表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/114

スズメバチの飼い主・story50

「確率99%なら確実でしょう。胸を張って話しなよ。あんたは感情がないから、“殺される”とかサラッと言うけど、大問題だから」

 ランスはヘラヘラうなずきます。

「ハヒヒ。ボクの脳はいつも緊張しているから、データを解析することで未来が“カン”となって見えてくる」

「緊張しているように見えないけど」

「ヒヒフ。見た目はどうでもいい。田村様は善人じゃなく、99%悪人」

「わたしと幸せくんを助けてくれたけど」

「フヒヒ。みりさちゃん、いちいちうるさい。田村様は、感情こそ正義とか、みりさちゃんの運命とか言っていたけど、本心の演説ではなく、みりさちゃんをドクターSDへ会わせるための誘導話」

「ドクターってなに?」

「ヒハハ。後で話す。いちいちうるさい。田村様はみりさちゃんを救ったり、ボクを助けたりしてくれたけど、善意じゃない」

 ランスはいきなり立ち上がり、手で作ったコップで池の水を飲むと、またすわりました。少年のくちびるからしずくが冷たそうに落ちます。

「ヒヒヒ。田村様を改造脳だと知っている人間は田村様に対して潜在的な恐れがあるから、田村様からの情報を脳がすべて受け入れてしまって、防げない。施設内の檻へ閉じこめられていた田村様は簡単に脱出できるようになった。檻に誰もいないという視覚情報を発して、焦ったマジックPの施設員が檻の鍵を開けて探し始めたすきに逃げる作戦。飽きたら戻ってきて、飽きたらまた出ようとする。気づいた施設員はもう鍵を開けなくなったけど、止められない。田村様は施設員を全自動的に動かせるから、鍵を開けさせられる。田村様を抑えきれなくなったマジックP。田村様がその気になったら簡単に殺されてしまうから、言い分をなんでも聞くしかない。逆に殺そうと計画したけど、銃を持って近づいても、毒を盛ろうとしても、すぐにバレて、報復される。すでに殺された施設員が2人」

 笹の葉の下で魚がビクンと動き、すぐに動かなくなりました。

「ハハヒ。マジックPが田村様を殺せる方法は2つ。1つ目は田村様より優れた改造脳を作って対決させる方法。だけどミイラ取りがミイラになったら困るから、絶対従順の改造脳にしなくちゃならない。大雪で現在進行形の研究はここへ主眼を置かれているはず。2つ目の方法。田村様の弱点を見つけるという方法。自然脳ではとうてい勝ち目がない相手だけど、どんな者にも弱点は必ずあるはず」

「弱点? あんな化け物に弱点なんかあるの?」

「ヒヒハ。いちいちうるさい。いずれにしても鍵をにぎるのはマジックPの医術最高責任者ドクターSD。ドクターだけが田村様をしのぐ改造脳を生産できる。ドクターだけが田村様の弱点を探せる。ドクターの所在は秘密。居場所がわかると田村様に狙われるから、マジックPが秘密にした。田村様はドクターを見つけるために、施設から完全に抜け出し、まずボクを味方にした。マジックPから狙われている人を自分の味方にして、利用する方針。咲藤さんからの頼まれごとでまた1つ道具が増えた」

「道具? わたしのこと? 戦いの相棒にはなりたくないけど、道具なんかもっとなりたくない。バカにしている。あのデブ許せない」

「ヒヒヒ。田村様とマジックPは敵同士。マジックPは田村様を殺したい。田村様はマジックPを壊滅させたい」

「ランスの動機はわかるけど、田村様はどうしてマジックPを壊滅させたいの?」

「マジックPが壊滅すれば、田村様をしのぐ者はもう作られない。弱点もおそらく見つけられなくなる。そのためにはドクターSDを殺せばいい。ドクターがいなくなればマジックプランは行きづまり、田村様は世界の王様になれる」

