慎重なプロフィール・story4
今さらですが。プロフィールです。
たった今、お風呂から出たばかりです。高層マンションのソファで煙草を続けざまに吸っています。この6週間、セックスをしていません。
名前は「薄野みりさ」とおぼえてください。
ススキノにあるニュークラブで働いています。東京でいうとキャバクラ嬢です。それなりのお給料をいただいていますが、贅沢をするとお金はすぐになくなってしまいますから、慎重な生活をしています。
趣味は魚の飼育。金魚の暮らす水槽と、熱帯魚の水槽が、居間の角にならんでいます。野球観戦も好きですが、札幌ドームへ行くとお金がかかるので、テレビ観戦が基本です。
なんだか地味なホステスですね。本当は夢にあふれた華やかな暮らしを書きたいのですが、残念ながらたった1人の慎重な生活。男吟味も、食材選びも、カラオケの選曲も慎重な日々。
考えすぎても答えが出ない時は、信じきっている占い師さんを訪ね、進むべき道を教えてもらいます。
本当はすべてを占い師さんに決めてほしいくらいですが、相談料が高いので、彼女のところへ行くべきかどうか、いつも慎重に判断します。
21年間の慎重な人生。
反動なのか、あの人へはすぐになびいてしまいました。あれほど慎重に生きてきたわたしが、信じられないほど簡単にひかれてしまいました。
そして想像もしていなかった別れ方。
想像を超えた、妊娠という事実。
煙にむせました。頭がクラクラしてきたので、ソファへふさぎこみました。
なんのために煙草を吸い続けたのか、わかりません。中絶するからといって、赤ちゃんを苦しめていいわけではないでしょう。
初めて煙草を吸ったときの、気分の悪さを思い出しました。赤ちゃんの小さな体ならもっと苦しいでしょう。
よろよろとベランダへ近づき、ススキノを見下ろすバルコニーへ出ました。もう4月へなろうというのに、空気が冷たいです。濡れている髪が凍りそうなほどです。
わたしは冷たさを何度も吸いこみました。少しでもいい空気をあたえてあげようと、子宮へ向かって何度も吸いこみました。
部屋へ戻り、箱に残っていた煙草をすべてつかみ出し、ベランダへ行き、煙草に巻かれている紙をちぎり、冷たい風の中へ葉をバラまきました。
しばらく禁煙です。中絶が済んだら、煙草を買い、しみじみ吸えばいい。
洗面所へ行き、ドライヤーの温風を髪に当て、全身に当て、暖まりました。慎重にくちびるへ色を載せ、慎重に目のラインを左右統一させました。できあがった表情からは妊娠中であるなど、うかがい知れません。以前と変わらないわたしです。
中絶が終わり、煙草を吸い、術後4週間ほどセックスを我慢すれば、完全に元の生活や心へ戻ります。実際のところセックスに関しては慎重ですから、手術さえ終わってしまえば元のわたしです。
胎児が言葉を発するなんて想像もしていませんでしたから、すぐに元の生活へ戻ると信じこんでおりました。




