血脈・story3
お腹に赤ちゃんがいるという実感は湧かない。
といっても、いるということが科学的(?)に証明されているわけですから、考えなければなりません。
産むのか。
中絶するのか。
なんか重たい考えごとですが、でも考えた結果、考える必要はないとわかりました。
中絶します。
他の選択肢はないでしょう。ホステスというのは妊娠したまま働ける職種ではありません。産休を作るくらいの貯金はありますが、産んでからが大変です。子どもを産んだ事実を隠したまま職場復帰したところで、噂は広まるでしょう。ちがう店へ移籍したとしても、ススキノの中にいる限り、噂はついてくるでしょう。ススキノでホステスとして稼ぐのは不可能になりますし、ちがう街へ行くつもりはありません。ちがう仕事をするつもりもありません。現在の状況を捨てるつもりはないのです。
あの人と連絡がとれたら。妊娠したと伝えられたら。
いや。
どういうわけか、妊娠を知ってから、あの人を毛嫌いする自分がいます。一緒にいる時は、「子どもを産んでほしい」という言葉へうなずけたのに、今はそういう気持ちがまったくありません。あの人の血を引いた子どもなんか欲しくないです。
早く中絶したい。
お風呂から出て、バスドレスを着ました。ソファへすわり、髪を濡らしたまま、煙草を吸いました。わざと深く吸いこみました。
「栄養も毒も、お母さんの血管から、赤ちゃんの口へ入ります。自覚を持ってください」
産婦人科医の声を思い出しながら、吸い続けました。
自分の血の流れを初めて意識しました。