第4話 魔王、旅立つ②
二人は王城を出て、まずは宿を取った。
今日は王都で旅支度のため一泊する予定だ。
案内された部屋でさっそくアランはヴァロワ王からもらった巾着の中身を確認した。
中には大銅貨二十枚が入っていた。
リリトヴェールはその大銅貨を掴んで言った。
「これだけあれば隣国のデランジェール王国まではなんとかなりそうだね。昼食を取ったらアランの装備品を整えに行こう」
宿屋の一階の食堂で昼食を食べた二人は、王都の街に繰り出した。
アランがきょろきょろと周りを興味深そうに見ながら歩くので、リリトヴェールはアランが人にぶつからないか冷や冷やした。
「アラン、ちゃんと前を見て歩いてよ」
すると、アランはリリトヴェールの手を取った。
「こうすれば大丈夫だろ?」
リリトヴェールは溜息を吐いて、アランの手を握り返した。
二人がまずやってきたのは目的地である防具店だった。
入り口のドアを開けると、カウンターの向こう側にいるおじさんが「いらっしゃい」と声を掛けてきた。
リリトヴェールは店主のおじさんに話しかけた。
「この子の防具を揃えたいんだけど」
リリトヴェールは、店内を興味深そうに見て回っているアランに視線を向けた。
店主は頷いてから言った。
「見たところ大した装備をしていないようだが、駆け出し冒険者かい?」
リリトヴェールが答えた。
「そんなところ。これから旅に出るんだ」
店主はカウンターから出て、店の商品をいくつか見繕ってカウンターに置いた。
「まぁ、はじめて買うなら、旅人の服と、ローブ、それから靴。このあたりでどうだろうか。大銅貨四枚でどうだ?」
リリトヴェールは品物を手に取ってじっくりと見た。
それから、アランを振り返った。
「アラン、お前の防具だぞ。もっと興味を示せ」
アランはリリトヴェールの横に立って、品物を見た。
「防具の良し悪しは、よく分からないしなぁ。リリーに任せるよ」
「はぁ。じゃあ、店主、これで頼む。大銅貨四枚だよ、アラン」
アランは巾着から大銅貨四枚を取り出して、店主に渡した。
店主お金と引き換えに品物をアランに渡した。
「まいどあり。風の精霊のご加護がありますように」
アランは店主に礼を言ってから、購入した商品を鞄に入れた。
二人は用を終えたので、観光がてら商店街を見て回ることにした。
リリトヴェールは魔法道具店を見つけてアランに尋ねた。
「ちょっとあの店を見たいな。アランはどうする?」
アランは少し考えてから答えた。
「俺はこの辺りで待っているよ。行っておいで」
リリトヴェールはアランと別れて、ひとり魔法道具店へと向かった。
店員に「いらっしゃいませ」と迎えられ、うきうきしながら店内に入る。
――人間族は魔力量が少ないから、魔法の代わりに使える魔法道具の性能がいいんだよね。お金がないから買えないのが残念だけど……。
魔王であるリリトヴェールは、魔族通貨は豊富に持っているが、人間の国との国交がないため、換金ができない。
つまり、今は一文無しだった。
リリトヴェールは存分にウィンドウショッピングを楽しんでから店を出た。
すると、店の入り口の横でアランがリリトヴェールを出迎えた。
ずっとここで待っていたのかと思って、リリトヴェールは少し申し訳なさそうに言った。
「もしかしてずっと待っていたの? そうだとしたら、随分と待たせてしまったな」
アランは笑顔で首を横に振った。
「俺もさっき戻ってきたところだよ。それより、これ、リリーに」
アランはピンクの花の形をしたブローチをリリトヴェールに差し出した。
「リリーに似合うと思って」
「……ありがとう、アラン」
リリーは可愛らしいブローチを嬉しそうに受け取って、しばらく見つめた後、ローブの胸元につけた。
新緑のローブによく映えている。
それを見て、アランは満足そうに笑った。
「幸運のお守りなんだって。ついて来てくれてありがとう。リリー」
アランはリリトヴェールの手を取って歩きだした。
二人はしばらく商店街を見て回って、日が暮れる前に宿屋に戻った。
宿の部屋でリリトヴェールはアランに尋ねた。
「お金はどのくらい残っている?」
アランは鞄からお金の入っている巾着を取り出し、机の上に出した。
それを見たリリトヴェールは目を丸くする。
「大銅貨十二枚と、小銅貨十五枚? え? なんで? これでは八日ともたない」
リリトヴェールは鞄からノート、羽ペン、インクを取り出し、今までの帳簿をつけていく。
しばらく帳簿を眺めた後、はっと思いついて、自分の胸元にあるブローチを見た。
「アラン、まさかこのブローチ、大銅貨四枚だった?」
アランはベッドに腰掛け、のほほんとした顔で頷いた。
「俺の装備品と同じ金額だったから、いいかなって思ったんだけど……」
リリトヴェールは頭を抱えた。
――アランには金銭感覚がない……!
