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大切なものを失った伯爵が奴隷のダークエルフ少女を買ったら、いつの間にか最強の領地になっていた……  作者: 積と和〝
第2章 王都防衛戦

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侯爵の暗殺者

研究施設の調査を終えた三人は、夜の森を進んでいた。


空には雲がかかり、月明かりはほとんど届かない。木々は黒い影となって重なり合い、風が枝葉を揺らすたびに、ざわり、と不気味な音を立てる。湿った土の匂いが漂い、足元では落ち葉がかすかに音を立てた。


静かな道。


あまりにも静かすぎるその空気に、サラは無意識に眉をひそめていた。


だが。


その静寂は、不自然だった。


サラが突然止まった。


「伯爵様」


低く、張り詰めた声だった。


アルフレッドはすぐに歩みを止める。

彼はサラの表情を見て、ただ事ではないと察した。


「どうした」


短い問い。

だがその声には、すでに警戒が滲んでいる。


サラはゆっくりと周囲に視線を巡らせた。赤い瞳が闇を切り裂くように鋭く細められる。


「気配があります」


その一言で、空気が一変した。


アルフレッドも足を止め、無言で周囲に意識を集中させる。サンも遅れて構えを取った。三人の呼吸がわずかに揃う。


その瞬間。


シュッ。


空気を裂く鋭い音。


「っ!」


サラが反射的に叫ぶ。

「伏せてください!」


思考よりも先に体が動いた。


次の瞬間。

サラがアルフレッドに飛びついた。


ドン。


地面に倒れ込む二人。湿った土の冷たさが背中に広がる。


その頭上を、矢がかすめていった。


ヒュン、と風を切り、背後の木に突き刺さる。

鈍い音が、静かな森に不気味に響いた。


「暗殺者か」


アルフレッドが低く呟く。声は冷静だが、その瞳には鋭い光が宿っていた。


サラはすぐに立ち上がり、アルフレッドの前に出る。その動きに一切の迷いはない。


森の闇が揺れる。


そして、人影がゆっくりと現れた。


黒装束。


顔を覆い、感情の見えない者たち。


五人。


包囲するように、音もなく配置につく。


サンが剣を抜いた。金属音が静寂を切り裂く。


「姉さん!」


その声には、緊張と怒りが混じっている。


サラは一歩前に出て、アルフレッドを庇うように立った。

その背中には、迷いはなかった。


赤い瞳が鋭く光る。


「伯爵様に手を出させません」


その声は静かだが、確かな怒りと決意を帯びている。


暗殺者の一人が、喉の奥で笑った。


「ダークエルフか」


侮るような声音。


「ちょうどいい」

「研究材料だ」


その言葉が、サラの内側で何かを弾けさせた。


胸の奥に押し込めていた記憶。

実験、拘束、痛み。


一瞬で蘇る。


その瞬間。


サラの目が燃えた。


「……許さない」


低く、震える声。


怒りが、魔力へと変わる。


手のひらに炎が灯る。小さな火が、一瞬で膨れ上がる。


「ファイア!」


火球が放たれた。


ドン!!


爆発音とともに、炎が闇を照らす。暗殺者の一人が吹き飛び、地面を転がった。


サンもすぐに動く。


「ウィンドカッター!」


風が刃となって走る。目に見えない斬撃が、複数の敵を切り裂いた。


だが。


それでも、敵は怯まない。


一人が影のように動いた。


音もなく、背後へ。


アルフレッドへと迫る。


「伯爵様!」


サラが振り向く。


だが距離がある。


間に合わない。


時間が、引き伸ばされたように感じられる。


次の瞬間。


ザシュ。


刃が振り下ろされた。


「……!」


しかし。


その剣は、止まっていた。


サラの腕が、刃を受け止めていた。


肉が裂ける感触。

温かい血が流れ落ちる。


それでも、サラは一歩も引かない。


「サラ!」


アルフレッドの声が、初めて大きく揺れた。


サラは振り返り、わずかに笑った。


痛みを隠すように。


「大丈夫です」


その声は少しだけ震えていたが、それでも確かだった。


次の瞬間。


サラの体から魔力が溢れ出す。


炎が一気に膨れ上がった。


ドン!!


爆発。


至近距離で放たれた炎が、暗殺者を吹き飛ばす。


他の者たちも、サンの追撃で次々と倒れていく。


やがて。


森は再び静かになった。


まるで何もなかったかのように。


だが、焦げた匂いと、わずかな血の気配だけが残っている。


アルフレッドはすぐにサラの腕を掴んだ。


「怪我をしている」


その声には、抑えきれない焦りが滲んでいる。


サラは少し目を逸らした。


「これくらい平気です」


強がりだった。


だがアルフレッドはそれを見逃さない。


彼はそっと手をかざした。


淡い光が、サラの腕を包み込む。


温かな魔力が傷を癒していく。裂けた皮膚がゆっくりと閉じ、血が止まる。


サラはその光を見つめながら、少しだけ息をついた。


そして、小さく呟く。


「伯爵様……」


「なんだ」


アルフレッドは短く返す。だがその視線は優しい。


サラは少し迷うように視線を泳がせたあと、意を決して言った。


「さっき……」

「私を心配してくれましたよね」


その言葉には、どこか期待が混じっている。


アルフレッドは一瞬きょとんとした。


そして、少しだけ首を傾げる。


「……仲間を、家族を心配するのは当然だ」


あまりにも自然な答え。


だが、その言葉はサラの胸に強く響いた。


家族。


その響きが、じんわりと広がる。


サラの顔が、みるみる赤くなる。


「……っ」


何か言おうとして、言葉が出ない。


サンがそれを見て、にやりと笑った。


「姉ちゃん完全に恋してる」


軽い口調だが、核心を突いている。


「サン!!」


サラが真っ赤になって叫ぶ。


森の静けさの中に、三人の声だけが少しだけ温かく響いた。


そしてその夜は、先ほどまでの戦いが嘘のように、静かに更けていった。

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