サラの嫉妬
王都の屋敷。
会議を終えたアルフレッド・ノード伯爵は、重厚な絨毯が敷かれた廊下をゆっくりと歩いていた。
窓から差し込む午後の光が、磨き上げられた大理石の床に反射して、淡い金色の光の筋を作っている。
会議の緊張がようやくほどけ、肩の力を抜く瞬間だった。
そのとき――
「伯爵様」
軽やかな声に振り向くと、一人の貴族令嬢が立っていた。
金色の髪は光を受けて輝き、優雅なドレスが彼女の立ち姿をさらに華やかに見せる。
彼女の瞳は知性と柔らかさを同時に宿していた。
「お久しぶりです」
アルフレッドは少し驚いた表情を見せる。
「エレナ嬢か」
彼女は侯爵家の娘で、幼い頃から面識があり、城でのパーティーや祭りでも顔を合わせたことがある。
上品でありながらも、どこか親しみやすい笑みを浮かべる女性だ。
「ノード伯爵は相変わらず素敵ですね」
エレナは自然な仕草で、アルフレッドの腕に軽く触れる。
触れられた瞬間、アルフレッドの胸にほんのわずかな温もりが走った。
その様子を――
廊下の角の影から見つめる者がいた。
サラ。
顔が真っ赤に染まっている。
胸の奥で、思わず鼓動が速くなるのを感じた。
(な、なんであんなに近いの……!)
胸がざわざわと落ち着かない。
エレナの視線は優しく、笑みは柔らかい。
サラはその存在感に圧倒され、目を逸らすしかなかった。
「よろしければ今夜、お食事でも」
エレナの言葉は、微かな香水の匂いと共に、廊下の静けさの中に溶け込む。
アルフレッドは軽く首を振った。
「仕事がある」
そのとき、サラは胸の高鳴りを抑えきれず、思わず前に出てしまった。
「伯爵様!」
アルフレッドは驚きの目で振り返る。
「サラ?」
サラは慌てて言葉をつなぐ。
「お、お茶を……」
その様子に、エレナは少し眉を上げて驚きの色を見せる。
「ダークエルフ?」
サラの体が固まる。
耳まで熱くなるような視線。
だが、アルフレッドは自然な口調で言った。
「私の家族だ」
サラの心臓は跳ね上がり、顔の赤みがさらに増す。
認められたという安堵と、嬉しさが入り混じる。
エレナは微笑む。
「そう、可愛いわね」
そして静かに、優雅に去っていく。
廊下に残るのは、微かに香る香水の余韻だけだった。
静寂に包まれた廊下で、アルフレッドがサラに穏やかに尋ねる。
「どうした?」
サラは一瞬目を逸らす。
「別に……」
その言葉の裏に、嫉妬や焦り、そして小さな誇らしさが隠れているのをアルフレッドは気づいていた。
そのとき、サンが後ろからにやりと現れる。
「姉ちゃん、嫉妬してた」
「サン!!」
サラは思わず顔を覆ってしまうが、心の中では少し誇らしい気持ちも混ざっている。
アルフレッドは少し笑い、二人のやり取りを暖かく見守った。
廊下に残る光と影の中で、三人の小さな日常の一コマが、静かに刻まれていく――。
今日はあと2話投稿します。




