第25話 魔王の日常
ニコルが勇者一行に仲間入りしてからしばらく経った頃。
宿屋の食堂で食事を終えたリリトヴェールが少し呆れ気味にニコルに言った。
「本当によく食べるね……」
ニコルの前には三人前くらいの食器が積まれていて、チキンを齧りながらリリトヴェールを見た。
「そうかな。二人が小食なだけじゃない?」
そう言って、また料理を食べはじめた。
部屋に戻り、アランはベッドでいつも通り勇者の剣を磨いていて、リリトヴェールは日課の帳簿をつけていた。ニコルはリリトヴェールの正面でそれを見ていた。
「お金の管理はリリーがやっているんだね」
「まあね。アランは金銭感覚がないから、仕方なくだよ。ニコルはその点、大丈夫そうだよね」
ニコルは頭に手をやった。
「細かいことは苦手だからなぁ。そうやってちゃんと管理するのは無理かも」
リリトヴェールは顔を上げて、笑みを浮かべた。
「たしかにニコルは大雑把そう」
「すでにバレてたか」
二人はお互い顔を見合わせて笑った。
朝はいつもリリトヴェールがアランを起こすことからはじまる。
「アラン、いい加減にしないと怒るよ!」
「もう怒っているよ、リリー」
アランは眠そうな目を擦りながら起き上がった。
ニコルはそれをまじまじと見ていた。
森の道を歩いていると、リリトヴェールは突然道の脇に寄って座った。
アランとニコルが後ろから覗き込むと、リリトヴェールは薬草を摘んでいた。
「毒消し草だ。葉っぱが大きくて、質のいいやつだな。ラッキー」
リリトヴェールはいくつか摘んで、アランの鞄に入れた。
ニコルははたと思いついたように言った。
「リリーって母さんみたい」
リリトヴェールは「はぁ?」っと素っ頓狂な声を上げた。
「だって、朝はいつもアランのことを起こしているし、薬草とか詳しいし……。むしろ、おばあちゃん?」
「おばあちゃんはやめてよ……」
リリトヴェールは少しショックを受けたように言った。
夜中。
ニコルはなにかが落ちたような大きな音で飛び起きた。
「なに?」
アランも同様で起き上がってこちらを見ていた。
「リリーがベッドから落ちたんだよ。寝相悪いから……」
アランはベッドから出て、リリトヴェールのベッド脇に向かった。
「リリー、大丈夫?」
「うーん」
ニコルもアランの隣から覗き込むと、リリトヴェールはすやすやと眠っていて、呆れたように言った。
「これで起きないなんて……」
アランがリリトヴェールの上半身を持ち上げたので、ニコルは足を持ち上げた。二人でなんとかベッドに戻してやった。
アランは小さく息を吐いてから言った。
「ニコルが手伝ってくれて助かったよ」
「いつもアランが一人でやっていたの?」
「まぁね」
それからアランはそっとリリトヴェールの帽子を直してあげた。
その時、ニコルがリリトヴェールの角に気がついてアランを見ると、アランは口元に人差し指を当てた。
「リリー、角のことは隠しているみたいなんだ。見たことは黙っていてあげてね」
ニコルはアランのことを見つめて頷いた。
翌朝。
いつもの通り、リリトヴェールがアランを起こし、布団を剥ぎ取った。
「起きる時間だよ!」
「うーん、寒いよ。リリー」
アランが布団を取り戻そうと手をふわふわと泳がせている。
ニコルはそれを見て思った。
――まぁ、なんだかんだ支え合ってここまで来たんだね。この二人は。
ニコルも参戦して、アランの脇腹をくすぐってやった。
「起きろ~! あたいはお腹空いたぞ~」
「あはは。やめてよ、ニコル~」
三人は楽しげに笑っていた。




