第29話 魔王、護衛の依頼を引き受ける
リリトヴェールとアランとニコルは、アニェス聖国に向かって街道を歩いていた。
すると、途中で人だかりができていて、三人は何事かと見に行くと、そこには看板が立っていた。
『この先に傲慢のフェピールの居城あり! 勇者は必ず寄るべし』
と、書かれていた。
他の冒険者たちは、
「魔王軍幹部の城?」
「どうせ偽物だろう」
そう口々に言って通り過ぎていく。
リリトヴェールは呆れた顔で看板を見てから、アニェス聖国の方角に歩き出した。
アランはリリトヴェールに追いつき、尋ねた。
「放っておいていいの?」
リリトヴェールはめんどくさそうに手を振った。
「いい、いい。私たちの目的は魔王の討伐であって、魔王軍の討伐じゃない。触らぬ神に祟りなしだよ」
そう言って、通り過ぎて行った。
夕方前に途中の街に辿り着き、三人は冒険者ギルドに寄った。
リリトヴェールが掲示板に張られた依頼書に目を通していると、カウンターで話している受付の女性と商人らしき男性が話しているのが聞こえた。
「今、うちに登録しているBランク以上の冒険者パーティは出払っているんです。早くても明後日になるかと思います」
男性は困っているようで、どうにかならないかと受付の女性に掛け合っていた。
その時、受付の女性とリリトヴェールの目が合った。
「そこの皆さん、ランクはいくつですか?」
リリトヴェールが答えた。
「Bランクだけど……」
それを聞いた女性と男性はぱぁっと明るい表情をして、男性がこちらに近づいてくる。
「はじめまして。わたしはポールと言います。あなた方に護衛を頼みたい。急いでいてね、明日には立ちたいんだ。報酬ははずもう。小銀貨四枚でどうだろう」
リリトヴェールはポールの手を取った。
「乗った!」
アランは頭に手をやった。
「またリリーがお金につられて安請け合いしている……」
ニコルはカウンターに向かい、女性に声をかけた。
「なんでBランクの冒険者が全員出払っているの?」
受付の女性は困った表情をした。
「最近、この先の街道で盗賊団が多数目撃されていて、商団などからの護衛の依頼が殺到しているんです」
「なるほどね。それでか」
ニコルは納得したように頷いて、リリトヴェールとポールが話を詰めているのを眺めていた。
翌朝。
町の入り口でポールと待ち合わせをしてから出発した。
ポールは荷馬車に乗り、リリトヴェール、アラン、ニコルはその隣を歩いた。
道は森に入り、視線を遮るものが多く、三人は警戒しながら歩いた。
順調に進み、もうすぐ目的地の町に着くかと言う時だった。リリトヴェールが気配を察知した。
「くるよ!」
その声に反応してアランは剣を、ニコルは盾を構えた。
すると、木々の合間から五人くらいの男性が姿を現した。剣を片手に、殺伐とした雰囲気をしている。
リリトヴェールはポールを振り返り、声をかけた。
「荷馬車に隠れていて」
「は、はい! お願いします」
ポールが荷馬車に入ったのを確認して、リリトヴェールは杖を構え、先制した。
「ダークサンダー!」
盗賊団たちに黒い雷が落ち、三人ほどに素早さが落ちる呪いがかかったようだ。
しかし、アランとニコルの動きからためらっている様子が見て取れて、リリトヴェールは訝しげに声をかけた。
「二人ともどうしたの?」
アランは青い顔でリリトヴェールを振り返った。
「俺……、人を殺したことない……」
ニコルも険しい顔でアランを見た。
「あたいもだよ」
それに、アランは驚いた顔をした。
「え? ニコルもないの? 闘技場であんなに人をタコ殴りにしていたのに……」
「勝手に人を殺人鬼にしないでよ……」
リリトヴェールは二人のやりとりを聞いていて、唇を噛んだ。
――今回の依頼、考えなしに受けてしまった。私は魔族で、魔族は力が強いものが正しい。けど、この二人は違うんだ。自分を傷つけようとするものでも、殺すことをためらうんだ。
