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最強魔王、引退したい。でも勇者がだめすぎるので、育成はじめました。  作者: 冬木ゆあ


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第26話 魔王、クラーケンと戦う

「うわぁ! これが海? 向こう岸が見えないよ」


 アランは海を前にして感動していた。リリトヴェールはその隣で頷いた。


「向こう岸があるのか、未だ分かっていないけどね」

「そうなんだぁ」


 ニコルはリリトヴェールの袖を引っ張った。


「あっちに屋台が出ているよ」


 リリトヴェールは振り返ると、海鮮の屋台がたくさん並んでいた。


「いいね。お昼は食べ歩きといこうか」


 アランとニコルは「イエーイ」とハイタッチをした。

 勇者のオーブを求め、ユーナ岬へとたどり着いた勇者一行は街を見て回る。観光地らしく町並みは白で統一されていて、リゾート感たっぷりだ。

 イカ焼き、エビの塩焼き、ホタテのバターソテーなどを楽しんだ一行は、夕日を眺めながら呆然としていた。ニコルに至っては、花の冠を被っている。


「すっごく楽しんだね」

「そうだね……。じゃない! 勇者のオーブは一体どこにあるんだ!」


 リリトヴェールは思わずつっこんだ。

 アランは困ったように言った。


「勇者の剣も全く反応ないし、本当にユーナ岬にあるのかな」

「スーザの村長が言っていたからあると思うけど……」


 リリトヴェールも少し不安になってきた。

 すると、浜辺の方から叫び声が聞こえてきた。


「クラーケンだ!」

「こんな浅瀬に出るなんて!」


 三人は声がした方に向かって走り出した。

 すでに浜辺では冒険者たちがクラーケンと戦っていた。

 ニコルは走りながら満面の笑みで言った。


「大きいイカだ! 美味しそうだね!」


 リリトヴェールは呆れた顔でニコルを見た。


「あれを食べる気……? とりあえず、私たちも参戦するよ!」


 ニコルは盾を背中から取り、クラーケンの重い一撃を防御した。その後ろからアランがクラーケンに斬りかかり、足の一本を切り落とした。

 周囲から歓声が沸き起こる。


 ――アランとニコル、なかなかいい連携しているじゃない。


 リリトヴェールは杖を構えて、呪文を唱えた。


「サンダーボルト!」


 クラーケンに当たりわずかに痺れさせたようだったが、辺りからうめき声がいくつか上がった。アランとニコルもそのうちだった。

 ニコルがリリトヴェールを振り返る。


「あたいたちも痺れたよ!」


 リリトヴェールは、はっとした。


 ――そうか。海の水で感電したのか。サンダーボルトは使わない方がいいな。


「ごめん!」


 リリトヴェールは杖の構えを変えて、また唱えた。


「サンダーアロー」


 雷の矢がクラーケンに向かって飛ぶが、足で振り払われてしまった。

 アランがその隙に滑り込み、本体に向かって斬り込んだ。

 リリトヴェールはそれを見て、叫んだ。


「アラン、危ない! 前に出すぎると……」


 リリトヴェールが言う前に、アランはクラーケンの足に振り払われて、沖の方に飛ばされた。


「あー!」


 アランの情けない声が辺りに響いた。

 リリトヴェールはそれを見て、ニコルに声をかける。


「アランが海に落ちた! 急いで片付けるよ」

「あいよ!」


 ニコルがクラーケンの攻撃を引き受け、他の冒険者たちが足を攻撃している合間に、リリトヴェールは再度サンダーアローを放った。それは見事にクラーケンの頭を貫き、クラーケンはその場に倒れた。

 リリトヴェールはすぐに箒に跨り、空に飛び立ちながらニコルに言った。


「私はアランを回収してくるから、ニコルはここで待っていて!」


 返事も聞かずにリリトヴェールは沖に向かって飛んで行った。

 日は落ちはじめていて、早くしないとアランを見つけるのが難しくなる。


 ――そもそもアランの奴、泳げるのか?


 リリトヴェールはアランが落ちた辺りを旋回して探したが見つからない。


 ――流されたのか? 波の様子からしてあっちか?


