第28話 魔王、仲間を募集する
リリトヴェールとアランとニコルは、ルグラン王国の王都にやってきた。
目的は勇者一行の新しい仲間を見つけるためで、冒険者が多く集まる王都ならすぐに見つかるだろうとリリトヴェールは踏んでいた。
「さっそく冒険者ギルドに行って、仲間募集の張り紙を張ろう!」
リリトヴェールがやる気満々で言う一方、アランはあまり気乗りしない様子で頷いた。
冒険者ギルドに到着し、受付の女性にリリトヴェールは声をかける。
「仲間募集の張り紙を掲示したいんだけど、いいかな?」
受付の女性は快く頷き、紙と羽ペンとインクを貸してくれた。
リリトヴェールは少し悩んでから書き出した。
『勇者と共に魔王討伐を志す仲間を募集中! 魔法使いとヒーラー大歓迎。興味のある方は、ぜひお声がけください!』
それを見たニコルは首をひねった。
「なんかインパクトに欠けない? ――そうだ! 絵を描こうよ。あたい得意だよ」
リリトヴェールから羽ペンを受け取って、ニコルは絵を描き出した。それをリリトヴェールとアランが横から覗いた。
「……人の絵?」
ニコルはルンルンで羽ペンを走らせている。
「あたいたちの似顔絵」
それを聞いたリリトヴェールは苦笑した。
――まぁ、似てなくもないけど、個性的な絵だな。
リリトヴェールたちは書き終えた張り紙を掲示板に掲載し、冒険者ギルドの酒場の一角に座って張り紙を見る人が現れないか様子を伺っていた。
すると、ひとりの杖を持った女の子が張り紙を見てからこちらにやってきた。金髪のエルフの大人しそうな女の子だった。
「張り紙を見たんですけど……」
リリトヴェールは立ち上がり、正面の席を勧めた。
女の子は控えめに頭を下げてから、ちょこんと座った。
「杖を持っているってことは魔法使いかヒーラー?」
「はい。魔法使いです」
その回答にリリトヴェールは満足げに頷いてから更に尋ねた。
「レベルは?」
「まだ駆け出しで、レベル十二のCランクです。わたしもちょうど仲間を探していて……」
それを聞いたリリトヴェールは「あちゃー」と額に手をやった。
「ごめんね。Bランク以上で探しているんだよ」
それを聞いた女の子はカンっと杖を床に強く打ちつけながら立ち上がった。
顔を顰めながら、
「だったら、ちゃんと書いとけ! 時間の無駄だったわー!」
そう言い捨てて去って行った。
リリトヴェールたちは女の子の豹変ぶりに唖然としながら、その後ろ姿を見送った。アランはぽつりと言った。
「大人しそうな子だったのに……。怖い」
リリトヴェールは苦笑しながら立ち上がった。
「今回のはちゃんと書いておかなかった私たちが悪いね」
リリトヴェールは慌てて張り紙に『Bランク以上』と書き足した。
すると、今度は杖を持った二十代くらいの男性が掲示板を見ていたので、リリトヴェールはそっと近寄り声をかける。
「あのお、失礼します。勇者パーティーに興味はありませんか?」
男性は申し訳なさそうに手を振って、冒険者ギルドを出て行った。
それからしばらく、誰も掲示板を見ようとしなかった。
アランは暇を持て余し、足をぶらぶらとさせている。
「まだ続けるの? リリー」
「思ったよりも来ないものだね……」
リリトヴェールがそう言うと、ニコルはぷんぷんしながら言った。
「魔王討伐をしようという気概が、今の若者にはないのか!」
リリトヴェールは呆れた顔でニコルに視線をやる。
「……そういうニコルにはあるの?」
ニコルは少し考えてから、
「あたいも成り行きだった」
と、へらっと笑って言った。
リリトヴェールはそれに苦笑しながら、すぐに仲間が見つかると思っていた自身の考えの甘さを実感していると、そこへビールを持った男性冒険者がやってきた。へらへらとしていて酒臭い。
「よう。勇者パーティ。調子はどうだ?」
