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最強魔王、引退したい。でも勇者がだめすぎる  作者: 冬木ゆあ


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第3話 魔王、旅立つ①

 翌日早朝。

 さっそくリリトヴェールとアランは旅立った。

 まずはアランの両親に旅立ちの挨拶をするため、はじまりの村に立ち寄った。

 はじまりの村は小さな農村で、穏やかな村だった。

 リリトヴェールは村の中央にある噴水広場で、両親に挨拶をしに行ったアランを待っていた。


「リリー、お待たせ!」


 リリトヴェールはアランの声がした方を向いて、ぎょっとした。


「アラン、なにその顔」


 アランはにこにことしていたが、頬が赤く腫れている。


「まだ旅立っていなかったことと、今までどこにいたのか尋ねられて、リリーの家にいたと言ったら、親父に殴られた。それから旅立ちの資金に大銅貨六枚くれた」


 アランは握っていた大銅貨をリリトヴェールに見せた。


「ありがたいね! これで食料が買える」


 リリトヴェールとアランは広場の近くの市場で干し肉、パン、薬草をいくつか買った。

 リリトヴェールはそれらを茶色の斜め掛けの鞄に入れた。


「その鞄、俺が持つよ」


 アランはリリトヴェールから鞄を受け取って、驚いた顔をした。


「思ったより軽い」


 リリトヴェールは自慢げに言った。


「魔法がかかっているんだよ。見た目よりたくさん入るし、いくら入れても鞄の重さは変わらない」

「へぇ、魔法は便利だなぁ」


 アランは感心しながら鞄を斜め掛けにした。

 それから二人はとうとうはじまりの村を出た。

 アランは隣を歩くリリトヴェールに言った。


「まずはヴァロワ王国の王都に行って、王様に出立の挨拶をするように親父に言われた」


 ヴァロワ王国とは、はじまりの村のある国の名前である。

 リリトヴェールは頷いた。


「そうだね。まずは王様に挨拶に行こう。旅立ちの支度金も貰えると嬉しいのだけど……」


 アランの父親から貰ったお金でヴァロワ王国の王都までは宿を取ることはできそうだ。だが、その先のことも考えると資金が足りない。


 ――どこかで旅の資金を調達しないといけないなぁ。


 リリトヴェールの次の悩みは路銀になりそうだ。



 三日後には、リリトヴェールとアランはヴァロワ王国の王都に到着した。

 街門を抜けると、街の中は綺麗に整備され、多くの人で賑わっていた。

 アランは辺りをきょろきょろと物珍しそうに見渡しながら言った。


「王都には初めて来たけど、こんなに大きな街なのか」


 リリトヴェールはアランの腕を掴み、もう片方の手で指差した。

 その先には背の高い建物があった。


「きっとあそこが王城だよ。行ってみよう」


 リリトヴェールとアランは、街の中央に向かって歩き出した。



 近くまで行ってみると、高い壁に囲まれた石造りの王城が聳え立っていた。

 警備は厳重で門の前には警備兵が二人立っていた。

 リリトヴェールはその内のひとりに声を掛けた。


「すみません、王様に会いたいのだけど、どうしたらいい?」


 警備兵は怪訝そうにリリトヴェールとアランを交互に見た。


「子供が何の用だ。陛下に簡単に会えるはずがないだろう」


 リリトヴェールは可愛らしく首を傾げながら言った。


「こっちのアランは勇者です。魔王討伐の旅に出るので、王様にご挨拶に参りました」


 それを聞いた警備兵たちはおかしそうに笑った。


「お前が勇者だと? 冗談はよしとくれ! とっととお母さんのところへ帰りな」


 リリトヴェールはむっとした顔をしている横でアランは踵を返した。

 リリトヴェールは慌ててアランの腕を掴んで止めた。


「ちょっと待って。どこ行くの?」

「王様に会えなそうだから帰ろうかなって」


 その答えにリリトヴェールは慌てた。


 ――せっかくアランをここまで連れてきたのに! 帰らせてたまるか!


「待て待て! 今どうしたら信じてもらえるか考えるから! それに今帰ったら、親父殿にまた殴られるよ!」


 アランの腕を必死に掴んでいるリリトヴェールを見て、アランは頭をぽりぽりと掻いた。


「親父に殴られるのは勘弁だな」


 それから、アランは腰に差した勇者の剣を抜き、地面に突き刺した。


「おじさんたち、この剣を抜ける?」


 警備兵は笑いながら勇者の剣に手をかけるが、まったくもって抜くことはできなかった。もうひとりの警備兵が剣の装飾を見て、目を見張った。


「これ勇者の剣じゃないか? 勇者の剣の村で見たことがある……」

「そういえば、勇者の剣を抜いた奴がいるって噂になっていたな」


 警備兵はふたりで顔を見合わせた。

 それから慌てて一礼した。


「これは大変失礼いたしました、勇者殿。すぐに取次ぎをさせていていただきます」


 門は開かれ、リリトヴェールとアランはやっと王城に入ることができた。

 そして二人は、謁見の間へと案内された。

 謁見の間にはヴァロワ王の姿があり、高い場所に置かれた王座に座っていた。

 入室したリリトヴェールとアランが一礼すると、ヴァロワ王は立ち上がって迎えた。


「勇者よ、よくぞ参った!」


 謁見の間には勇者の姿を見ようと、幾人かの貴族たちも集まっていた。

 リリトヴェールとアランは中央まで進むと、リリトヴェールは跪いた。

 アランもそれを見習って、リリトヴェールの隣で跪いた。

 ヴァロワ王は二人に声を掛けた。


「二人とも顔を上げよ。ぜひとも勇者の剣を見せていただきたい」


 アランはおずおずと勇者の剣を腰から抜いた。

 ヴァロワ王が手招きしたので、アランは階段を上り、ヴァロワ王の元へと向かう。

 ヴァロワ王はアランが持つ勇者の剣をまじまじと見た。


「素晴らしい剣だな。そなた、名は何と申す?」

「アランです」

「そうか。アラン、ささやかだが旅の資金にしてくれ」


 ヴァロワ王は隣に立っていた従者に目配せすると、従者が持っていた巾着をアランに渡した。

 アランは剣を納めてからそれを受け取って、お礼を言った。

 ヴァロワ王はアランの茶色の瞳を見つめた。


「我が国から勇者が出たのは大変誇らしい。魔王討伐を成し遂げよ」


 アランはゆっくりと頷いた。

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