とはいえ、お金の使い道がリリトヴェールにあげるブローチだったこと、その気持ちが嬉しかったことからリリトヴェールは怒るに怒れなかった。
「……わかった。今後、お金の管理は私がしよう」
アランは状況を察して、慌ててリリトヴェールに謝った。
「ごめんね、リリー」
「いいよ。アランの気持ちは嬉しかったから。とりあえず夕食をとろう」
二人は宿屋の食堂に下りて、空いている席に着いた。
店員の女性に注文をしてから二人は話し合いをはじめた。
リリトヴェールは腕を組んで言った。
「問題は今後の旅費をどう稼ぐか、だね」
アランはリリトヴェールに尋ねた。
「デランジェール王国まではもたない?」
リリトヴェールは頷いた。
「宿を取るならね。野宿すればなんとかなるかも」
それを聞いたアランは嫌そうな顔をした。
「この寒い時期に野宿したら死んじゃうよ」
「私も野宿は避けたいよ……」
店員の女性が頼んでいた飲み物を運んできた。
二人の深刻そうな顔を見て、首を傾げた。
「どうしたの? お客さん。暗い顔をして。何か困りごと?」
リリトヴェールは店員の女性に視線を向けた。
「そうなんだ。手っ取り早く稼ぐ方法はないかな?」
その問いに、店員はきょとんとした顔をした。
「二人とも旅をしているのに冒険者ギルドには入っていないの?」
「冒険者ギルド?」
リリトヴェールが今度はきょとんとした顔をしたので、店員の女性は驚いた顔をした。
「冒険者ギルドを知らない? 魔石の換金や、依頼を受けてお金を稼げるわよ」
それを聞いたリリトヴェールは茶色の瞳を輝かせた。
「お姉さん! それ詳しく教えて」
リリトヴェールは店員の女性から冒険者ギルドの場所を詳しく聞いた。
「ありがとう。明日にでも行ってみるよ」
リリトヴェールは有益な情報を得て、ほくほく顔で店員の女性が去っていくのを見送った。
アランは言った。
「魔石ならいくつか持っているよ。これを商人に売るといくらかお金になるから。冒険者ギルドでも換金できるんだな」
リリトヴェールは呆れた顔でアランを見た。
「そういえば、魔獣と戦うたびに拾っていたね。お金になるものを持っているなら、早く言ってよ……」
二人は食事を取って、明日に備えて早く寝た。
深夜、アランはトイレで目覚めて、ランプを片手に部屋を出た。
あくびをしながら戻ってきたアランは、リリトヴェールの布団が乱れていることに気がついた。
くすりと笑って独り言を呟いた。
「リリーは寝相が悪いんだよなぁ」
ランプを棚に置いて、アランはリリトヴェールの布団を直してあげた。
その時、リリトヴェールがいつも被っている帽子の隙間から黒い角が見えた。
アランがそっと触ってみると、たしかにリリトヴェールの頭に生えているようだ。
「角? リリーがいつも帽子を被っているのはこのせいなのかな?」
アランはそれ以上特に気に留めた様子はなく、ついでに帽子も直してあげた。
それからランプの灯を消して、自分の布団に潜り込んだ。
しばらくするとアランはすやすやと寝息を立てはじめた。