ニコルは男性を見上げて冷たく言った。
「冷やかしはごめんだよ」
「まぁまぁ。なかなか見つからないみたいだから教えてやろうと思って。魔法使いもヒーラーも貴重だから、Bランクともなれば、まともな奴はどこかのパーティに入っている」
リリトヴェールはこめかみに手をやった。
「たしかに一理ある。――どうしたらいいかな?」
「どこかのパーティーから引き抜くか、まともじゃない奴を仲間にするかの二択だな」
「後者は遠慮したい。前者だといざこざに巻き込まれそうだけど……」
「まぁ、まともな奴が欲しけりゃ、仕方がないだろうな。これにものを言わせるしかない」
男性は親指と人差し指で円を作った。それを見たリリトヴェールは苦い顔をする。
「金か……。しかし、引き抜くとして、誰を引き抜くか。知り合いもいないし……」
「冒険者ギルドでいろんな奴に声をかけて、いい奴を見つけるしかないな」
「道のりは長そうだ。教えてくれてありがとう」
男性は手を振って去って行った。
結局、その日は進展はなく、宿を取った三人は仲間探しについて相談していた。ニコルは眉間に皺を寄せている。
「お金を払って仲間にするのって、なんだか人身売買みたいでいい気がしないな。あたいは」
リリトヴェールもそれは同意で、頷いた。
最初から乗り気ではないアランは、ここぞとばかりに言い募る。
「そもそも俺たちは魔王討伐を掲げていて、実力が分からない人を仲間にするのってリスクが大きくない? ニコルみたいに戦っているところを見てみないと分からないよ」
「そうだよね。あたいもアランに賛成だよ」
リリトヴェールは腕を組んで、二人の意見を聞いていた。
「とはいえ、魔法使いとヒーラーは必要でしょう?」
ニコルが姿勢を正し、リリトヴェールに真剣な緑の瞳を向けた。
「リリーが脱退したいというのは分かっているけど、あたいとしてはリリー以上の魔法使いを見つけるのは難しいと思っている。ヒーラーも兼ねてくれているしね」
「事情は説明したでしょう。私は森の魔女としての責務があるんだよ」
「……ねぇ、理由は本当にそれだけ? なにか隠していることがあるなら話してよ」
リリトヴェールは言葉に詰まった。
――このまま一緒に旅ができない最大の理由が『実は私が魔王です』なんて言えない……。
黙ったままのリリトヴェールにニコルは小さくため息を吐いた。
「まぁ、話したくないならいいけどさ。アランを旅に出したのも、あたいを誘ったのもリリーなんだよ」
リリトヴェールはしょんぼりとして小さく頷いた。
「それは、確かにそうだ……」
しばらくしんとした空気が流れた。
すると、アランがその空気を払うようにパンと手を叩いた。
「じゃあ、こういうのはどう? どの道、剣士の俺とタンクのニコルだけだと旅は難しいから、しばらくリリーには付き合ってもらう。今まで通り旅をしながら新しい仲間を探す」
ニコルは少し不満気だが、頷いた。
「そうだね。魔法使いもヒーラーもいないんじゃ、しんどいもんね。アランがそれでいいならいいよ。リリーはどう?」
リリトヴェールは「うーん」と少し悩んだ。
――魔王城の方はケルべベスがいればしばらくは大丈夫そうだし、アランとニコルだけで旅をさせるのは不安だし……。
リリトヴェールは降参したように両手を上げた。
「……わかったよ。もうしばらく付き合うよ。ただし、魔法使いが見つかるまでだよ」
アランとニコルは「イエーイ」とハイタッチした。
それぞれ寝る前の挨拶を済ませて、ベッドに入った。
リリトヴェールは毛布を手繰り寄せ、ふと考えていた。
――なんだかうまく丸め込まれたような気がする。……まぁ、いいか。魔法使いを早く見つけよう。
この判断がのちに自身の首を絞めることになるとは知らずに眠りについた。




