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99%しか見えない未来・story49

「あんた、ヘラヘラ笑っている場合じゃないでしょう。寝転がっている場合じゃないでしょう」

 わたしは怒りと悲しみの感情がエスカレートし、脳も子宮も破裂しそうになりました。

「命の恩人が殺されちゃっているじゃない。ヘラヘラ話している場合じゃないって、あんたわかってんの。悲しいとかムカつくとか、言いなさいよ」

「ヒヒフ。だから笑うしか、できない」

「ふざけんな。マジックPなんかボロボロにきざんで、燃やしなさい。男だったら復讐しなさい」

「フフヒ。復讐なんて、簡単にできる相手じゃない」

 ランスの下駄をもう1つ脱がして、笹の上に水鉄砲を全部ならべてみました。

「7つか。いい数字だね。それぞれなにが入っているの?」

「ハハヒ。秘密」

「鳩を殺したやつがあったね。ハチも殺したし、人間の目もやっつけた。人間を殺せるやつはどれ?」

「ヒヒヒ。ない」

「作って持ち歩きなさい。マジックPを見つけたら撃ちなさい。いっそのこと本物を買えばいい。暴力団とのルートがあるし、競馬を好きなだけ当てられるわけでしょう。お金に不自由しない。よくよく考えたら、あんたは素敵な男の子だね。わたしと暮らそうか。趣味のいい服を買ってあげる」

「ハハヒ。服はこれでいい」

 ランスは折りたたんでいたそでを丁寧に伸ばします。

「どうして未来がわかるの?」

「ヒヒフ。ある意味では偶然」

「偶然じゃないでしょう。カンがすごいわけでしょう」

「ヒヒハ。99%の的中率なら、哲学的には偶然と呼ぶ。人間は未来を読むのが苦手な生物。でも気づかないだけで、予知能力は誰もが持っている。地球の生物はみんな持っている。みがくと発揮できる」

「田村様も?」

「ハヒハ。田村様は未来なんか気にしないから、みがかない」

「田村様はどうして釧路へランスを迎えに来たの?」

「フヒヒ。マジックPを壊滅させるため戦う。相手はまともじゃないからボクを相棒として選び、探していた」

「やる気あるじゃない。でもまさか、わたしまで相棒として選んだわけじゃないよね」

「ヒヒフ。みりさちゃんのマンションを調べたマジックPはゴミ箱に捨ててあった書類を見て、中絶を断念したと判断。産科で今日殺す予定だった。でも田村様が咲藤さんから“助けてやれ”と頼まれた」

「咲藤さんはどうしてわたしが危ないことを知ったの? どうして田村様と知り合い?」

「ハフフ。咲藤さんと田村様は占いの師弟関係。弟子だった田村様は大雪の施設を抜け出して札幌へ遊びに行く時、咲藤さんのところに泊まる。占い師は田村様の不思議なふるまいを見てもあまりおどろかない」

「咲藤さんらしい。でも、そうなると咲藤さんはマジックプランについて知っているわけ?」

「ハヒヒ。中身は知らないと思う。単になにが起こっても驚かないだけ。日高から不思議な人が来た話も、淡々と伝えてきた」

「そうだ。あの人、咲藤さんの店から出てきた」

「ハハヒ。いろいろな人を妊娠させたことについて、相手の名前もふくめて相談。相談後、すぐに死亡。みりさちゃんの名前を咲藤さんは知っているから心配」

「そういうことか。だから田村様へわたしを守るように頼んでくれたんだ。でもそうなると、咲藤さんもマジックPに狙われるかもしれないね。あの人から話を聞いたことがバレたら、マジックPは生かしておいてくれないよ。田村様は咲藤さんも守ってくれるかな」

「フヒヒ。田村様は無敵。ちゃんと考えているはず。心配ない」

 ランスは笹へ横たわったまま水鉄砲の1つをにぎり、空へかまえました。空は太陽の独壇場になっているため、狙う相手も太陽しかいません。

「ハヒヒ。田村様は無敵」

 もう1度言ってから、ランスは水鉄砲を下ろしました。

「じゃあ、わたしたちはだいじょうぶだね。国じゅう敵だらけなんて幸せくんが言った時には心がまっ暗になったけど、ようやく安心できた」

 ランスは返事をしません。

 陽光は暖かいのですが、同時に雪解けが進むせいか、ひんやりした空気が時々やってきます。池の水は凍っているかのように静止しています。鳥も虫も動きを見せず、ランスもじっと動かなくなりました。地球が回っていることなど信じられないくらいに静かな風景です。

「ヒヒヒ。ボクはデータをもらえたらカンがみがかれる。データが増えるほどカンが冴える。未来を99%知ることができる。多くの人間が思っているより、未来はずっと単純だから」

 ランスは立ち上がり、笹の葉をかぶせていた魚を1匹つかむと宙へ放り投げ、落ちてくるところを撃ちました。おもちゃのような水鉄砲から、本物のような衝撃が飛び出し、魚の身が粉々に宙を汚します。

「ハヒヒ。魚はどうでもよかった。みりさちゃんを池へ連れてきたかっただけ。ここまで来ると、田村様からの光子は届かない。会話も脳内もバレることはない。ゆっくり話ができる」

 ランスは笹の上へすわりました。

 寝転がっていたわたしも上半身を起こし、ランスの横へならびます。

「ヒハヒ。ボクは田村様とずっと一緒にいる。自然に田村様のデータがたまる。このまま田村様と一緒にいたら、もしかしてボクたちは殺される。確率は99%でしかないけれど」

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