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ベリー国編1「視線の理由」

※ここからが本編です。

 船上で見送る人々に向けて手を振る


 この2年、なんだかんだ通訳として苦労した。

 大会議の後、本当にこのまま通訳を続けられるのか自分の方向性に悩んだ時期もあったが、外相はそれでも俺を雇い続けてくれた。


 でもやっぱり本で学んだことだけの知識ではうまくいかないことも多くて……ランの言ったとおり“学ぶためには実際に触れてみないと”いけないなと思った俺は数年後に旅に出る計画を立てた


 旅に出るにはまずお金が必要。そのために通訳の仕事に加えて事務の仕事もした

 計画を立てるのは苦手な人間だったがその点についてはだいぶ成長したと思う。明確な目標があると違うな~と思った。もとの世界の俺は夢や目標なんてなくて、日々をなんとなく過ごしていたものだ。それが悪い訳じゃないと思うけど、なんていうのかな……生活に艶が出る感覚を得た気がする。いい経験だ。


 俺はコツコツとお金を貯め続け、予定より1年早く旅立つことができた。

 今俺は船上にいるランとベニートとモフモフとともに……え、モフモフ?モフモフ?!


「うわぁぁぁぁあ!!」


「船の上では騒ぐでない」


 モフモフがしゃべる。


「いや、船以外でも騒ぐのは基本よくないだろ」


 ベニートが冷静にツッコむ。


「え、見たことないモフモフ。かわいい」


 ランはマイペースである。


「いや、モフモフ……じゃない!チンチラさん!なんでここにいるんですか!」


「うむ、おぬしに付いてきた。出航してしまえばこっちのものよ」


 にやりと見たことない悪い顔で笑うチンチラさん


「いや、なんで付いてくる必要があるんですか」


「心配だった……というのは建前で興味本意よ。おぬしに付いていけばおもしろいものに出会えると見込んだ」


 当たり前のように言ってるけど、チンチラって船に乗せていいの?


「チンチラさんって言うのかー俺、ベニート。よろしくなー」


 ベニートがのんきに自己紹介している


「おぬしのことはよく知っておるぞ、剣術に知見がある模様。特別に我の護衛役に任命してやるぞよ」


「いやなにそれ頼んでないぞ、てかチンチラの護衛って初めて聞いた」


「遠慮するでない」


 聞く耳を持たないチンチラさん。相変わらずだな……


「チンチラさんは何食べるの?」


 ランがマイペースに質問する。こっちも相変わらずだな


「うむ。我は知識を栄養にしておる」


 おお、急なファンタジー要素


「知識?というと?」


「おぬしたちが見せてくれるであろう旅の模様は必ずや美味な知識になるであろう」


「期待されてるね、俺たち」


 え、ランいまので納得したの?俺には適当に流したようにしか聞こえなかったよ?


「ミチルよ、良き仲間を持ったな。旅の供は長い時間をともに過ごすゆえとても重要な選択である」


「はぁ、まぁそうですねいい仲間を持ちました」


 俺の言葉にベニートとランはお互いに顔を見合せ、少し照れたように笑った


 こうして旅の始まりを迎えた俺たちは最初の行き先ベリー国を目指すのだった。



 ベリー国に到着


 俺たちはそれぞれ荷物を持ってタラップを降りる。


「着いたね、ベリー国」


「着いたな」


「着いた」


「やっと着いたのかのぉ~我、退屈をもて余しておったぞよ」


 各々が降り立ったそこはナランハ国のカラフルな街並みとはひと味違ったくすんだ色合いの建物が並んでいた。というか、空気自体がくすんでいる

 本で学んだ知識によるとベリー国はその大半の天気がくもりになる特殊な気候だとか

 加えて工場から出る煙もその空気の淀みを演出していると聞いたことがある


 実際に見ると、思っていたよりは明るいがナランハ国のようなビタミンを摂取する色は感じられなかった


 俺たちはとりあえず街を散策しながらしばらく滞在する宿を探すことにした……ペットと泊まれるところあるかな……


 きょろきょろと周りを見渡しながら俺たちが歩いていると


 なんだか周囲から、冷たくはないが温かくもない、まるで珍しいものを見るような視線を感じて、ベニートに聞いてみた


「ねぇベニート、俺たちなんか見られてない?」


「まぁ、そうだろうな」


 え、なんで?俺は訳が分からなかったので続けて聞いてみる


「どこか変なところがあるのかな?できるだけ本で学んだとおりの服装に近づけてきたけど、もしかして間違ってた?」


「その本で学んだことは合ってるよ。ただ、一般的ではないってだけで」


「それ、どういう意味?」


 俺が原因を聞こうとしたそのとき


「あのぉ」


 と声がする。辺りを見回しても見当たらない


「こっち、こっちです」


 と下から声がする。目線を下げるとそこにいたのはひとりの少年だった


「あの、よかったらこれ買ってくれませんか」


「おい!何してるやめとけお前のような者が話しかけられるような方々じゃない」


 どこからともなく声が聞こえてきた

 すると、周りの人々の視線が少年と俺たちへ一気に集まる


 なんだ?


