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最強魔王、引退したい。でも勇者がだめすぎるので、育成はじめました。  作者: 冬木ゆあ


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第27話 魔王、家出する

 翌朝。

 今日はアラン自ら起きて、リリトヴェールの腰のあたりにしがみついていた。


「昨日散々話し合ったでしょう。そもそもアランに新しい仲間ができたら離脱する話だったでしょう」


 リリトヴェールはなんとかアランを引きはがそうとするが、びくともしない。


「いーやーだー! リリーと一緒がいい!」

「わからずやアラン!」


 ニコルはその様子を遠巻きに見ていた。


「アラン、リリーの事情もあるんだし、そもそも約束したのはアランでしょう? あたいは仕方がないと思うよ」


 アランは瞳を潤ませて、ニコルを見た。


「ニコルはいいの? リリーがいなくなっても」

「そりゃ痛手だよ。有能な魔法使いがいなくなるのは。でも、リリーを困らせるのは違うよ」


 アランが少し考えている間にリリトヴェールはアランから抜け出した。


「そういう訳だから! ちゃんと魔王城まで行くんだよ! じゃあね!」


 リリトヴェールはそう言い捨てて、宿のバルコニーから飛び立った。


「あー! リリー!」


 アランの叫び声に後ろ髪を引かれながら、リリトヴェールは空を飛んでいく。


 ――なんだか、ちゃんとした別れができなかったな……。でも、あのままいたら私も折れてしまいそうだった。寂しいけど、しかたがない。


 リリトヴェールは少しだけ涙をこぼした。


 魔王城に戻ったリリトヴェールは魔王の姿に戻り、執務室のバルコニーに降り立った。

 室内にはケルべベスがいて、窓をノックすると開けてくれた。


「リリトヴェール様、やっとお戻りになられましたか!」


 ケルべベスは開口一番にそう言った。


「長らく留守にして悪かったな。それで、さっそくだが留守の間の報告を聞こう」


 執務室の椅子に座ったリリトヴェールの横でケルべベスは報告をはじめた。


「ご隠居が毎年恒例の嘆願書を持ってまいりました。未決の箱に入れてあります」


 リリトヴェールは未決の箱から、先日トリムが持ってきた嘆願書を取り出した。その時、ふと気がついた。


「未決の箱は随分と片付いているではないか」

「わたしで決裁できるものは済ませてあります」

「さすがケルべベス。有能で助かるよ」


 ケルべベスはすました顔をしているが、しっぽは大きく振られている。

 リリトヴェールは嘆願書に目を通して、ケルべベスに言った。


「ご隠居を呼べ」


 ケルべベスは返事をして、執務室を後にした。


 しばらくしてケルべベスはトリムを連れて戻ってきた。

 トリムはリリトヴェールに恭しくお辞儀をした。


「リリトヴェール様、お呼びでしょうか」

「嘆願書のことだ。毎年のこのやりとりに私は飽き飽きとしている。私は人類と戦争をする気はないと何度言えば、お前たち戦争推進派は理解できる?」


 リリトヴェールは低い声でそう言った。

 ケルべベスはリリトヴェールの気配に怖気づき、しっぽをたらんと垂らしていた。

 しかし、トリムは微動だにせず、頭を下げたままだった。


「今代の魔王が穏健派であらせられるのは重々承知。しかし、我ら魔族が人類に見くびられては元も子もない。あなたは、先代魔王が討たれた屈辱をどう思っていらっしゃるのですか」


 リリトヴェールは「はっ」と小さく笑った。


「先代魔王はやりすぎた。人類の怒りを買ったのだ。奴らは、ひとりひとりは弱いが、魔族と違って結束する力がある。破滅したいのか、トリムは」

「いいえ。だからこそ、これ以上発展し、力を得る前に叩くべきだと進言いたします。人類は寿命が短い故か、経済や魔道具の発展がめざましい。その内、あちらから仕掛けてくるに違いない」


