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耳の奥から声が出た・story5

 地下街にあるレストランでお客さんとワインを飲みました。窓に見立てた壁の大画面に、世界中の夜景が映し出されるレストランでした。とてもおいしいワインだったので、いつもより多めに飲みました。

 もうすぐ死んでしまう赤ちゃんに、ワインの味を教えてあげたい。

 中絶の日まで、なるべくたくさん笑おうと決めました。わたしが笑えば赤ちゃんも楽しいだろうし、わたしがおいしいと感じれば赤ちゃんもおいしいと思うでしょう。

 同伴したお客さんは決して話が合う相手ではなく、気を寄せたり許したりという相手でもない、まさに仕事の席でしたが、赤ちゃんに仕事の気分を押しつけたくなかったので、なるべくたくさん飲み、たくさんリラックスし、たくさん笑いました。お客さんはわたしの反応におどろき、よろこんでくれました。

 ひどかったのは店が終わり、帰宅してから。酔った勢いにまかせて店でも飲みすぎてしまい、家へ着いたころ、厳しい頭痛と吐き気に襲われたのです。

 母体が死にたいほど苦しいのだから、赤ちゃんも死にたいほど苦しいはずです。便器にしがみつき吐き散らしながら、痛む頭の片隅で「赤ちゃんごめんね、赤ちゃんごめんね」

 最後は泣きながら、声に出して「赤ちゃんごめんね。許してね」

 ひどい状態でしたから、確信は持てなかったのですが、耳の奥で聞こえた気がしました。

「早く寝な。眠るのがなによりの対処だ」

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