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昨日のお前を踏みにじれ その③

5

-Disasterpeace-が放つ黄金の光が、書き割りの広場を白く焼き尽くそうとする。


「これで終わりだ。君という物語は、ここで綺麗に完結する」


ベン・ライリーの澄んだ声は、どこまでも正解に近い。


だが、俺の心は驚くほど冷めていた。

俺はポケットの中で、店長がくれた少し泥の付いた、不格好な芋を握りしめる。


「完結ねぇ……。お前の言う綺麗ってのは、俺にとっては吐き気がするほど不自由だ。嫌いだね」


俺は卵と泥にまみれた顔を上げ、黄金の自分を睨みつけた。

老人がこの世界を作ったのかもしれない。Mr. Blueskyを俺に与えたのも老人かもしれない。

だが、この一週間の最低時給と卵の生臭さだけは、あんたの脚本にはなかったはずだ。


「ベン・ライリーと言ったか。

店長がくれたこの芋は、時給1,000円と引き換えに手に入れた、俺だけの現実だ。

あんたの作った『完璧な俺』には、一生かかっても手に入れられないもんなんだよ!」


その瞬間、俺の背後で、消えたはずの青い気配が激しく脈打った。

それは神々しい守護霊などではない。ゴミ溜めから這い出した泥のような、不格好な執念の塊だ。

「Bluesky! 確率は操作しなくていい。この『完璧な世界』とやらの法則を、俺の泥で汚してやれ」


ガラクタを纏ったMr. Blueskyが、黄金の聖人に組み付いた。

100%の成功を体現する-Disasterpeace-にとって、俺が浴び続けてきた不条理な悪意──その大半を占める生卵の不快さと、久々に感じた底辺の重みは、理解不能なバグとして奴のシステムの根幹を揺さぶる。


完璧な物語が、一気にひび割れていく。


「やめろ! 私の最高傑作を、そんなゴミで汚すな! 対処しろ! アニマ・メア・ルーチェ!」


老人の悲鳴が空を切り裂くように響く。


「……悪いな、白い爺さん。俺は最初から、あんたの最高傑作になるつもりなんてねえんだ」


俺は全ての力を込めて、黄金の聖人を粉砕した。

同時に、パステルカラーの世界がガラス細工のように崩れ落ち、視界が真っ白な光に飲み込まれた。



6


次に目を覚ました時、俺はいつもの安アパートの、安物ソファの上にいた。

窓の外からは、深夜の街の、どこか懐かしい排気ガスの匂いがする。


「……夢、じゃねえよな」

自分の手を見る。能力の、あの全能感に似た疼きはもうない。

Mr. Blueskyの気配も、コインを操る感覚も、塵一つ残さず消えていた。


だが、机の上には、店長がくれたはずの「6個の芋」が、確かに置かれていた。

俺は老人が作った物語を、自分ごと封印したのだろう。


「バイト探さないとな。あの店は悪趣味過ぎる」

アパートを出て、夜風を吸い込む。

街角の電柱。

深夜営業のコンビニ。

そこには、神も脚本家もいない。

ただの、無責任で、取り替えのきく日常があるだけだ。


ふと、歩道を行く人が目に入った。

スーツをビシッと決めた女。一条寺だ。

「……あ、すみません」


すれ違う際、肩がぶつかった。

だが、一条寺は俺を一瞥しただけで、「失礼」と短く会釈して通り過ぎていく。


彼女は俺を覚えていない。この再構成された世界で、俺はただの通行人Aに戻った。


能力という不条理の根源を倒したのだ。

命を狙われることも、世界の危機に立ち向かう「責任」を負わされることも、もうない。


「……ま、いいか。責任取らなくて済むしな」

俺はポケットの中の小銭を数える。

なけなしの金だ。

だが、それは間違いなく、俺が自分の足で立って手に入れた重みだった。


俺は新装開店のパチンコ屋の看板を見上げ、少しだけ笑った。

確率は1/319。

インチキはもう効かない。

だが、今の俺には、その不平等なギャンブルこそが、生きている実感がした。





















第12話までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

正直、この物語を完結させられるか不安でしたが、数名の読者の方々が毎話追いかけてくださるのが、執筆の唯一のガソリンでした。

10万字書き上げられたのは読者の方々のおかげです。


一度やってみたかったので、全12話を振り返りたいです。

※作品の雰囲気を大切にしたい方はご注意ください。


1話 風能力者と戦う話

めちゃくちゃ難しかったです。

小説って難しいんだなと気付かされました。

構成に関して今でも反省する点が多いですがエピソード自体は好きです。


2話 首人形にしてくる能力者

一番自信のある話です。

これを書ききってしまって続きどうしようとなりました。

終盤の大仏パートは『大仏廻国』という1934年のロストメディア化した映画が元ネタです。

ツァンツァ(干し首)に関しては平山夢明氏の『異常快楽殺人』という本から着想を得ました。


3話 鉄女

一番自信のない話です。

『鉄男』という塚本晋也監督の映画が好きなので登場人物が鉄になるのは入れてみたかったですが、上手く行ったかは読者の皆様の判断に一任します。


4話 緑内障になって新興宗教に入る話

5話 月の裏で科学否定論者と戦う話

この2部作は結構好きです。

どんどんスケールが大きくなって作者の扱えない領域まで来るというのが書いてて面白かったです。

5話はその分筆に拙さが出たなと思います。

N線の元ネタはルネ・ブロンロという科学者です。


6話 カニバリストと闘う話

食に対して興味があまり無いので書くのに苦労しました。

『カニバリズム論』や『異常快楽殺人』を読みました。


7話 ベーゴマ爺とコマバトルする話

わざわざベイブレードのムック本をアマゾンで取り寄せて読みましたがあまり活かせなかったです。

かなり懐かしい気持ちになりました。

子供主人公の文体は、平山夢明氏の『独白するユニバーサル横メルカトル』という短編集が参考になりました。


8話 時間停止能力者と戦う話

能力バトルなら時間能力と戦わないとと思い書きましたが、完全に小林泰三氏の『酔歩する男』のギミックを使いました。

SFは難しいと本当に思いました。

野球要素は僕の趣味です。

頑張れ中日。


9話 蟻型ロボットが頑張る話

手塚治虫氏のロビタの最期をやりたいと思い書きました。

書いてて凄く可哀想だなと思いました。

文量も内容も薄い話になってしまう懸念があったので結構濃く書けて満足です。


10話 黒塗り能力者が復讐する話

これだけプロットを決めずに即興で作った話なので心配でした。

けっこう気に入っています。

赤黒ゲームは実際に存在しますがちょっと違う方法で行うらしいです。


11話 民俗学上の穢れの話

父親が造園業なのも、心筋梗塞になったのも、若い頃に祟りがあったっぽいのも事実なので半分は実話です。

袋刑はヨーロッパで行われていた刑罰らしいです。


12話 上位互換が出てくる話

どう終わらせるか悩みました。

書きたいものを書ければいいかと思い、終わらせれました。

アメコミヒーローが好きで、上位互換やコンパチキャラが出てきて闘うという展開が多いので書きたいのはそれだと思い書きました。

芋6個は大岡昇平の『野火』からの引用です。


以上、全12話になります。

素人の拙い物語ではありましたが、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


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