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最強魔王、引退したい。でも勇者がだめすぎるので、育成はじめました。  作者: 冬木ゆあ


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第32話 魔王、大聖堂に行く

 アニェス聖国の大聖堂に五日かけてたどり着いた一行は、げっそりとしていた。アランに至っては、泣きながら笑っている。


「やっとついたよ。あはは」


 ニコルがアランにじとっとした視線をやった。


「だから、喋らないでって言っているのに……」

「喋らないのも笑っちゃうのも、もうどっちもつらいんだよ。あはは」


 リリトヴェールは小さくため息を吐いてから言った。


「とりあえず中に入ろう」


 大聖堂は教会の総本山ということもあって、古いが厳かな雰囲気が漂っていた。

 入ってすぐは祈りの場として、ベンチがいくつも並び、ちらほらと座って祈っている人たちがいた。

 リリトヴェールはシスターを呼び止めた。


「すみません。この子が呪いにかけられていて、解呪していただきたいのですが……」


 シスターは頷き、アランの額に手を置いた。


「これはまた厄介な呪いのようですね。上位の司祭に見てもらいましょう。ご案内いたします」


 リリトヴェールたちはシスターの後について行った。

 シスターは聖堂を出て、整えられた中庭を歩くと、違う建物に入った。こちらも古いが掃除が行き届いており綺麗だった。

 通路を歩いて行くと、一つの扉の前で止まった。ノックをしてから扉を開けると、そこには金髪の十代後半くらいの眼鏡をかけた男性が執務を行っていた。

 シスターはお辞儀をしてから説明した。


「こちらの方が呪いを受けたようです。シャルル様、解呪できますか?」


 シャルルと呼ばれた金髪の男性は、


「どれ。見てみようか」


 と言って、アランの前に立ち、額に手を当てた。


「ブレイクスペル」


 アランの額が白く光り、アランはぱちくりとしてから言った。


「解呪できたのかな?」


 アランが喋っても笑うことはなかった。三人は喜び合い、抱き合った。

 シャルルは不思議そうに尋ねた。


「どこでこんな強力な呪いを受けたんです?」


 リリトヴェールはシャルルに顔を向けた。


「五日前くらいに魔王軍の奴とやり合ってね。それでかけられたんだ」


 シャルルは納得したように頷いた。


「魔族が原因でしたか。ここへ来たのは正解でしたね。僕でなければ解けなかったでしょうから。それより、その剣、勇者の剣とお見受けしますが、違いますか?」


 アランは頷く。


「そうだよ」

「やはり勇者殿でしたか。今回は災難でしたね。教皇様にお繋ぎしましょう。こちらでお待ちください」


 シスターにお茶を用意するようにシャルルは言ってから、部屋を出て行った。

 部屋には応接用のテーブルがあり、椅子が六脚あった。リリトヴェールたちはそこに座り、お茶を飲みながら待った。

 リリトヴェールは側で控えているシスターに尋ねた。


「あのシャルルという方、若そうに見えますが、上位の司祭なんですか?」

「はい。シャルル様は大変優秀で、次期教皇と目されている方なのですよ」


 ――エレリーシャの呪いを解くほどの光魔法の使い手か。勇者パーティに欲しい人材だな。


 リリトヴェールはシャルルに対して興味がわいた。


 しばらくするとノックの音がして、シャルルが初老の男性を連れて戻ってきた。恐らくこの男性が教皇なのだろう。

 リリトヴェールたちは立ち上がり、お辞儀をした。

 教皇はアランに手を差し出した。


「勇者殿、女神の使徒よ。ようこそ、大聖堂へ」


 アランは教皇の手を握った。

 教皇はリリトヴェールたちに座るように促し、自分も座った。シャルルは教皇の後ろで控えている。

 教皇はアランに尋ねた。


「旅は順調ですか?」


 アランは頷き答えた。


「順調だと思います。勇者のオーブもあと一つ揃えば、勇者の剣も完成します」


 アランは勇者の剣に視線を向けると、教皇も興味深そうに勇者の剣を見た。


「それが勇者のオーブですか。聖書に出てくる女神が勇者に与えた宝玉ですね。見たところ、あとは風のオーブでしょうか」


 リリトヴェールが尋ねた。


「あと一つはリスゴーの谷というところにあるらしいのですが、ご存じですか?」


 それにはシャルルが答えた。


「リスゴーの谷はアニェス聖国の北側、魔族領との境にありますよ」


 それを聞いたリリトヴェールはほっとしたような表情をした。


「よかった。やっとリスゴーの谷の場所が分かった。それで、もう一つ、仲間を探しているのですが、魔法使いとヒーラーでご紹介いただけそうな方はいますか?」


 教皇は白いあごひげを撫でた。


「ふむ。ヒーラーであれば、ぜひ教会から派遣しよう。誰にするか……」


 すると、リリトヴェールは視線をシャルルに向けた。それに気がついた教皇もシャルルを振り返る。


「シャルル、どうだ? 勇者に同行してみないか」


 シャルルが驚いた顔で教皇に尋ねた。


「僕ですか? 理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」

「勇者殿と年頃が同じようだし、お前は優秀だからな。勇者殿を手助けし、外の世界を見てきなさい」


 それにシャルルは一礼した。


「……かしこまりました」


 支度をする時間が欲しいとシャルルはいい、翌朝、大聖堂の前で待ち合わせることにした。


 リリトヴェールとアランとニコルは、その夜は宿屋で過ごしていた。ニコルがベッドに寝そべりながら言った。


「ヒーラーが見つかってよかったね」


 リリトヴェールは髪を梳かしながら頷いた。


「優秀そうだしね」


 アランは勇者の剣の手入れをしている。


「真面目そうな感じだったけど、俺、大丈夫かな。怒られそう……」


 リリトヴェールはアランに視線をやり、笑った。


「若くて優秀なシャルルに影響されて、アランもちょっとはしっかりしてくれたらいいんだけどな」

「リリーの意地悪」


 三人での最後の夜を笑って過ごしたのだった。



 翌朝。

 大聖堂の前にはすでにシャルルが待っていて、リリトヴェールは手を差し出し、言った。


「仲間になってくれてありがとう。これからよろしくね。私はリリー」


 シャルルはリリトヴェールの手を握った。

 アランとニコルも自己紹介した。


「よろしくお願いします」


 シャルルは眼鏡をくいっと上げながらそう言った。

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