に遅刻とはのう、罰として貴様はグラウンド整備三週じゃ!!』
『ひいぃっ、すすす、すみません監督、今から行きますのでお待ちくださいぃぃぃ』
電話越しにドタバタと音がするので、焦って用意をしているのであろう、そんな姿が眼に浮かぶ。
(少し惜しいがネタバレしてやるか)
『監督、用意終わったんで今すぐ行きます!』
『おうおう、兄ちゃん朝練遅刻にそれだけで許してもらえると思ってんのか? あぁ!?』
『はぁ? お前その声は祐介だな!? ってことはイタ電かよ!』
『HAHAHA、朝から木戸に会ったからついストレス解消にな』
『全然俺関係ないじゃん!?』
『気にすんな、どうせ朝練あるんだろ?』
『まぁそりゃ有るけどさ、なんか釈然としないよな、はあっ』
『ちなみにこの会話テープレコーダーで録音してるから』
『てんめぇ―』
これ以上の会話はダルいので電源を落とした、俺は悪くないはずだ。
「大輔のお陰で10分は潰れたが残りはどうするかな、またトラップでも仕掛けるか?」
以前は黒板消しを至るところに仕掛けて、教室中を粉まみれにしたが、当然ながらバレてしまった。
「なら今回は犯人が俺だとバレないイタズラをするか」
「ふぅ、これなら上出来のレベルだろ」
出来上がったアートを見て満足したところで、教室を出る。
(思った以上に時間をかけたな、早く出ないと見つかるかもな)
あれから20分、二階から外を見てもチラホラと学生が来てるのが見えるから、これ以上とどまるのは危険だろう。
しかし時間をかけただけ、満足のいくものが出来た。
「さーて、早く誰か来ないかな」
実際に見た人の反応を見たいため階段付近でクラスメイトが入るのを待つ。
「中々来ないな、もう5分が経過するぞ」
じっと待つのも飽きてきたその時、階段を爛々気分で登ってくるピンク髪の馬鹿がいた。
「きょ〜うも、良い天気〜、明日はもっと良い天気〜。」
「いつにもまして幸せそうだな、お前」
背後からいきなり声をかけて驚くと思ったが、動じる事なく振り返った。
「やっぱり祐介さんでしたか〜」
おっとりとした口調で話す女性は安西康子俺の小学時代からの腐れ縁で今まで別のクラスになったことはない。
「それにしても安西は普段登校するのこんなに早かったっけ?」
普段俺が覚えている限りではだいたいホームルーム開始のギリギリに間に合うかどうかだったはずだが。
「今日はですねぇ、珍しく早い時間に目が覚めたので直ぐに来たんですよ〜、そう言う祐介さんも朝に強い方で無いのでは?」
「そうか、俺も似たような感じだな、ちなみに何時に起きた?」
「え〜っとぉ」
指を折り曲げて計算してる姿はなんとも愛らしい姿だ、流石は『おっとり天使』の呼び名をもつだけはある。ようやく数え終えたのか指を折り曲げるのを止めた
「今日は朝の5時ですねぇ〜」
「めちゃくちゃ早いよっ!?」
思わず普段はボケの役割の俺がツッコミをするほど驚いた。
「時間になるまで何してたんだ?」
「それが、二度寝してしまいまして…」
「早起きの意味ねぇじゃん!」
(気がついたらまたツッコミをしていた、ボケ担当の俺がここまでボケれなくさせるとはやるな安西)
そうこう言っているうちに教室に着いた、安西がどんな反応を示すかが楽しみでしょうがない。
「一番乗りでしょうか?」
「多分そうだろう、さっさと入ろうぜ」
「それもそうです…ね」
ガラリとドアを開けた安西はピタリと固まり一度ドアを閉める。
「どうした安西何か有ったのか?」
俺の角度からは部屋が見えないので笑いを堪えてわざと聞いておく。
「………」
もう一度ガラリとドアを開けて直ぐにこちらを向く。
「ど、どうしたんだ?」
何かとてつもなく嫌な予感がする、やってはいけない行為に至ってしまった感じがする。
「祐介さン?」
「ど、どうしたんだ安西?」
普段は明るい声の筈だが、今は違う、まるで地獄の亡者のような低い声を発する。
「これをやったのは祐介さんですよね」
「い、いや俺の筈が無いだろ、ここまで一緒に来ただろう?」
「そうは言っても祐介さんぐらいしかこんなことをする方は祐介さんしか居ませんし早めに白状してくださいね」
明らかに俺が犯人だとバレているのでこれ以上の茶番は無用だろう。
「まぁ、流石にバレないとは思わなかったけど、こんなに早いと思わなかったな、ところで安西こいつを見てくれどう思う?」
「最悪のオブジェですので早く直してくださいね」
「………、わかったよ」
これだけボロクソ言われれば誰でも嫌になるだろう、渋々言われた通りに一教室分の机で作ったピラミッドを崩して元通りにする。
「それが終わったら正座でお説教ですからね」
「はい、わかりました」
結局ピラミッドを直した後にホームルームが始まるまで正座で説教を受けてしまった。
しかしその後に更なる恐怖が待ち受けている事を俺はまだ知らなかった。