表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/114

見えない場所を見る・story27

 咲藤さんの店はいつも「午前4時まで予約がいっぱい」の状況が続きます。以降は予約を受けつけていませんが、やってきたホステスの列を午前6時まで受け入れてくれます。

「いったい何人並んでいるわけ? ベッドでも置いてくれないと待てないし」

 宮美があくびをしてから、くしゃみをしました。

 幸せくんが言います。

「宮美はもうすぐ、帰る、と言い出すな。見事な計算だ」

{そう簡単に2万円の占術料をおごるわけないでしょう。ここまで一緒にいてくれたら、もう用はないの。占いなんか気にしない、変わった女だからいいのよ}

「占いを気にする方がおかしいな。ふつうの人間にとって未来は闇より暗いはずだ」

{咲藤さんはふつうじゃないの}

 昼間どこかで遊んでいたのか、宮美はあきらかに目つきが変わっています。アフターのお客さんにもよく見られますが、午前4時を過ぎると、急に目の形の変わる人が多いものです。

「みりさは本当にならぶわけ? わたし風邪ひきそうだから帰るし」

「声がかすれているよ。せきが出る前に帰った方がいい」

 宮美が帰ったので、列の人数は5人になりました。まだ日の出まで1時間ほどあり、周囲は未来のような闇です。

{尾行、誰かいる?}

「気配、ない」

 幸せくんの声も眠そうに聞こえます。

{まだ眠いの?}

「いつでも眠い。そういう時期なんだ」

{列の先頭になるまで1時間以上はかかる。もしかしたら2時間。退屈だから起きていて}

「眠くならない話をしろよ」

 列はなかなか進まず、わたしの後ろへあきらかに未成年のホステスさんが2人ならびました。

{ホステスのふりして、まさか尾行じゃないよね}

「宮美より肌を出している。どこまで出せるか競り合っているみたいだ」

{どこを見ているの?}

 後ろで大きな笑い声が飛びました。

「楽しい話をしている。客の悪口は誇張がかかっているから、聞いていて退屈しないレベルだ」

{わたしの話を聞きなさい}

「楽しい話か?」

{幸せくんはわたしを自動操縦できるでしょう}

「みりさを動かしたって、楽しくないけどな」

{中絶を望むなら、どうしてわたしを産科へ向かわせないの?}

「歩かせることはできても、産科医と会話させるのは無理だ。せっかく産科まで歩かせても無駄骨になる。みりさを動かすのは、俺にとって重労働だから、無駄は避けたい」

{重労働?}

「すごくエネルギーを使う。小さな脳にはきつい作業だ」

 列はまったく動きません。空がなんとなく明るくなってきた気もします。

「気のせいだぞ。みりさが見ているのは西の空だ」

{幸せくんは店内の咲藤さんの様子がわかる?}

「占い師に興味はない」

{占っている様子がわかるなら、感じてごらん。きっとおどろくよ。あの人は奇跡の人だから}

 幸せくんが黙りました。

 わたしはくちびるに寄せた指へ、ぬるい息を吹きかけました。息は白く登場し、黒く消えます。

 列の後ろの人数が増え、白い息がうるさくなります。前は静かに動きません。

 わたしの前へならんでいた女性が身ぶるいをし、上着のえりを立て、丸めた背中で、列から外れました。

{幸せくんは寒くないの?}

 眠ったのか、幸せくんが反応しません。

{聞いている? 寒くないの?}

「店内へ集中している。静かにしろ」

{咲藤さんが見える?}

 幸せくんが温かそうなため息をつきました。

「おどろいた。この女」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