「勝手に戦ってくれたらいい。わたしたちを巻きこむことない」

「フフヒ。ボクとみりさちゃんはマジックPの殺処分対象。ボクとみりさちゃんは田村様の相棒と道具。戦いからは逃げられない」

「すぐに逃げよう。田村様の光子はここまで届かないわけでしょう。このまま林の中を走って逃げたら田村様に見つからない」

「ハハヒ。逃げるのがいい選択なら、ボクはとっくに逃げている。ボクたちはマジックPから追われている。殺し屋から狙われているなら交番へ逃げられるけど、マジックPが相手では逃げ場所がない。中野さんのような人に会えれば別だけど、でも結局は中野さんも殺された」

 ランスはほんの一瞬だけ呼吸を乱し、また水を飲むのか池の端へかがみました。もしかしたらランスの脳にも切ない感情が1%くらい残っているのかもしれません。

「フヒヒ。マジックPが手を出せない場所は田村様のそばだけ」

 ランスがわたしのそばで水鉄砲の手入れを始めました。濡らしてきた笹の葉で銃身をみがきます。

「ヒヒヒ。身を守るためにはぎりぎりまで田村様と一緒にいた方がいい。ボクの水鉄砲だけでは限界あり。魚やハチしか殺せない」

「でも田村様と一緒にいたら道具にされるんでしょう。どんなことをさせられるの?」

「ヒヒハ。みりさちゃんは重要。ドクターSDを探すための道具」

「わたしは探知機なわけ? わたしをどう使ったら、ドクターSDを探す道具になるの?」

「フヒヒ。ドクターなら幸せくんをふつうの脳へ戻せる」

“ドクターなら幸せくんをふつうの脳へ戻せる”

“ドクターなら幸せくんをふつうの脳へ戻せる”

 情報が母の脳で波を打ち、広がります。感情が100%興奮します。

 わたしはランスの顔をつかみました。

「幸せくんを治せるの? 幸せくんは死ななくてすむの?」

 ランスは眼前に飛びこんできたわたしの長い爪をゆっくり押し戻しました。

「フヒ。ドクターSDなら可能だけど、田村様と一緒に行っても手術はできない。田村様は手術を受けさせるために行かせるわけじゃく、ドクターの前に出たみりさちゃんが刃物を持つように脳をプログラムしておく計画。潜在意識の反射神経に“ドクターSDの姿を見たら刃物で刺す”という情報をあたえておけば体が勝手に動く。熱いやかんをさわった時に手が引っこむのと同じ作用だから、みりさちゃんは自分の意思じゃ止められない。簡単な作用なら、田村様は他人の脳へプログラムを組みこめる」

「マジックPは恐ろしい女を作ったね。他人になんかやらせないで、自分でやればいいのに」

「ヒヒハ。自分でやるにしても、どこにいるかわからない」

「わたしだってわからない」

「フフヒ。みりさちゃんは必ずドクターを探し出して幸せくんの手術をお願いする。田村様は母性が持つ強さに賭けたのだと思う。地球のような母なる強さ」

 わたしは子宮のあたりを見つめました。確かにドクターSDを探し出すという決意が燃えてきます。

「探す。絶対に探す」

「ヒヒヒ。でも田村様からプログラムされてからでは遅いし、もうされているかもしれない」

「探す。絶対に探してみせる。プログラムなんか、どうにかなる」

「ヒヒハ。顕在意識でいくらがんばってみても、潜在意識は止められない。ドクターSDを探す方法、田村様のプログラムを解除する方法、田村様から逃げても暮らしていける方法、最終的には田村様の凶暴な改造脳を殺す方法が1つだけあるから教える」

 スズメバチが飛んできました。わたしの反射神経が手を動かし、子宮を守りました。ランスは水鉄砲をハチへ向けましたが発射せず、ハチはどこかへ飛んでいきました。

「ヒヒヒ。ハチに水鉄砲を見せつけた」

「ハチに自慢したって、しかたないでしょう。いやちがうか、誰かがハチの見た光子情報を受けとっているんだよね」

 言いながら疑問が湧きました。

「田村様の敵は誰? 田村様は最強のはずでしょう。敵なんかいるの? 確認されている改造脳は田村様だけじゃないの?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