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下駄ばきの水鉄砲使い・story36

 田村様とわたしと幸せくんを積んだ箱型トラックは30分ほど走りました。

 揺られている間に、田村様へ質問したい事項をたくさん思いつきました。

 田村様は病院のトイレへいつやってきたのか。

 どうして幸せくんは田村様に対して、わたしと同じクオリアしか発生しなかったのか。

 田村様と咲藤さんはどんな知り合いなのか。

 光子情報やクオリア、って結局なんなのか。

 わたしたちはこれからどうなるのか。

 しかし田村様は床へ大きな大の字になり、エンジン音に負けないイビキを叫び始めました。

 わたしはバッグから携帯を出し、メールの受信箱を開いて現実感へ帰ろうとしましたが、宮美のメールを見ると、ため息が出てしまい、携帯を閉じました。平凡なため息は、強い重力のようにパワーのある田村様のイビキへ吸いこまれます。わたしの現実はこの箱の中にあり、逃れられるものではないようです。

 ゆっくりトラックが止まりました。信号待ちだろうと思いながら立ち上がり、痛くなってきたお尻をさすっていると、後部扉が開きました。

「ヒヒヒ。みりさちゃん。携帯とお別れの時間。マナーモードにしてこっちへ来てほしい」

 開かれた扉に晴天まぶしい四角絵が見えますが、声主の姿はありません。

「幸せくん、じゃないよね。声は外から耳に入ってくる」

「ヒヒヒ。天気がいい」

 幸せくんのような男の子の声が、幸せくんのように姿なく聞こえてきます。

「ヒヒハ。時間がないから、急いでほしい」

 いちいち添付される冒頭の薄ら笑いに品がありません。

 わたしは携帯をマナーモードにしながら箱の後ろへ歩きました。

「誰なの?」

 扉まで来ると、足元に小さな男の子がうずくまっていました。

「なんだ。人がいたの」

「ヒヒヒ。携帯の電源を入れておくと、みりさちゃんの位置がバレてしまう。電源を入れたまま豊平川へ放流する」

 男の子は広辞苑ほどの大きさをした発泡スチロール製の箱を地面に用意していました。

「あなた、誰?」

「ハハヒ。ボクはランス。みりさちゃんの友だち」

「友だち? 初めて会うけど」

「ヒヒフ。でもボクは前からみりさちゃんに出会えることを知っていた。だからとっくに友だちの気分」

 ランスと名乗った男の子は6歳くらいの平均体型で、長袖の赤Tシャツに紺の短パンをはき、異常に高い下駄の上に足をのせています。

「ヒヒヒ。ボクは自然脳だから、みりさちゃんに心の中でなにを思われても聞こえない。遠慮なくふつうに接してほしい」

「服装のセンスがひどいね。紺の短パンなら、Tシャツは白にしないと。赤や黒は最悪よ」

「ヒヒ。口に出せば聞こえる」

 ランスは下駄の下から水鉄砲を出すと、わたしへ発射しました。

「なにをするの。水がぬるくて気持ち悪い」

「ヒヒヒ。攻撃。時間がないから急ぐ」

 ジャンプしたランスはわたしの手から携帯をひったくると、発泡スチロールを抱えて河原へ走っていきました。

 トラックは河原の外側にある細い道へ停車しており、豊平川が市街で見るより細くなっています。ススキノから上流へ走ってきたようです。このままさらに進めば札幌を外れて山の中へ入り、定山渓温泉へ行く方向です。

 しばらく川辺にかがんでから箱を放流したランスが戻ってきました。

「ハハヒ。扉を閉める」

 小さな体で大きな後部扉を必死に押したランスが、扉の締まり際に水鉄砲を発射してきました。

「冷たい。なにをするの」

「ヒヒ」

 扉が閉じ、視界が薄暗くなりました。

 元の位置へすわり、電灯1つの世界へ目を慣らします。

「みりさ野郎。ランス野郎の面倒をよく見てやれよ」

 知らぬ間にイビキをやめていた田村様が大の字のままで言いました。

「イタズラ好きの子なんですね。笑い方が気に入らない」

「みりさ野郎に会うのを楽しみにしていたから、はしゃいだんだろう。大目に見てやれ。あいつがいないと俺様たちは食いっぱぐれる」

「食いっぱぐれ?」

「俺様たちの生活費はあいつが稼ぐからな」

「小さいのに、どうやって?」

「ランス野郎のことはそのうちわかる。はしゃいだおかげで上機嫌のようだ。車のスピードが増えている」

「まさか。冗談やめてください」

「心配するな。運転中は下駄を脱いでいる」

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