第5話 魔王、冒険者になる
翌朝、さっそくリリトヴェールとアランは、冒険者ギルドがある商店街の入り口に向かった。
二人は冒険者ギルドの扉を潜ると、そこは酒場も併設されていて、冒険者で賑わっていた。
冒険者ギルドの受付は奥に設置されているようで、二人は冒険者たちが座る席の合間を縫うように歩いて行く。
すると、野次が飛んできた。
「おいおい。ここは子供の来るところじゃないぞ」
「さっさとおうちに帰りなぁ」
男たちの笑う声が響き渡った。
しかし、リリトヴェールは気にした素振りはなく、受付のカウンターにいる女性に声をかけた。
「魔石の換金がしたいんだけど」
女性はにこやかな表情で尋ねた。
「冒険者カードはお持ちですか?」
リリトヴェールは首を横に振った。
「まだ登録していない」
「失礼ですが、年齢を教えてください」
リリトヴェールが答えた。
「ふたりとも十四だ。年齢制限があるの?」
女性は頷いた。
「十三歳から登録できます。お二人は十四歳でいらっしゃるので問題はございません」
女性はそう言いながら、一冊の本を取り出して開いた。
表紙の裏に手形が書いてあり、本の中身は白紙だった。
「この手形に手を乗せてください。すると、ステータスを読み取り、右側の紙に記載されます。それが冒険者カードになります。登録料はひとり小銅貨五枚です」
リリトヴェールはカウンターに小銅貨五枚を置いた。
「へぇ、便利な魔道具だね。アランが登録して」
アランは頷いてから手形に手を重ねた。
右側の紙に文字が浮かび上がり、女性はそれを見て、少し興奮したように言った。
「レベルは六ですね。全体的にステータスは高いです。特に攻撃力。属性はすごい! 二属性に適性があります。光と火。光属性は珍しいんですよ」
女性はアランの腰にある剣に気がついて尋ねた。
「その剣、もしかして勇者の剣ではありませんか?」
アランは「ああ」と言って、自分の剣を見た。
すると、やりとりを見ていた他の冒険者からも声が上がった。
「勇者だって?」
「そういえば昨日、この街に勇者が来ているって聞いたぞ」
冒険者たちがカウンターにぞろぞろと集まってきた。
女性はアランに羽ペンを渡し、ステータスを測る魔道具を指差した。
「それではここにサインをお願いします。冒険者として活動するための名前なので、本名でなくても大丈夫です」
アランは少し考えてから『アラン』と本名を記載した。
女性はその紙を切り取って、アランに渡した。
「これが冒険者カードです。なくさないようにしてくださいね」
アランは頷いて、それを受け取った。
複写になっていたようで、女性はもう一枚紙を切り取り脇に置いた。
それからリリトヴェールに視線を向けた。
「次、お嬢さんどうぞ」
リリトヴェールは両手を横に振った。
「私はいいよ」
女性はリリトヴェールに確認した。
「依頼を受ける際、パーティ全員が冒険者登録をしていないと受けられません。違反すると罰則が科せられます。依頼は受けないご予定ですか?」
リリトヴェールは少し考えてからアランに視線を向けた。
「まずは魔石を換金してもらおう。私が登録するかはその金額を見て決める」
アランは鞄から魔石の入った巾着を取り出して、中身をカウンターに出した。
「いくらになりますか?」
女性は魔石を鑑定して言った。
「小銅貨十五枚ですね」
リリトヴェールはそれを聞いて苦笑した。
「魔石ってあんまりお金にならないんだね。しかたがない。私も登録するよ」
リリトヴェールは目を瞑った。
――今の自分のステータスも気になるけど、騒ぎになっても困るからな。アランがレベル六だというのなら、そのくらいまでレベルを落として……と。
リリトヴェールは茶色の瞳を開いて、ひとつ息を吐いてから魔道具に手を置いた。
女性が浮かび上がったステータスを見て目を丸くした。
「レベルは七ですね。あなたも全体的にステータスが高いですが、魔力がすごいです。アランさんと一緒で属性は二つ。闇と雷ですね。闇属性もとっても珍しいですよ。それではここにサインをお願いします」
リリトヴェールは『リリー』と名前を書いた。
女性から冒険者カードを受け取り、アランのと一緒に鞄に入れた。
女性は、今度はカウンターから出てきて、依頼が貼られた掲示板へと案内してくれた。
「依頼はここに張り出されます。お二人はレベル六とレベル七なので、Ⅾランクの冒険者です。なので、この辺りですね」
女性が示したのは、森での薬草採集と、魔獣討伐の依頼だった。
それぞれ成功報酬はあまり高いものではなかった。
リリトヴェールはじっくりと掲示板を見ていると、破格の報酬の依頼があった。
「あのダンジョン攻略、大銀貨八枚っていうのはなに?」
「近くにあるダンジョンの攻略依頼ですね。現在地下八階以降は未踏破となっています。それを全部攻略すると成功報酬として大銀貨八枚が支払われます。ダンジョンにはお宝や、魔物も多く、攻略できなくてもけっこういい収入源になります」
「それ受けたい!」
リリトヴェールがそう言うと、女性は申し訳なさそうな顔をしながら答えた。
「ダンジョンへ挑むにはレベル十、Cランク以上でなければいけません。残念ながらお二人にはまだダンジョンに入る資格がないのです。なので、レベル十まで頑張って鍛錬してくださいね」
それを聞いたリリトヴェールはショックを受けた。
――それを早く言ってほしかった……!
ショックを受けている横でアランがリリトヴェールに視線をやった。
「ほら。やっぱりもう少しレベルを上げてから旅立つべきだったんだよ」
そう言われたリリトヴェールは何も言い返せなくて悔しげにアランを見た。
リリトヴェールは溜息を吐いて、女性に言った。
「とりあえず薬草採集と、魔物討伐の依頼を受けます……」
やりとりをずっと見守っていた冒険者たちは笑った。
「勇者様が薬草採集と、魔物討伐だってよ」
「レベル六って俺たちの方が強いじゃないか」
リリトヴェールとアランはそんな中、小さくなりながらとぼとぼと冒険者ギルドをあとにした。




