第40話 二人の旅立ち
リリトヴェールとアランは、旅のはじまりの地であるヴァロワ王国王都に戻ってきた。彼女はリリーの姿だ。ヴァロワ城を見上げ、二人はうなずいた。
ヴァロワ王の執務室がノックされ、ヴァロワ王は入室を許可した。入ってきたのは補佐官で、一礼してから報告した。
「勇者が帰還いたしました。魔王を名乗る魔族の女性と一緒に……」
ヴァロワ王は怪訝そうに顔を上げた。
「ちょっと意味が分からない。勇者と魔王が一緒にこの城にきたの? なんで?」
補佐官は汗を拭いながら答える。
「魔王が和平交渉にいらしたようです」
「魔王が和平交渉?」
ヴァロワ王は首を横に傾げながら立ち上がった。
「それで、わしに会いたいと?」
補佐官はうなずいた。
ヴァロワ王はマントを羽織りながら言った。
「魔王直々に来られたら、わしでないとじゃん。念のため国の精鋭たち用意して、悟られないように同席させて」
補佐官は相変わらず止まらぬ汗を拭っている。
「しかし、我が国に魔王と勇者を止められる者がいるかどうか……」
「ええ~。勇者、魔王側に完全についているの……? 要求飲まないといけないんじゃない?」
「ここは陛下の威厳で、不平等条約だけは避けてください」
「命は惜しいしなぁ……」
ヴァロワ王は補佐官と数人の護衛を従え、リリトヴェールとアランが待つ応接室に向かった。
応接室の扉を開くと、アランと魔王の姿をしたリリトヴェールが立っていた。リリトヴェールは黒い髪を揺らしながら丁寧にお辞儀をした。
「魔王、リリトヴェールでございます。陛下、急な訪問にご対応いただき、感謝いたします」
礼儀正しいリリトヴェールにヴァロワ王は拍子抜けしたが、内心に隠し、礼を返した。
「ヴァロワ王国国王、リチャード・デ・ヴァロワです。こちらこそ、遠路はるばるようこそいらっしゃいました」
ヴァロワ王はリリトヴェールを見て、ふと疑問に思った。
「……以前、お会いしたことはございませんか?」
リリトヴェールはにこりと笑った。
「ええ。一度だけ。アランが旅立つその日に……」
その日は、王城に泊めてもらうことになり、バルコニーでリリトヴェールとアランは風に当たっていた。リリトヴェールは手すりに肘をつき、溜息をついた。
「さすがに一日じゃ決まらないか……」
アランは笑った。
「デランジェール王国が特別だったんだよ。リリーが魔王だったと明かしたら、陛下も国の恩人の頼みとあらばと条約を結んでくれて。フローラ姫も陛下に頼んでくれたし」
リリトヴェールはうなずいた。
「フローラ姫には感謝しないとね。それで、アランは陛下からフローラ姫との婚姻を勧められていたけど、どうするの?」
「断るよ!」
アランは食い気味に言った。それを聞いたリリトヴェールは、不思議そうな顔をしている。
「王族との結婚とか、木こりの息子から大出世じゃない」
アランは溜息をついた。
「リリーってちょっと鈍いところあるよね……」
リリトヴェールは良く分かっていなかったが、前々から気にしていたことを訪ねた。
「アランはこれからどうするの? このまま家に帰る?」
アランは少し考えてから答えた。
「一旦顔は出したいな。リリーは魔王を辞めないから魔王城に戻るでしょう?」
「そうだね。和平交渉をはじめちゃったから、しばらくは引退できないよね」
リリトヴェールは風で靡く髪を抑えた。アランはその姿を見て、覚悟を決めた。
「俺はリリーと一緒にいたい。リリーが俺の旅に付き合ってくれたように、今度はリリーの目標のために俺が付き合うよ」
リリトヴェールは赤い瞳でアランを見た。
「いいの? アランが側にいてくれたら、私は嬉しいけど……」
アランは茶色の瞳に笑みを浮かべた。
「本当? なら、これからも一緒にいようよ、リリー」
アランはリリトヴェールの手を握った。リリトヴェールも心からの笑みを浮かべてアランの手を握り返した。
これから魔王と勇者が新しい世界を作る物語がはじまっていく――。
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