「殺さなくていい! 私たちが受けた依頼は盗賊団の討伐じゃない。ポールの護衛だよ。ポールを護れればそれでいい。相手の気力を削げればいいんだ」
ニコルはリリトヴェールの言葉に頷いた。
「オーケー! それなら得意!」
ニコルは盾を振り上げ、目の前にいた盗賊団のひとりに殴りかかり、地面に転がした。
アランも、
「闘技場の時と同じだと思えばいいんだね!」
と、言って、相手が防御しているところに剣を打ち打ち込んだ。
相手はアランの攻撃を受け止めることで精一杯で、後退した。
リリトヴェールは後方から呪文を唱える。
「サンダーボルト」
呪いがかかって後ろで待機していた三人に雷が落ちた。
どう見ても不利な状況にリーダーと思われる男性が声を上げた。
「引くぞ!」
盗賊団たちはその場から一目散に逃げ出した。サンダーボルトを受けて痺れているのか這いながら逃げている者もいた。
「待て! おいて行かないでくれ!」
リリトヴェールたちに怯えた顔を向けながら、必死に逃げようとしている。
リリトヴェール、アラン、ニコルはそれを深追いせず盗賊団を見送り、上がった息を整えていた。
ポールが荷馬車からこそっと顔を出した。
「終わったようですね。助かりました」
無事だった荷馬車はまた動き出し、リリトヴェールたちはまた歩き出した。
盗賊団を退けたと言うのに、三人はどこか暗い顔をしていた。
リリトヴェールは罪悪感にかられ、二人に謝った。
「今回は私が考えなしだったよ。二人には無理をさせてしまったね」
ニコルはリリトヴェールの少し前に行って、顔を覗き込んだ。
「リリーは人を殺したことあるの?」
「……自分の命を取りに来る奴に簡単に差し出す気はないし、温情をかけてやるつもりもない」
ニコルはそれを聞いて重く頷いた。
「……確かにそれはそうだね」
リリトヴェールはニコルとアランの顔を交互に見た。
「でも、だからと言って、殺すのが正解かと言われたら、それは違うよね。二人の感覚も間違っていない。だから、二人は無理することないよ。――でも、私は、二人が殺されそうになったら、守るために躊躇わない。それだけは、覚えておいてね」
アランはじっとリリトヴェールの顔を見つめた。
「リリーの言うことは分かるよ。俺は覚悟が足りなかった。今回は荷馬車を狙った相手だったけど、俺たちを殺そうとしてくる人間がいないとは限らない。その時、リリーだけにすべてを背負わせるのは違うと思う」
ニコルもそれに頷いた。
「そうだね。そういう可能性を考えたことがなかったけど、あたいの命はあたいで守らないといけないよね」
話を聞いていたポールは、荷馬車から三人に声をかけた。
「さぁ、ここらでお昼にしましょう。助けていただいたお礼に、荷物に生ハムがありますから、サンドイッチにして食べましょうか」
ニコルがそれを聞いて緑の瞳を輝かせた。
「生ハム! 高級食材じゃない。いいの~?」
「少しだけですよ」
夕方には、目的地の町について、依頼料を受け取ってからポールと別れた。
宿屋に向かいながら、ニコルは伸びをする。
「うーん、今回は気持ち的に疲れたなぁ」
アランは同意して頷いた。
宿屋を見つけて、三人は少し早い夕食を取った。
リリトヴェールはミートソースのスパゲッティを美味しそうに食べるアランを見つめていた。
――『リリーだけにすべてを背負わせるのは違う』かぁ。ちょっと嬉しかったな。アランもちゃんと成長してくれている。
リリトヴェールは嬉しくなって、二人に言った。
「今日は疲れたし、贅沢に甘いものでも頼むか」
アランとニコルが瞳を輝かせて、同時に言った。
「「いいの? やったー!」」
「たまにはね。今日は二人とも頑張ってくれたし」
アランとニコルはハイタッチした。
いつも通りの二人に戻ったことに、リリトヴェールは心の底から安堵した。




