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最強魔王、引退したい。でも勇者がだめすぎるので、育成はじめました。  作者: 冬木ゆあ


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第9話 魔王、ダンジョンを攻略したい①

 翌日早朝。

 森の入り口でリリトヴェールとアランがジャンを待っていた。

 これから挑むのは、地下九階以降が未踏破のダンジョンだ。

 何が起こるか分からない。

 それでも二人は不安よりも早くダンジョン攻略に挑みたいとそわそわとしていた。


 そこにジャンがひとりのエルフの女性を連れてやってきた。

 金髪で緑の瞳をした綺麗な女性だった。


「妻のメラニーだ。今は引退しているが、Bランクのヒーラーだ」


 それを聞いたアランは驚いて尋ねた。


「ジャン、結婚していたの?」


 ジャンはメラニーの肩を抱いて、頷いた。


「子供も二人いるぞ。今日は知人に預けてきたけどな」


 メラニーはリリトヴェールとアランに勇ましく微笑んだ。


「ジャンからあなたたちとダンジョン攻略に挑むと聞いて、昔の血が騒いだわ。わたしにも手伝わせてちょうだい」


 リリトヴェールとアランは交互にメラニーと握手をした。


 ダンジョンの近くの店で食料を多めに買い込み、アランの持つ鞄に収納した。

 ダンジョンの受付で四人分の腕輪を受け取って、準備は整った。

 四人はダンジョン攻略を目標に掲げ、足を踏み入れた。



 地下四階までは順調に進み、四人は地下五階に下りた。

 メラニーは短剣の二刀流だった。

 冒険者はすでに引退したと言っていたが、その腕は鈍ってはいないようだ。


 地下六階、七階と降りてくると、魔獣も強さを増し、前衛のアランとジャンは怪我を負うことが増えてきた。

 リリトヴェールとメラニーの治癒魔法で凌いではいるが、少し苦しくなってきたのは否めない。


 地下七階の安全地帯で四人は睡眠をとることにした。

 テントを張り、眠る前に食事を取った。

 常にうす暗いダンジョン内では時間の感覚などとうになくなっていて、夕食なのか朝食なのか、もはや分からない状態だった。

 安全地帯には、他のパーティ―もいて、相手方のリーダーと思われる男性が先に話しかけてきた。


「随分と若い子たちを連れているな、ジャン」


 ジャンと顔見知りらしく、ジャンは軽く手を上げて答えた。


「こいつら若いけど、なかなかやるぞ。俺たちは今回ダンジョンの攻略を目指している」


 すると、相手方パーティーは、侮るように笑った。


「おお。それはすごい。応援してるぜ」


 相手方パーティーの反応にリリトヴェールは少しむっとしたが、それを見ていたジャンは笑みを浮かべて言った。


 「言わせておけ。俺たちはやることをやるだけだ」


 リリトヴェールは少しだけ溜飲が下がって、頷いた。


 ――ジャンの言う通りだ。今は何を言ってもしかたがない。ダンジョンを攻略して侮ったことを後悔させてやる!


 明日にはさらに魔獣が強くなるであろう地下八階に下り、地下九階以降は未踏破の階層のため安全地帯がない。

 今日がゆっくりできる最後の日だった。

 四人はゆっくりと休むことにした。



 翌日。

 ジャンの知り合いのパーティーはこのまま地上に戻ると言ってそこで別れた。

 リリトヴェール、アラン、ジャン、メラニーは更に下層に向かって歩き出した。

 すると、さっそくスケルトンが八体の集団で襲ってきた。

 まずはリリトヴェールとアランが魔法でスケルトンに攻撃を仕掛けた。

 魔法で弱ったスケルトンをジャンとメラニーが剣で倒し、数を減らしていく。

 アランも今度は前衛に回り、勇者の剣でスケルトンを切りつけた。

 骨が砕ける音がして、スケルトンが魔石に変わり、地面にコツンと落ちる音がする。

 リリトヴェールはそれを聞きながら魔法を唱え続けた。


「サンダーボルト!」


 ――レベルをアランに合わせているから強力な魔法が使えないのがもどかしい。でも、連日のダンジョンでアランも少しはレベルが上がっているかな。私も少しレベルを上げていいかな……。


