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リモーネ国編1「蜜を求めて」

『不思議だわ……月を見ているとあなたを思い出す……ああ、あなたは私の心を捕らえて放さないのね』


 歌劇とはエンターテインメントの女王。衣装や照明にも気を配り、細かいところまで芸術の一部としながら台詞をオーケストラの伴奏に乗せて歌で表現する舞台芸術である。


 俺はもといた世界でも歌劇はおろか芸術とは程遠い生活をしていた

 リモーネ国では日常的に芸術に触れていると本で学んだが、たしかに大盛況だった


 ざわざわ


「いや~神秘的な空間だったね~!」


「歌で感情を表現するってあんな感じなんだな」


「のど乾いたな~」


「……ミチル、ちょっとは芸術の余韻に浸って?」


「ミチル、のど乾いたならバーに行こう」


「バー?昼間っから?」


「リモーネ国ではバーがカフェみたいな場所になってるんだよ。お酒以外も飲めるよ」


「そうなんだ!」


「さすが、ベニート。博識だね~」


 ベニートは本の虫だけあって、いろんなことを本から学んで知っている。まぁ、たまに偏った知識になることもあるけど、俺たちはよく助けられる


 俺たちはさっそく街のバーに移動した


「ねぇ、見て」


「ぶふっ!!ふははははっ」


「なにそれっ?!なんでそんな小さいの!」


「俺も分からないんだけどコーヒー頼んだらこれが出てきた」


 俺はバーでコーヒーを店員さんに頼んだ。店員さんは迷うことなく小さいカップを手に取り粉から液体を抽出しだした

 高速でできあがったそれに口をつけると濃厚な苦味が口いっぱいに広がった


 そのとき、


「だからあなたが自分で言ったことでしょ?!なんで言ったことすらやってくれないの?!」


「いや、まぁなんだ……俺にもいろいろあってだな……次はちゃんとやるよ」


「いつもいつもそうやって……もういいわ!あなたとはやっていけない、さようなら」


「アレッシア!待ってくれアレッシア!」


 アレッシアさんという女性は男性の制止を振り切って行ってしまった。相当怒っていたようだけど何があったんだろう?まぁ、俺たちには関係ないことか……ん?なんか男性がこちらを見て……


「やぁ君たち、観光客?」


「……」


 話しかけられてしまった。リモーネ国の人はフレンドリーだと本で読んだことあったな~特に男性は……


「ねぇ君、とっても綺麗な髪色だね和梨国のサクラ……といったかな?絵画で見たことあるんだけどその色に似ているよ。ひとり?よかったら俺とデートしない?」


 どう見てもひとりじゃないだろ、というか俺、男なんですけど……


「あーせっかくですけど、忙しいんで他あたってください。あと俺男なんで」


「えっ?!君男だったの?!それは失礼、じゃあ話し相手になってくれない?実はさ~妻が怒ってなかなか許してくれないんだよ、どうしたらいいと思う?」


 あ、さっきの女性……アレッシアさんは恋人じゃなくて奥さんだったのか。というか奥さんいるのにこの人ナンパしてたんだ


「あーとりあえずその軟派な態度をどうにかされたらいいんじゃないですか?」


 俺は思ったことを素直に伝える


「あははっ言われちゃったなーでも俺、モテるから」


 困ったなぁと男性は頭をかかえた振りをする


「じゃあ、いっかいアレッシアさんの気持ちを考えてみては?」


「あれ?なんでアレッシアのこと知ってるの?あーさっきの見られてたのか~俺はジョヴァンニ、よろしくね」


「ミチルです」


「ベニートだ」


「ランです」


「君たちいたんだね、ミチルしか見えてなかったよ~」


 あははと笑うジョヴァンニさんは無自覚に失礼なことを言ってしまう人らしい


「君たち観光客だろ?よかったら俺がこの辺案内しようか?」


 俺たちは3人で顔を見合せて、どうする?面倒そうな人だよね?でも一から調べるのも大変だしお願いする?というのを目線だけでやり取りして決めた


「お願いします」


「よし!ついてきてとっておきの場所に連れていってあげる」


 俺たちはジョヴァンニさんについていくことにした



「ここがアルベリ・エ・ロヴィーネ公園だよ。ここには古代の遺跡がたくさん残っているんだ」


「へぇ~!すごい、これ全部何千年も前の建物なんだ!石造りの建物って本当に丈夫だな」


「古代の人々の暮らしぶりがこうやって遺跡から感じとることができる。ロマンに溢れているだろう?」


 たしかにじっと観察していると昔の人々の生活のようすが見えてくるようだ

 そういえば、もといた世界でも博物館とか行くの結構好きだったな……年パスとか買っちゃって、特別趣味とかないと思ってたけど俺って古代にロマン感じる系の男だったのか……今気付いた。


「どうやってこの場所を見つけたんですか?」


 ランが興味深そうにジョヴァンニさんに尋ねた


「気になるかい?」


「ええ、あなたのような方にはいささか縁遠い場所のように感じて」


 ランもランでいささか失礼である。


「実は妻に教えてもらったことがあったんだよ、妻は考古学者だからね」


 なるほど、合点がいく。


「今は育児に専念するために仕事は休んでるんだけどね、以前はよく遺跡巡りに付き合わされたものだよ」


 この人子供もいたのか。


 俺が遠い目でジョヴァンニさんの話を聞いていると、一枚の石板(せきばん)が目に留まる


「恋人たちの伝言板?」


「ああ、それか!それは恋人たちが伝言板として実際に使用していた石板だよ。いつの時代も愛というものは変わらず存在したんだね」


「愛は言葉のみならず行動も伴することを(わざ)としなさい?」


「えっミチル、古代文字が読めるのかい?」


 あ、しまった。声に出して読んでしまった。


「ミチルはスキル言語士を持ってるからね!こんなの朝飯前ですよ」


 なぜかランが得意気に答える


「へぇ、便利なスキルだなぁ恋人たちの愛を直に感じられるなんて羨ましいよ!なんてったって愛は人生の最重要ワードだからね」


 愛を語るジョヴァンニさんに向かって


 ブゥゥゥン


「おわっなんか飛んでる」


 何かが飛んできた


「ハチだ」


「ハチだな」


「ハチだね」


 よく見ると草と花が入り交じるなかに遺跡と並んで巣箱がちらほら置いてある


「蜂の巣?」


「ここでは養蜂もやってるんだ。リモーネ国はハチミツ作りも盛んだからね」


 ジョヴァンニさんがハチを避けながら教えてくれた。

 なるほど。遺跡と蜂の巣箱、なかなか見ない組み合わせだな。これも古い遺跡と自然が融合したこの場所ならではなのかもしれない


 そこでは気持ちのいいそよ風が吹くなか、働きバチたちが一生懸命甘い蜜を集めていたのだった


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