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最強魔王、引退したい。でも勇者がだめすぎるので、育成はじめました。  作者: 冬木ゆあ


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第7話 魔王、はじめてのダンジョン①

「アラン! そろそろ起きて。依頼をこなしに行くよ」


 リリトヴェールは起きる気配のないアランに声を掛け続けていた。

 アランはやっと気だるげな声を上げ、少し寝がえりを打つ。


「もう少し寝かせて、おふくろ……」


 その一言にリリトヴェールの怒りは頂点に達し、アランの布団を剥いだ。


「誰がおふくろだ! 昨日の決意はさっそくどこに行った? 寝ぼけてないで朝食を食べに行くよ」


 アランはのそのそと起き上がり、目をこすってあくびをした。


 朝食を取った後、森へ行き、魔獣討伐と薬草採集をする。

 夕方には冒険者ギルドに戻り、受付のアンヌに魔石と薬草の鑑定をお願いして依頼達成料をもらう。

 そのあとは宿屋に戻り、夕食を取って寝る。

 そんな生活が一週間くらい続いていた。


 夜の宿屋の部屋で、リリトヴェールは帳簿をつけながら嘆いた。


「残り大銅貨七枚と小銅貨五枚か……。火の車だな」


 Dランクの収入では赤字が続いていて、リリトヴェールは頭を抱えていた。

 一方、アランはベッドに座り、勇者の剣を磨いていた。


「俺はこの生活、好きだけどなぁ」


 リリトヴェールは呑気なことを言っているアランを睨んだ。


「このままだと宿代が払えなくなって野宿だよ」


 アランはそれを聞いてぞっとしたように言った。


「それは嫌だぁ」



 その翌日。

 リリトヴェールとアランが冒険者ギルドで魔石と薬草の換金をしている時にアンヌは提案した。


「だいぶ魔獣退治をしていますし、レベルの再確認をしませんか? レベルの低い方は成長も早いですし、もしかしたらレベル十に達しているかも。冒険者カードの再発行に小銅貨一枚かかりますけど、よかったら」


 リリトヴェールは勢いよく頷いた。


「やる!」


 アンヌはレベルの測定ができる本型の魔道具をカウンターに置いた。

 勇者がレベル測定をすると聞きつけた冒険者たちが物見に集まってきた。

 アランが周りに見守られながら計測すると、レベル十一になっていてガッツポーズした。


「よっしゃぁ!」


 周りからも温かい拍手が沸き起こり、アランは調子に乗ってその声に応えた。

 リリトヴェールはアランの結果を見て、目を閉じた。


 ――アランがレベル十一だからレベル十二くらいにしておくか。アランより弱いのはなんか嫌だ……。


 リリトヴェールは自分のレベルを調節してから魔道具に手を置いた。

 アンヌは計測結果を見て手を叩く。


「おめでとうございます。リリーさんもレベル十でCランクへ昇格です!」


 ――レベル調整失敗した……。

 