 リリトヴェールはアランを見落とさないように慎重に進んで行った。



「けほっ」


 アランは水を吐いて、目を覚ました。

 そこには水色の髪をした少女が心配そうにアランを覗き込んでいた。


「よかった。目が覚めたのね」


 アランはむせながら体を起こし、少女をよく見た。上半身は人間だが、下半身は魚のようだった。

 海に落ちたことを思い出したアランは尋ねた。


「君が助けてくれたの?」


 少女は頷いた。


「溺れていたようだったから。それより、さっきからあなたの剣が光っているわよ」


 アランは勇者の剣を見ると、白い光を放っていた。


「まさかここに勇者のオーブがあるのかな」


 辺りを見回すと、小島のようで、洞窟の入り口にいるようだった。


「ここはどこ?」

「ここは女神の洞窟。何人たりとも奥に入ることはできない神聖な場所。勇者だけが入れると言い伝えられているのよ」


 アランは立ち上がり、ゆっくりと洞窟の中に入って行った。真っ暗だったが、手探りで先に進んで行く。

 奥まで行くと、松明に火がつき、アランを迎え入れた。

 地面に宝箱が置かれていて、アランはそっとそれを開くと、中には水色のオーブが入っていた。それを手に取ると、うしろから声がした。


「勇者アラン、水のオーブを手に入れましたね」


 この声は聞き覚えがあり、アランは振り返った。


「女神様」


 女神エレノアは前回と同じ出で立ちでそこにいた。

 アランは女神エレノアに尋ねた。


「前回お会いした時、俺が勇者になった理由は魔王城に行けば分かるとおっしゃっていました。今でもまだ教えてはいただけないのでしょうか?」


 女神エレノアは笑みを浮かべて頷いた。


「あなたの目で世界を見て、感じて、正しいと思う道を選びなさい」


 そう言い残し、また女神エレノアは姿を消した。


 ――一体なんなんだろう。俺が勇者に選ばれた理由って……。


 アランは水色のオーブを勇者の剣のガードに嵌めて、元来た道を戻りはじめた。

 洞窟を出ると、少女はまだいて驚きながらアランを出迎えた。


「あなたは勇者様だったのね」


 アランは申し訳なさそうに頭を掻いた。


「ごめんね。お礼も言わずに……」


 少女は首を横に振った。


「わたしたち人魚の一族はこの女神の洞窟をお守りする使命を女神様から賜っていたの。勇者様をこの洞窟に導けてよかった」


 そのとき、空からリリトヴェールがアランを呼ぶ声が聞こえた。

 アランはリリトヴェールの姿を見つけて、両手を振った。


「リリー、ここだよ!」


 リリトヴェールは降り立ち、アランの体をペタペタと触って無事を確かめた。


「よかった。無事だった……」

「心配かけてごめんね。この子が助けてくれたんだよ」


 そこでようやくリリトヴェールは少女の存在に気がついた。


「君がアランを助けてくれたの? 感謝するよ」


 少女は首を横に振り、海へと飛び込んだ。


「もう大丈夫そうね。それじゃあね!」


 少女は暗い海へと帰って行った。

 リリトヴェールは箒に跨り、アランに後ろに乗るように言った。


「一人乗り用だけど、私とアランの二人だったら飛べると思う。ニコルも心配しているだろうし、早く戻ろう」


 アランは頷き、リリトヴェールの後ろに乗った。ふわりと浮き、アランは感嘆の声をこぼした。


「浮いている……! すごいよ、リリー!」

「ちゃんと掴まっていてね。また人魚が助けてくれるか分からないんだから」


 アランはリリトヴェールのお腹に手を回した。


「そういえば、勇者のオーブを手に入れたよ」

「え! そういうことは早くいいなよ。あそこの洞窟にあったの?」

「そう。あんなところ、こんなことがなければ見つからなかったよ」

「まぁ、不幸中の幸いだったね」


 二人は夜の空を飛んで行った。


 岸に近づくと、松明が焚かれ、明るかった。人々がリリトヴェールとアランに気がつき、歓声が上がった。

 二人が降り立つと、ニコルが駆けてくる。


「アラン、よかった! 無事だったんだね」

「ニコル~! 大変だったよ。――それより、なに持っているの?」


 ニコルは自分の手に持っていた串焼きに目を向けた。


「これ? クラーケンの串焼きだよ」


 初老の男性も串焼きを持ってニコルの横に立った。


「こちらのお嬢さんが、クラーケンを食べてみたいとおっしゃるので、村人総出で炊き出しを行っておりました。いやしかし、食べてみるものですな。柔らかく甘くておいしい」


 リリトヴェールとアランはニコルに視線を向けた。


「ユーナ村の村長さんだよ」

「申し遅れましたな。勇者殿、ご無事で何より」


 ユーナ村の村長が手を差し出したので、アランは握り返した。


「どうも」


 ニコルはリリトヴェールとアランの手を引き、炊き出しのテントに向かった。

 リリトヴェールとアランもクラーケンの串焼きを食べる。


「うん! これは美味しいね」


 リリトヴェールは舌鼓を打ち、アランは無我夢中で食べている。

 三人は暗い海を眺めながら、急遽はじまったクラーケン祭りを楽しんだ。

 リリトヴェールは食べ終えて、星空を見上げた。


 ――これで勇者のオーブは三つ目か。残りはあと一つ。ニコルもだいぶ慣れてきたし、アランとニコルの連携もだいぶいい。そろそろこの旅も潮時か。


「アラン」


 アランは隣に座るリリトヴェールに視線を向けた。


「なに? リリー」

「約束どおり、そろそろ私はこのパーティーを抜けるよ」


 アランは目を見張り、手に持っていたクラーケンの串焼きを落とした。

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