第五話
先週は投稿できなかったので二週分投稿します。
昨日は本当に酷い目にあった。
目を覚ませば秘蔵のエロ本は隠し場所から出てきてるし、絶対に俺の趣味じゃないエロ本まで置いてあるし、この本は今日の学校で本人の目の前で返却してやると決めている。
腹が何かに抉られたように痛いし、頭がガンガンするし、原因すら思い出せないしまつだ。
「とりあえず学校行くか」
時刻は7時半、学校に行くのは少しというか早すぎるがたまには掃除でもして学校に貢献でもしよう。
鍵を掛けたことを確認して天気を見ると普段と変わりなく晴天であった。
「今日も気持ちの良い朝だな」
学生寮から萩校まではだいたい10分程度つく、周囲を見てみるとうち(萩校)の制服を着ているのをちらほら見かけるが、おそらく部活動の朝練だろう、その中で見知った顔が有ったので声をかけることにした。
「おはようさん、今日も早いな」
「ふぇ?」
後ろから声をかけられたからか変な声を出しながらくるりと振り向いた。
「あれ? こんなに朝早くにどうしたの?」
「ちょっと早めに起きたからたまには早く来るのも悪くないかと思ってな」
「へぇ〜佑くんが早起きなんて珍しいね」
さすがにそこまで驚かれると心外だ、これでも眼は開けている(眼だけだがな)のだが。
「それは起きてるって言わないよ、それに起きたんだったらちゃんと来ないと駄目だよ」
「もしかして口に出てたか?」
そうだとしたら癖にならないように気を付けなければならないだろう。
そんな俺を見て彩はクスリと笑う。
「ううん、口には出てないけどそんな顔してたよ」
「マジかよ…」
orzの体勢になろうと思ったが、道の真ん中でやると通行人の邪魔になるのでとりあえず近くの壁際でやっておいた。
「前から聞こうと思っていたんだけど、どうして祐くんは失敗したり落ち込んだ時にorzの体勢になるの?」
「そ、それは」
「それは?」
(どうする、どうすれば、どうしよう? 彩になんて言えば良いんだ!)
1ネットの用語を見た時に興味本意で使ってたら止められなくなったと本当の事を話す。
2俺、かっこいいだろ? と言って話の論点をずらす
3ネタをやる
(どうするよ俺、二番を選んだら単なるナルシストに思われるし、三番に至ってはネタなんて直ぐには作れないし、考えろ、まだ打つ手はあるはずだ)
考えること数秒、新しい案を最良の策と判断し、即座に実行に移る。
「あ、彩なんだあの東の空に上がっている紅い光を発する物体は!?」
「え、どれどこにそんなのあるの?」
俺の数有る苦しい言い訳の一つ、あ、あれはなんだ!? 作戦を使い、なんとか九死に一生を得ることが出来た。
「ふぅ、助かったか」
彩に聞こえないぐらいの声でため息をつくと、未確認生命体を探すのを諦めたのか、少し頬を膨らませてこちらを睨む。
「もう、もっと早く教えてよね祐くん!」
「いや、悪い悪い俺も直ぐに言ったんだが逃げ足だけは早いみたいで」
正直彩以外にはこんな方法で誤魔化せることが出来る訳もない。
思えば彩は昔から純粋で人の悪意を疑う事をすることはなかった。
おそらく俺みたいにひねくれた人種とは違い、性悪説ではなく、性善説を信じているのだろう。
「唐突だけど彩は性善説と性悪説どちらを信じる?」
「えっとそれって人は生まれながら善であるか悪であるかっていう事だよね?」
「大雑把に言えばそうなるな、それで彩はどっちを信じてる?」
少し考え込むように首を傾げるが、答えは決まったのだろうこちらを真剣な眼差しで見る。
「私はやっぱり性善説を信じたいな、世の中悪い人は居るんだろうけど、私はそれでも人の悪意なんかより善意を信じたい」
そう言うとこちらから顔を背けて、小走りに学校側に向かっていくが途中で笑顔で振り替える。
「だって、もし全ての人を疑ってたらいつか自分が壊れちゃうよ、それに自分が信じなきゃ、相手も信じてくれないもん」
「………、まったく彩にはかなわないな」
「ふふっ、じゃあ私は部活に行くから先に行くね、バイバイ」
そのまま俺の返答を待たずに、学校に走っていった。
携帯で時間を確認すれば部活動の朝練の時間が近づいていた。
「まったく彩の奴、俺の話しに付き合う為にギリギリまで居てくれたのか」
「それが彩様の良いところだろうが」
隣を見ればスキンヘッドで筋肉ムキムキの巨大な筋肉の塊がこちらを見てドヤ顔をしていた。
「なんの用だ、筋肉禿げダルマ」
「んなっ!? この俺様に向かって禿だと?」
「筋肉ダルマは良いのかタコ坊主」
「そもそも俺様の名前はは禿げでもないしダルマでもない、木戸大和だ!」
この筋肉禿げダルマは彩の小学校からの熱狂的なファンの一人で見ての通り、脳が残念な奴だ。
「はいはい、そうだったな木戸、お前は朝練に行かなくて良いのか?」
正直こんな暑苦しい筋肉の塊の隣を歩くのは凄く嫌だ、ただでさえ萩高はBLを書く奴が多いのに、そいつらのネタになるのは勘弁してほしい。
「おっとそうだったな、もし良かったらお前のもやしみたいな体を俺様のマッスルで素晴らしい筋肉の体にしてやるが?」
「誰がお前みたいな筋肉禿げダルマになるか、タコ少しはオツムを良くして出直してこい」
そう言い放ってやると全身ではなく筋肉をぶるぶると震わせる。
(俺の目が腐りそうだ、普通にキモい)
「ぐぎぎぎ、黙って聞いてりゃ言いたい放題言いやがって、ぶっ潰してやる!」
そう言い終わる前に飛びかかってくる。
「はっ、お前なんて狭い場所で戦わなければ余裕なんだよ禿げダルマ」
確かにまともにやりあえばこんな筋肉の塊に勝てる訳がない、だが相手は脳筋なので速度や足払いなどで圧倒出来る。
「うぉぉ、何で避けるんだよ、男なら拳と拳のぶつかりあいだろうがぁ!」
「お前相手に力で勝負はムリゲーだっての、勝てる方法じゃないとこっちが死ぬわ馬鹿」
鍛えぬかれたパンチを避けてそう言い放ち踵を返し、学校側とは逆方向にギリギリ追い付かれる速度で走る。
「はっはっは、それぐらいならば追い付いてミンチにしてくれるわぁ!」
「追い付いてみろよ、タコ坊主」
「ぐぁぁぁ、許さねぇ絶対に許さねぇ」
怒りの形相で俺を追いかけて走るが、手を抜かなければあの筋肉ダルマよりは早いので追い付かれるはずもなく、結局連続で道を曲がったりしてるうちに背後の暑苦しい気配は消えた。
「よし、これでアレは朝練遅刻決定だな」
朝から良い運動もしたので近くのコンビニでスポーツ飲料を買って学校に向かった。