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大切なものを失った伯爵が奴隷のダークエルフ少女を買ったら、いつの間にか最強の領地になっていた……  作者: 積と和〝
第2章 王都防衛戦

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サラVSクリスティーナ

翌日。

王都郊外の森は、朝靄に包まれていた。湿った土の匂いと、静まり返った空気が、これから起こることを予感させるように重く沈んでいる。


アルフレッドたちは、ついに侯爵の新しい拠点へと辿り着いていた。

古い地図にも載っていない場所――まるで意図的に隠されていたかのような、森の奥深く。


「ここだ」


アルフレッドの低い声が、静寂を裂いた。

その視線の先には、崩れ落ちた城跡がある。

かつては威厳を誇っていたであろう石壁は崩れ、蔦に覆われ、時間に忘れ去られていた。


だが――ただの廃墟ではない。

地面のわずかな魔力の流れ。

人工的な気配。


地下に研究施設がある。


サラが一歩、前に出た。

迷いのない足取り。

その横顔は冷静だが、内側には鋭い緊張が宿っている。


「先に行きます」


短く、しかし強い意志を込めた言葉。


アルフレッドは彼女を見た。

一瞬だけ、何かを言いかけ――やめた。


「頼む」


その一言に、すべてを託す。


サラは小さく頷くと、次の瞬間にはもう動いていた。

影のように、音もなく森を駆ける。

その姿は、まるで闇に溶けるようだった。


崩れた石の隙間にある地下入口。

そこへ飛び込む。


――その瞬間。


ぞわり、と背筋を撫でる感覚。


気配。


誰かいる。


サラの足が止まる。

暗闇の中、呼吸を殺す。


すると、奥から声がした。

静かで、感情の薄い声。


「……あなた」


サラは即座に振り向いた。

炎を灯す寸前の手。

視線は鋭く相手を射抜く。


そこにいたのは――少女だった。


淡い金髪が、薄暗い空間の中でぼんやりと光を反射する。

灰色の瞳は、まるで感情を映さない曇天のように静かだった。


年はまだ若い。

だが、その立ち姿には異様な落ち着きと、底知れぬ力が宿っている。


サラは一歩、距離を取る。

警戒を隠さない声で問う。


「誰?」


少女は、ほんのわずかに首を傾けた。

そして答える。


「クリスティーナ」


その名前が、空気を震わせた。


サラの目が見開かれる。

一瞬、思考が止まる。


「……え?」


その反応を待つこともなく――


次の瞬間、クリスティーナの周囲で魔力が歪んだ。


空気が軋む。

見えない力が、空間そのものをねじ曲げる。


重力魔法。


床の石がきしみ、砕ける。


サラは反射的に後方へ跳んだ。

身体が軽やかに宙を舞い、衝撃を避ける。


「魔法!?」


驚きと同時に、戦闘の意識へと切り替わる。


クリスティーナは無表情のまま、サラを見ていた。

その瞳には敵意とも無関心ともつかない、奇妙な揺らぎがある。


「あなた」


静かに問いかける。


「父の味方?」


その言葉に、サラの心がわずかに揺れた。

だが、すぐに答える。


「伯爵様は正しい人です」


迷いはない。

信念としての言葉。


その瞬間――


クリスティーナの瞳が、はっきりと揺れた。


「……父?」


その一言に、戸惑いが滲む。


まるで、その存在を確かめるかのように。


次の瞬間。

彼女の中で、何かがざわめいた。


知識が囁く。

断片的な記憶。

植え付けられた情報。


――アルフレッド・ノード。


名前だけが、鮮明に浮かぶ。


サラは炎を灯した。

掌に揺れる紅い光が、暗闇を照らす。


「あなたは誰に操られているの?」


その問いは鋭く、核心を突く。


クリスティーナは小さく呟いた。


「わからない」


本心だった。

自分が何者なのか。

何を信じればいいのか。


だが――


次の瞬間、その迷いをかき消すように魔力が膨れ上がる。


まるで命令されるかのように。


戦いが始まった。


サラの炎が唸りを上げて放たれる。

空気を焼き、一直線にクリスティーナへ迫る。


だが、クリスティーナは手を軽くかざしただけだった。


重力が歪む。


炎が押し潰されるように軌道を変え、壁へと叩きつけられた。


轟音。

石が砕け、火花が散る。


森の奥まで振動が伝わる。


サラは歯を食いしばる。

(強い……!)


クリスティーナもまた、無言で魔法を重ねる。

その力は制御されているようでいて、どこか不安定だ。


二人とも強い。

拮抗する力と力。


炎と重力がぶつかり合い、空間そのものが軋む。


遠くで、サンの叫び声が響いた。


「姉さん!」


その声には焦りと恐怖が混ざっている。


アルフレッドが森に駆け込む。

枝を払い、息を乱しながら。


胸騒ぎが止まらない。


そして――


彼は、その瞬間を見た。


炎の光に照らされた、ひとりの少女。


金髪。

灰色の瞳。


その姿を認識した瞬間。


時間が、止まったように感じた。


呼吸が止まる。

心臓が、強く一度だけ打つ。


「……っ」


言葉にならない。


目の前の光景が、信じられない。


記憶の奥底に沈んでいた面影が、現実としてそこにいる。


戦場の喧騒の中で、ただ一人。

アルフレッドだけが、動けずに立ち尽くしていた。

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