 リリトヴェールは目を瞑り、レベルを十五くらいまで調節した。

 それから杖を構え、魔法を唱えた。


「サンダーボルト!」


 リリトヴェールの魔法の攻撃範囲が広がり、攻撃力も上がったようだ。

 攻撃を受けた数体のスケルトンが魔石に変わった。

 その間にアラン、ジャン、メラニーは残りのスケルトンを切り伏せた。

 戦闘が終わると、さすがに四人とも肩で息をしていた。

 落ちた魔石を拾い、リリトヴェールは鞄にしまった。



 宝箱の探索よりもダンジョン攻略を優先し、四人は地下九階へと向かった。

 ジャンは先頭で階段を下りながら後続に言った。


「ここから先は未踏破の区域だ。油断するなよ」


 それぞれ神妙な面持ちで、階段を下りて行った。

 地下九階に下りた途端、空気が変わり、今まで洞窟だったのが、神殿のような造りになった。 


 ――なんだこの感じ。なにかいるな……。


 リリトヴェールは気配を察知して、警戒していた。

 そんな中、スケルトンと戦いながら進んで行くと、広場に出た。

 ここにはスケルトンの姿がないようで、ジャンはほっと息を吐き、地面に荷物を置いた。


「ここで一休みしよう」


 四人は広場の壁に凭れて休んだ。

 リリトヴェールはさっきから感じる気配と、未踏破というプレッシャーからか、地下八階にいた時よりも精神的にきついものがあった。

 リリトヴェールはアランが心配になって様子を伺い見ると、膝に頭を埋めて休んでいた。

 休憩をはじめてから誰一人として話していない。


 ――地下九階から未踏破なのも頷ける。地下八階と全く雰囲気が違う。アランの体力のことも考えるとここらへんが潮時か。無理してアランになにかあっても困るしな……。


 リリトヴェールが一度ダンジョンから出ることを提案しようとしたその時だった。


「楽しいなぁ……」


 アランが顔を上げ、疲れた顔に笑みを浮かべながらぽつりと言った。

 それを聞いたジャンが嬉しそうににやにやと笑った。


「この状況でそう言えるとは大したもんだ。アランもとうとうダンジョンの魅力に取りつかれたか」


 そのやりとりを見ていたメラニーがくすくすと笑った。

 リリトヴェールは呆気にとられた顔で言った。


「この気配の中、よく穏やかでいられるね」


 リリトヴェールの言葉にジャンは首を傾げた。


「気配? メラニー、何か感じるか?」


 メラニーは少し辺りの気配を探ったあと答えた。


「少しだけ。まだはっきりとは分からないわ」


 アランもきょろきょろと周りを見回しているが、良く分かっていないようだった。


 ――嘘だろう……。人類の魔力探知能力鈍すぎないか? よくここまで繫栄したものだ……。


 リリトヴェールが衝撃を覚えていると、ジャンが尋ねた。


「リリー、その気配とやらは近いのか?」

「えっと、たぶんこの下の階だと思う」


 それを聞いたジャンが驚いた顔をして言った。


「階下の気配まで辿れるのか。さすがリリーだな。よし、休憩はここまでにして、ダンジョンの主に挨拶をしに行こう」


 一行は立ち上がり、士気を新たに地下十階に下りるための階段を探しはじめた。



「とうとう我の元に辿り着く者が現れたか……」

 

 暗い部屋の中、一匹のフェンリルが薄紫の瞳を開けた。

 永い眠りについていたフェンリルは、軽く伸びをして、はたと止まった。


 ――ん? ちょっと待て。光のやつは勇者だろうか。それより、隣にやばい奴いる! 闇のやつ、魔族か? この魔力、気配、魔王レベルだろ、これ。えー? もしかしてここに来るの……?


 フェンリルのしっぽがたらんと下がった。

 フェンリルは本能的に逃げ出したいと感じていた。

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