第30話 魔王、スケートに挑戦する
リリトヴェールたちは小さな町で今日の宿を求めた。
一軒だけあった宿屋に入り、リリトヴェールはほっと息を吐いた。
「今日は一段と寒かったね」
アランとニコルも寒そうにしながら頷いている。
「いらっしゃい」
宿屋の女将さんが奥から出てきたので、リリトヴェールは声をかけた。
「一部屋空いている?」
「空いていますよ。ご案内しますね」
カウンターから出てきた女将さんにリリトヴェールたちはついて行く。歩きながら女将さんは振り返り、言った。
「明日、予定がないなら、近くの森の湖に行ってみるといいですよ」
リリトヴェールは首を傾げて尋ねた。
「なにかあるの?」
「この時期は湖に氷が張ってスケートができるんですよ。季節限定ですからね、ぜひ行ってみてください」
部屋に入るなり、アランがリリトヴェールに尋ねた。
「スケートってなに?」
「氷の上を滑って遊ぶんだよ」
それを聞いたニコルはリリトヴェールとアランに提案する。
「せっかくだし行ってみようよ。楽しそう!」
それにリリトヴェールは笑顔で答えた。
「そうだね。明日は休息日にしようか」
アランとニコルは笑顔でハイタッチをした。
翌日。
リリトヴェールたちは女将さんから詳細な場所を聞いて、湖に来ていた。
湖一面が氷になっていて、すでにスケートを楽しんでいる人たちがいた。楽しそうな笑い声が澄んだ空気に響いている。
テントでスケート靴を貸してくれるようで、さっそく三人は靴を履き替えた。
靴ひもを結び終え、アランは湖に向かって駆けて行く。
「一番乗り~!」
氷の上に立ったアランは少しよろけただけで、すぐに滑りはじめてターンまでこなしている。
二番乗りのニコルは、しばらくよろよろしていたが、コツを掴んだようだ。
リリトヴェールは二人の様子を見て、
――よし。私もやってみるか。
と、氷の上に立った。すると、つるっと滑り、尻もちをついた。
「いったーい!」
それを見ていたアランが慌てて近寄ってきて、リリトヴェールを助け起こした。
「大丈夫? リリー」
「これ難しいよ」
「慣れれば滑れるよ。簡単だよ」
リリトヴェールはじとっとアランを見た。
――この運動神経おばけめ。できない奴の気持ちがわかってない!
アランはリリトヴェールの両手を引きながら、うしろ向きに滑っていく。
「リリーは怖くて腰が引けているんだよ。もっとこうぴんっとしてごらん」
「うぐぅ」
リリトヴェールから悔しいやら難しいやらで変な声がでた。
ニコルはその横を慣れた様子で滑っている。
「仲がよろしいことで。お邪魔虫はあっち行ってよーっと」
そう言って、ニコルはすいーっと湖の中央に向かって滑って行った。
リリトヴェールは怪訝そうな顔で言った。
「なにを言っているんだ、あいつは」
アランは少し顔を赤くして、リリトヴェールに言った。
「まぁまぁ。リリー、だいぶ良くなってきたよ。片手だけにしてみようか」
アランが左手を離すと、リリトヴェールはバランスを崩して、アランにしがみついた。
「急に手を離さないで。怖い~!」
「あはは。大丈夫、大丈夫」
リリトヴェールはアランにしがみつき、思わず弱音を吐いてしまったことが恥ずかしく、赤くした顔でアランを見た。
――魔王であるこの私が、こんな醜態をさらすとは……。なんたる屈辱……!
アランは首を傾げて心配そうに尋ねた。
「リリー、大丈夫? どこか痛めた?」
「……大丈夫」
アランはリリトヴェールを支えて姿勢を整えさせると、今度は左手を繋いで滑りはじめた。
リリトヴェールもアランのサポートでだいぶコツを掴んできたようで、ひとりでも滑ることができそうだ。
「アランもニコルみたいにスイスイ滑りたいでしょう? 私はひとりで練習できるから行っておいでよ」
「いいよ。リリーと滑っている方が楽しい」
そうにっこりと笑いながら言ったアランに、リリトヴェールは顔をわずかに赤らめて、視線を逸らした。
「そう? ならいいけど……」
しばらくスケートを楽しんだリリトヴェールたちは、テントで売られていたココアを買って、岸辺に座った。一口飲んだニコルが幸せそうな顔している。
「あま~。うま~。あったかい~」
それを見ていた、リリトヴェールとアランはくすっと笑った。
その時、リリトヴェールの頬に冷たいものが当たり、顔を上げた。
「雪だ……」
アランとニコルも顔を上げた。
一面氷の湖に雪が舞っている光景は、幻想的で綺麗だった。三人の吐いた息が白く溶けていく。
リリトヴェールは二人に言った。
「雪も降ってきたし、今日はもう帰って、宿屋でゆっくりするか」
「「さんせーい!」」
こうして、三人は久しぶりに休息を楽しんだのだった。