 アランは鼻高々に言った。


「俺の方がリリーより強くなった!」


 リリトヴェールは悔しさのあまり唸った。

 アンヌはCランクに上がった二人に尋ねた。


「明日からダンジョンに入りますか?」


 リリトヴェールとアランは頷いた。

 アンヌはダンジョンについて説明する。


「ダンジョンは森を抜けた先にあります。ダンジョンの受付もそこにありますよ。ダンジョンに入る前に必ず受付で説明を受けてくださいね」


 そこに先日相談に乗ってくれたジャンがビールを片手に寄ってきた。


「おう。新米冒険者ども」


 アランがジャンを見上げ、自慢げに言った。


「もう新米じゃないよ。Cランクになったんだ」


 それを聞いたジャンはにっと笑って、アランの頭を撫でた。


「そりゃあ、めでたいな。ビールを奢ってやるよ」


 やり取りを聞いていたアンヌが困った顔でジャンを止めた。


「だめですよ。アランさんとリリーさんはまだ十四歳。お酒は十五歳からですからね」


 ジャンはアランの頭をポンポンとした。


「まだお子様だったか。じゃあ、ジュースを奢ってやるからついてこい」


 三人はテーブルについて、ジャンからダンジョンの話を教えてもらった。

 ジャンはビールを煽った。


「明日は俺が一緒にダンジョンに潜ってやるよ。お前らだけだと心配だからな」


 ――ダンジョンに慣れているジャンが一緒であれば心強い。


 リリトヴェールとアランはジャンと一緒に初ダンジョンに挑むことにした。



 翌日。

 森の入り口で待ち合わせていたジャンと合流し、さっそくダンジョンへと向かった。

 ダンジョンはリリトヴェールとアランが探索をしていた森の先にあった。

 ダンジョンの周りには小さな集落ができていて、宿屋や食料を売っている屋台、武具や防具の店など一通り揃っていた。

 ジャンはリリトヴェールとアランを連れてひとつのテントに入り、受付をしている女性に声をかけた。


「これからダンジョンに入る」

「3名様ですね」


 女性は腕輪を三つカウンターに置いた。

 ジャンは代金を支払い、腕輪をリリトヴェールとアランにひとつずつ渡した。

 銅でできた細身の腕輪だった。


「腕に着けておけ。この腕輪はダンジョン内で壊れると自動的にダンジョンの入り口まで戻る転移魔法がかけられている。つけている人間の脈拍に異常があれば同様だ」

「便利な魔道具だね」


 リリトヴェールはそう感心しながら腕輪つけた。

 アランも頷いて、腕輪をじっくりと眺めてから装着した。


 三人は食料を調達してからダンジョンに入った。

 ダンジョン内は洞窟になっていて、松明が焚かれており、歩くのには問題ない明るさだった。

 ジャンの後に続いて、アラン、リリトヴェールもダンジョンを進んで行く。

 ジャンのレベルが高いせいだろうか、魔獣は寄りついてこなかった。


 さっそく宝箱を見つけて、アランが茶色の瞳を輝かせて駆け寄った。


「リリー! 宝箱だよ!」

「それミミックだよ」


 リリトヴェールは冷静に言った。

 アランはきょとんとした顔でリリトヴェールを振り返った。


「ミミック? なにそれ?」

「宝箱に化けた魔獣だよ」

「なにそれ、怖い!」


 アランはその場で立ちすくんだ。

 そのやり取りを見ていたジャンが尋ねた。


「リリーは宝箱が見分けられるのか?」


 リリトヴェールは不思議そうにジャンを見上げた。


「え? だって、魔力の感じで分かるでしょ? この感じは魔獣だ」


 ジャンは感心したように言った。


「すごいな。普通は感じ取れるものではないぞ」


 リリトヴェールはアランを見ると、同じように頷いていた。


 ――しまった。人類はそこまで魔力に敏感ではないのか。こんなに分かりやすいからジャンになら分かると思っていた……。


 リリトヴェールがどう繕おうか思案していると、ジャンは更に尋ねた。


「しかし、その能力は有能だぞ。ダンジョンからの緊急脱出で最も多いのが、ミミックに遭遇しての負傷だからな。もし中身が魔道具ならどうだ? ミミックと見分けられるのか?」


 リリトヴェールは「うーん」と唸ってから答えた。


「魔道具だと精度は劣るかも……」


 それを聞いたアランは宝箱を指差した。


「じゃあ、あれも魔道具の可能性があるってこと?」


 リリトヴェールは呆れた顔で答えた。


「あれはミミックだって……」


 しかし、アランは諦めきれないようで、そわそわとした様子で尋ねた。


「でも、リリーは魔道具だった場合はあまり自信がないんでしょ? 開けてみようよ」


 リリトヴェールが止める間もなく、アランは宝箱を開けた。

 そして、ミミックに上半身を食われた。


「なにこれ、怖い!」


 こもったアランの声が辺りに響き渡ると、緊急脱出用の腕輪が光り、姿が消えた。

 アランの脈拍の異常を察した腕輪が作動し、入口まで戻されたようだ。

 事の顛末にリリトヴェールは大きなため息を吐き、ジャンは大笑いして言った。


「しかたがない。迎えに行くか。リリー」

「そうだね」


 リリトヴェールとジャンは来た道を引き返すことにした。



 ダンジョンを出ると、アランが正座して待っていた。


「ごめんなさい」


 リリトヴェールは呆れた顔で言った。


「あれほどミミックだと言ったのに。ダンジョンに入って十分と経たずに出ることになった。それに腕輪だってタダじゃないんだよ」

「うう……。リリーの言うことちゃんと聞くよ……」


 ジャンは笑いながら間に入った。


「まぁまぁ。そう怒ってやるな。いい勉強になったろう。笑わせてもらったぜ。アランのミミックに食われている姿……」


 ジャンは口元を抑え、必死に笑いをこらえていた。

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― 新着の感想 ―
勇者アランがまったりしてて、リリトヴェールがしっかりした魔王で、意外とバランスがとれてるパーティーですよね。魔王なのにアランに合わせてあげる(ちょっと上に調整)ってのが、バレないためですが可愛くて好き…
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