 リリトヴェールは机に肘をつき、手をこめかみに添えた。


「トリムの言いたいことも分かる。しかし、確定していない未来のために戦争を起こすなど、愚の骨頂だよ」


 トリムはあからさまに溜息を吐いた。


「わしの言葉は届きませんか。あなたの御身も、このじいは心配しているのですよ。勇者が誕生したそうではありませんか」

「ああ。報告は受けている」

「あなたもこのままでは先代魔王のように討たれてしまうのではないかと、我々は案じているのです。二代続けて我らの魔王が勇者に討たれるなど屈辱」

「ありがとう、トリム。だが、話は以上だ。下がれ」


 トリムは数歩下がってから、顔を上げ、踵を返して部屋を出て行った。

 リリトヴェールは盛大な溜息を吐いた。


「あの狸じじい、思ってもないことを。私が討たれて、次の魔王が戦争推進派から出たらいいなと思っているに違いないと言うのに……」


 ケルべベスはお茶を入れて、リリトヴェールの前に置いた。


「ありがとう、ケルべベス」

「いいえ。それで次の報告ですが……」



 それから三日が経った。

 留守中のケルべベスの働きにより、滞っていた仕事も少なく、リリトヴェールは日常に戻っていた。執務室の椅子から晴れた空を眺める。


 ――アランたちはちゃんと旅に出ているだろうな。


 そればかりが脳裏にちらつく。


 ――ちょっと見てくるか。


 リリトヴェールは置手紙をして、バルコニーから飛び立った。


 アランとニコルの気配を探しながら空を飛ぶが、なかなか二人の気配が見つからず、ユーナ岬まで戻ってきてしまった。そこでやっと二人の気配を見つけ、宿屋のバルコニーに立った。


 ――まだここにいたのか。


 バルコニーの窓から中を見ると、わいわい楽しそうに屋台飯を食べている二人がいて、リリトヴェールの怒りが一気に頂点に達した。

 ふとアランが窓を見て固まったので、ニコルが不思議そうにその視線を追って同じく固まった。


「リリー……」


 リリトヴェールはバルコニーの扉を開けて中に入る。


「お前たち、まさかこの三日間、遊んでいたんじゃないだろうな……」


 アランは慌てて両手をぱたぱたと振った。


「ち、違うよ! ここで待っていればリリーが帰ってきてくれるかもと思って……」


 ニコルも愛想笑いを浮かべて言った。


「そうそう。アランがしばらくここを離れたくないって言うからさ」


 アランはニコルの腕を掴んだ。


「あー! 俺だけのせいにしないでよ! ニコルだって屋台飯がもっと食べたいからって賛成していたじゃん!」


 ニコルはそっぽを向いた。


「そうだっけ?」


 アランは半分泣きそうになりながら叫んだ。


「う、裏切者!」


 リリトヴェールは二人の前に立った。


「とりあえず、そこに正座。お金を全部渡して。どのくらい使ったか計算するから」


 アランとニコルは短く返事をして、その場に正座し、アランはポケットからお金が入った巾着を手渡した。

 リリトヴェールが帳簿をつける間、二人は息を潜めてそれを見守る。

 リリトヴェールは溜息を吐いて額に手をやった。


「この三日間で随分と使ったね」

「「ごめんなさい」」


 アランとニコルは声を揃えて謝った。

 リリトヴェールはちらりと二人を見ると、反省しているようだった。


 ――まぁ、今回は私の出て行き方も悪かったし、許してやるか。ケルべベスはしっかりと留守番をしてくれていたのに、こっちは私がついていないとだめだな。


「……とりあえず、まともな常識のある奴を探そう。でないと、私は離脱できそうにない」


 それを聞いたアランは茶色の瞳を輝かせた。


「じゃあ、リリーはもうしばらく一緒に旅してくれるの?」


 嬉しそうなアランに複雑な気持ちになりながら、リリトヴェールは頷いた。

 アランとニコルがリリトヴェールに抱きついた。


「やったー!」


 その頃、魔王城では、ケルべベスが置手紙の存在に気がついた。


「ぎゃー! リリトヴェール様、戻ってきてー!」


 ケルべベスの叫びが木霊していた。

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