「ちっしまった……おい、少年それ俺たちに買って欲しいのか?」


 ベニートが小声で尋ねる


「う……うん!」


「じゃあ、買ってやるからその代わりこの辺りで信頼のおける宿屋を紹介してくれ。いいか知名度だけじゃダメだ、情報を漏らさない口のかたい人物が経営しているところだ」


「あ……あるよ!ついてきてっ」


 そう言うと少年は足早に俺たちを一本の路地へと案内してくれた


 そのまま付いていくと、一件のひっそりと佇む宿屋の前にたどり着いた


「ここだよ!」


「ありがとな少年、これお代。商品は大丈夫だ、受け取っとけ」


「え……ありがとう!お兄ちゃんたちお貴族様なのに話しやすい人たちだね!じゃあね」


 少年は行ってしまった


 俺は疑問に思いながらも宿の扉を静かに押し開けた


「ごめんくださーい」


 この声のかけ方で合ってるのか?分からないけど中に人が見当たらないので呼びかけてみる


 すると、


「はーい!」


 奥から声がして女の人が出てきた


「いらっしゃいませ……あら、どうなさいました?この宿に何かご用でもございまして?」


 と、着いて早々言われた言葉。宿屋に来たのだから泊まりに来たに決まっているのでは?俺は不思議に思いながらお店の人に尋ねた


「あの、ここにしばらく泊まりたいのですが、部屋に空きはありますか?」


「えっ?!こんなボロ宿にですか?!お貴族様が?!」


「えっ……えと、それは……」


俺はそれはどういう意味か尋ねようとしたが、ベニートがそれを遮った


「ええ、しばらく泊めていただきたいのです。無理にとは言いません、どうか施しを」


「施しだなんてそんな!すぐにご用意いたします、少々お待ちいただいてもよろしいですか」


「ええ、ゆっくりで構いません」


「かしこまりました!」


 そう言うとお店の人は店の2階へと慌てて上がっていった


 数分もしないうちに、上からバタバタバタッと音を立て数人が出てきた

 他の客だろうか、荷物を持って頭を下げながら俺たちの横を通りすぎていく


 俺は不思議に思ってベニートの顔を見た。すると、ベニートは眉間にシワを寄せ、唇を噛み締めて悔しそうな表情を浮かべていた


 なんで……なんでベニートがそんな顔しているの?


 しばらくして、上から先程のお店の人が駆けてくる


「お客様、お部屋の準備が整いました!お待たせしてしまって申し訳ございません。どうぞ、こちらへ」


「……ありがとうございます」


 俺は全然待ってないけどな……と思いながら階段を上がる


「ここは素泊まりになります。お食事はお持ちしません。何か気になることがあれば何なりとお申し付けくださいませ。それでは、私はこれで失礼いたします」


 ずいぶんと丁寧だな……と思いながらも俺はベッドに腰を下ろす


「はぁ、とりあえず宿が見つかってよかったな」


「ああ、そうだな」


「……まぁ、ちょっと強引だったけどね」


「……ああ」


 ランとベニートが渋い顔をしている


「そうだ、さっきのどういうことなの?」


「うーん、まぁなんだ……その……」


 と、ベニートはなにやら言いづらそうにしている


「ベニート、教えてあげた方がいいよ」


 ランが促す


「はぁ……ミチル、いいか。俺たちはこの国では貴族として扱われる」


「え、俺貴族じゃないよ」


「体感としては貴族じゃなくても貴族であるナタリア施設長のもとで育った身。それは施設長の身内として認識されるということだ。それにそもそも服装で貴族として扱われてしまうんだよ」


「えっ服装で?」


「そうだよ、ミチル。俺たちの服装、街の人たちとちょっと違うでしょ?」


「たしかに……言われてみれば」


 俺たちの服装は下着の上に丈の長いチュニックを着て、さらにその上からサーコートを羽織っていた


 街の人たちは俺たちよりだいぶ簡素な格好をしているように思える


 なるほど……だから俺たちなんか街の人たちからよそよそしい接し方をされていたんだな


 今更気付いた自分に少し恥ずかしくなった


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