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ときつねシリーズ

合い言葉は、いなりずし

作者: おおらり
掲載日:2025/12/27


 トキは黒髪に黒い瞳の大学生だ。「きつね」と名乗る少女と暮らしている。少女は背が低く、見た目が幼い。きつねの耳としっぽが生えているのだが、どちらも触ればわかる。イミテーションだ。


 トキはスーパーで「簡単! いなりずしの皮」が割引されているのを見る。一度、うどんにお揚げを入れたときにきつねが喜んだのを思い出して、カゴに入れた。



 トキがアパートに帰宅すると、きつねがパタパタっと駆け寄ってきた。


「トキさま、きっとごはんだろうと思って、ごはんを炊いておきました!」

「ああ、これに詰めて食べよう」

「い、いなりずし……」


 きつねは顔を赤くする。

 ニセモノのきつね耳がパタパタする。

 ニセモノのきつねしっぽが揺れている。


「え? 何その反応 そんなに好きなの」

「はい、好きです」


 炊けたごはんをボウルに入れ、酢飯にする。ちゃぶ台の上に置いて、ふたりで並び、スプーンでいなりの皮に詰めていく。


 きつねは、トキが自分でいなりずしを作っているのを、不思議そうに見つめる。




 ちいさな神様は、泣いている。


 村は人がどんどん減って、廃村になってしまった。もう、ちいさな神様しか残っていない。

 

 土地の神様は、信仰されなければ、存在してはいけないのに。


 ある日、神様のボロボロのお社を、小さな男の子が尋ねた。迷子のようだった。

 男の子は、いなりずしを持っていた。


「おばあちゃんに、お稲荷さんにあげてきてねって言われたの。でも、たくさん歩いたのに、見つからない」


 男の子は擦り傷のある足で、泣いていた。


 神様は、お稲荷さまではなかった。

 けれど神様は、最後の力を振り絞って、お稲荷さまのフリをした。


「よかった! 僕にもできた!

 神様、いつもありがとうございます」


 神様は男の子から信仰を得た。

 彼の言葉で、息を吹き返した。

 だから……その男の子のために、なんだってしてあげようって、そう思ったのだ。




 きつねは変な顔をして、いなりずしを食べている。


「きつね、実はいなりずし嫌いなんじゃ」

「す、好きですよ! ただ……ちょっと胸に詰まるだけです」

「喉じゃなくて?」

「はい」


「美味しいですね、トキさま」

「たまに食べると、美味いよな」


 きつねは、泣いている。

 トキはぎょっとする。


「どうした!?」

「いえっ トキさまの成長が嬉しくて……」

「詰めるだけだろ! 詰めるだけのいなりずしだコレは」


 トキは料理の成長だと勘違いしているようだ。


「便利な時代ですね」

 きつねは、きつね耳のつけ根をかきながら、笑った。


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