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光る子ども・story13

「幸せくんはどうして、わたしの考えたことがわかるの? 変異脳とか潜在意識とかなんとか、ってなに?」

「潜在意識というのは人間が生物であるために必要な脳活動だ。呼吸、消化、血液循環、そして感情。みりさはこれらを無意識に活動させているだろう。人間の脳の95%は無意識な潜在意識活動のためにあると言われている。人間は95%意志とは無関係に、勝手に生きていることになる。つまりほぼ全自動で生きているんだ。勝手に生きている95%がみりさなのか、それとも俺の話を聞こうとしている残り5%の顕在意識がみりさなのか、哲学的に意見が分かれるところだ」

「5%の顕在意識?」

「顕在意識は人間が人間であるために必要な脳活動だ。この5%を奪われると植物状態になり、ただ生きているだけになる。みりさはこの5%の部分で俺を不思議に思い、質問してくるが、みりさが人間らしくあるための5%の意志が脳で発生するとすぐに、体内のバイパスを通って俺へ伝わってくる。5%がみりさの口を通り、声となって俺の脳へ届く前に、俺はバイパスから伝わってきたみりさの5%を知ることができる」

 バスルームの壁はまっすぐなはずなのに、伝わる水滴がくねくね曲がって落ちるのを見ながら、わたしは手のひらへ乗せた泡の山を息で吹き飛ばしました。入浴中のクセです。

「どうして、わかる? どうして伝わるの?」

「みりさが顕在意識を動かすと、脳内で神経細胞が発火する。あるいは外部から光子情報が入ってきても、神経細胞が発火する。発火によって発生するクオリアが5%のみりさの認知できる世界だ。しかし俺へは発火前の光子情報が母体内を伝わってきて、みりさと同時に、みりさより繊細なクオリアが発生する」

「光子情報?」

「人間のスケールで確認できる相互作用は、重力相互作用と電磁相互作用だけだ。つまり重力以外のあらゆる相互作用はすべて電磁相互作用という同じ種類であり、この相互作用は光子という素粒子によって情報や力の伝達がされる。人間のスケールでは光子の情報を受けとったところで素粒子レベルの解析はできないので、大ざっぱな人間スケールへ変換されて、人間感覚となる。しかし人間感覚にも個人差があり、たとえば絶対音感を持つ人は持たない人より音程を正確に把握する。持つ人も持たない人も同じ光子情報を受けとるのだが、解析能力がちがうため、音程の把握能力に差がつく。変異脳の持ち主は解析能力が異常に優れているため、光子レベルであらゆる状況を把握する。ふつうの人間が直線と判断する部屋の壁も我々にはリアス式海岸のような無秩序の曲線にしか見えない。みりさが見ているバスルームの壁も俺には凸凹だらけに見える」

「どうして見えるの? 目があるの?」

「俺はすべての神経接続がまだ済んでいないくらいに幼稚で原始的な体だ。目はあるが見ることはできない。だが目が見えるかどうかは関係ない。風呂の壁に関して、みりさが受けとった光子情報は俺へも伝わる。そしてみりさより繊細なクオリア、つまり質感が脳内で発生する。見える見えないは視力の問題ではない。クオリアが発生するかどうかの問題だ」

 わたしは目を閉じ、声を出さず、脳の奥で思うだけの話しかけをしてみます。

{ねえ}

「なんだ」

 幸せくんはすぐに返答してきます。

「あたりまえだろ。みりさが思っただけで伝わるんだから」

{幸せくんはわたしが感じている感覚がすべてわかるの?}

「みりさが感じている以上にわかる。性器をちょっとさわってみろ。形状や温度が光子レベルでわかる」

{あの人もそうだったの? そんなことで性欲が湧くの?}

「湧くさ。俺たちには光子レベルの情報がすべてだ。だから光子レベルの感覚でしか性欲が湧かない。俺たちから言わせれば、そんな大ざっぱなレベルでよく性欲が湧くな、という風に、みりさのことを思う」

{お互い様なの?}

「勘ちがいしないで欲しいのは、俺たちは変異脳という言葉を便宜上で使っているが、決して変異ではない。みりさと俺は絶対的にちがうのではなく、相対的にちがうだけということだ。絶対音感の持ち主は超能力者ではなく、優能力者だ。俺たちもその延長線上にいるだけだよ」

 少しお湯がぬるくなったので、新しい湯気を足しながら、わたしはバスルームへ響きわたるような大声を出しました。

「信じがたい箇所が多い。神経細胞やクオリアも意味がわからない。もう一度最初から説明して」

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