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最強魔王、引退したい。でも勇者がだめすぎるので、育成はじめました。  作者: 冬木ゆあ


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第37話 魔王城突入前夜

 魔族領に入った四人は魔族の村々には近寄らず、夜は野営で凌いでいた。

 交代で寝ずの番をしていて、今はアランだった。焚火が絶えないようにアランは木の枝を投げ入れた。


 ――もうすぐ魔王城か。あの魔王が待っている……。


 アランは恐怖を感じながらも、もう一度、魔王に会いたいとも思っていた。


 ――女神様は自分が正しいと思う道を選べと言っていた。選べる道とは、いくつもあるものなのだろうか……。


 アランは爆ぜる焚火を眺め、魔王を倒すこと、それが今の自分に示されているように感じてならなかった。

 リリトヴェールがむくりと起きて、目を擦っている。


「そろそろ交代するよ、アラン」

「ありがとう、リリー」


 アランはリリトヴェールと寝ずの番を代わり、眠りについた。



 翌日。

 通り過ぎようとした里のゴブリンの子供たちが、リリトヴェールたちに群がってきた。


「どこの種族?」

「見たことなーい」


 リリトヴェールたちは戸惑っていると、大人のゴブリンが近寄ってきた。


「離れて! 人間だよ」


 それを聞いた子供たちは顔を強張らせて、数歩下がった。


「わぁ! 人間だ! 人間が攻めてきた!」

「怖いよぉ」


 泣き出す子供たちを大人たちが必死に守ろうとしている。それを見たアラン、ニコル、シャルルはどこか衝撃を受けたようで、固まっていた。

 騒ぎを聞きつけた里長が、リリトヴェールたちの前に立った。


「人間が魔族領にくるとは、いったい何用かな?」


 リリトヴェールはいらぬ諍いを避けるため、にこやかに言った。


「私たちはあなた方に危害を加えるつもりはありません。――みんな、行こう」


 そう言って去ろうとするリリトヴェールたちを里長が呼び止めた。


「よければ少しお話をしませんか」


 アランはその声に振り返った。


「……俺、魔族と話をしてみたい」


 その一言で、一行はゴブリンの里に立ち寄ることにした。

 案内されたのはゴブリンの里長の家で、奥さんと思われる女性がお茶を用意してくれたが、その手は震えている。

 ゴブリンの里長は率直に言った。


「勇者が誕生したと噂が流れています。もしやあなた方は、勇者一行でしょうか?」


 アランは否定することなく小さく頷いた。

 ゴブリンの里長はそれを見て、納得したように数回頷いた。


「魔王を倒しに来たのですね」


 アランは答えられず、黙っていた。


「今の魔王の治世になってから、二百年余り、戦は起こっていない。なのに、人間が魔王を憎むのはなぜなのでしょう。――あなたはなぜ魔王を倒すのですか? ただ勇者という役割のために魔王を倒すのでしょうか?」


 アランはそれにも答えられなかった。

 ゴブリンの里長は小さくため息をついた。


「二百年前の戦争は、それは酷いものでした。わたしは当時子供でしたが、この村も戦に巻き込まれ、焼かれ、蹂躙された。生き残った者たちで、ここまで再建したのです。またその悲劇が起こるかと思うと、震えが止まりません」


 アランとニコル、シャルルは里長の言葉を真剣に聞いていた。


「できることなら、今の魔王は倒さずにおいていただきたい。我ら下々にとって、今の魔王はよき魔王なのです。――お茶を飲み終えたら、お行きなさい」


 四人が里長の家を出ると男の子のゴブリンがアランに石を投げてきた。それはアランに当たることはなかったが、アランの心は痛みを覚えた。


「早く出て行け!」


 慌てて大人のゴブリンがその男の子を抱えるようにして四人から遠ざける。その瞳は怯え、こちらの様子を伺っていた。

 リリトヴェールたちは足早に里を後にした。


 野営の準備を終えて、焚火を囲ってシチューを食べているが、重い雰囲気が漂っていた。

 その中で、ニコルがぽつりと言った。


「人間は魔族を怖がっているけど、魔族は人間を怖がっているんだね。あたい、ゴブリンたちの様子を見て、ショックだった」


 シャルルとアランは、同意したようにうなずいた。

 アランは食べる手を止めて、夜空を見上げた。


「なぜ勇者はこの時代に誕生したんだろう。二百年前は分かるよ。人間と魔族が戦争をしていたから、女神様はきっとそれを止めたかったんだ。――でも、今は? 魔王を倒す意味ってなに?」


 里長との対話で人間であるアランとニコル、シャルルは思うところがあったようだ。

 リリトヴェールも同じで、思うところがあった。


 ――私は腰抜け魔王などと戦争推進派からは陰口を叩かれていたが、里長のように評価してくれている魔族もいたんだな……。


「アラン、女神は『魔王城に着いたらアランが勇者になった意味が分かる』と言っていたんだよね?」


 アランはリリトヴェールに視線を向けてうなずいた。リリトヴェールはそれに微笑む。


「なら、きっと魔王城に行けば、アランのその疑問も晴れるよ」

「……そうだね」


 四人はシチューを食べながら、それぞれ魔王城突入へ思いを馳せていた。

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