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最強魔王、引退したい。でも勇者がだめすぎるので、育成はじめました。  作者: 冬木ゆあ


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第21話 魔王、武闘大会を楽しむ

 ミューケルトの街は露店が立ち並び、お祭りのように賑わっていた。

 リリトヴェールとアランは、まずは冒険者ギルドに立ち寄ることにした。

 冒険者ギルドに入ると、酒場は冒険者たちで溢れていて、二人は圧倒されていた。

 すると、すぐに赤毛をうしろで三つ編みにしたひとりの女の子が入ってきた。水を差したようにしんとなり、二人は何事かと思っていると、冒険者たちがまたざわざわとしだした。


「鉄壁のニコルだ」

「やっぱり今回も来たか……」


 そんな冒険者たちの間を気にした様子もなくニコルはすり抜け、リリトヴェールの前を通り過ぎた。背丈はリリトヴェールの肩くらいで、小柄な子だった。背には収まりきらない大きい盾を担いでいる。

 ニコルは受付まで行くと、受付の女性が先に声をかけた。


「ニコルさん、今回はギリギリでしたね。いらっしゃらないかとひやひやしましたよ」

「ちょっといろいろあってね。今回もエントリーよろしく」


 ニコルは冒険者カードを女性に見せた。


「かしこまりました。エントリーしておきますね」


 それでやり取りは終わったのか、ニコルは踵を返して、冒険者ギルドを出て行った。

 リリトヴェールは女性に声をかける。


「今の誰?」

「前回Bランク大会優勝者のニコルさんですよ。お二人も武闘大会に参加されますか?」


 リリトヴェールは少し考えた後、隣にいるアランに言った。


「アラン、ちょっと腕試ししてきなよ」

「ええ? 俺も見る側がいい」


 リリトヴェールは柱に張られたポスターを指差した。

 アランは嫌そうな顔でそれを読み上げた。


「優勝すると大銀貨一枚……」


 そこへ女性が口を挟んだ。


「もしかして勇者のアランさんですか?」


 アランはビックリした顔で尋ねた。


「なんでわかったの?」

「先日、冒険者ギルド協会からアランさんが魔王討伐のため旅をしているのでサポートするようにと通達があったんです。まさかアランさんに武闘大会に出ていただけるなんて!」


 それを聞いていた冒険者たちがまたざわめいた。


「勇者だって? 武闘大会に出るのか?」

「鉄壁のニコルとどっちが強いんだろうな。楽しみだな!」


 その騒ぎをアランは呆然と見つめた。


「またこの展開……」

「もう出ないわけにいかないな。逃げたと思われるよ」


 アランは渋々といった感じで女性に言った。


「武闘大会に出ます……」


 それを聞いた女性は両手を合わせて喜んだ。


「ありがとうございます! きっとすっごく盛り上がりますよ。手続しますので、冒険者カードを見せていただけますか?」


 アランは鞄から冒険者カードを出して見せた。


「はい、確認できました。Bランクの大会は明日開催です。受付は今日の夕方までだったので、滑り込みセーフですね!」


 アランは大きなため息を吐き、リリトヴェールはそんなアランの手を引いて冒険者ギルドを後にした。


 翌日。

 闘技場には大勢の人が集まり、熱気に包まれていた。

 司会者の男性が闘技場の舞台から観客席を見回した後、大会の開始を告げた。


「今日はBランクの大会だ! 一試合目はぎりぎり滑り込んだ勇者アランと巨人ジェームズ!」


 その紹介に更に盛り上がった闘技場の中、アランと相手のジェームズが舞台に上がった。


「やめてよ、その紹介……」


 アランは小さくなりながら舞台の中央に向かっていく。

 正面からは二メートルはあろうかという巨体のジェームズがやってきた。

 アランはジェームズを見上げた。


「人間でしょうか……?」

「失礼な奴だな」


 ジェームズは柔道着姿で、手甲かぎが武器のようだ。

 司会者が二人の間に立ち、


「それでは試合開始です!」


 と言うのと同時に手を上げて、うしろに後ずさった。

 最初に攻撃を仕掛けたのは、ジェームズだった。手甲かぎでアランに襲いかかる。

 アランは盾でそれを防いだが、攻撃は重く、アランは少し後ろに押された。

 しばらくアランの防御が続き、それを見ていた観客からヤジが飛んでくる。


「おーい! 勇者、押されているぞ!」

「たいしたことねぇな」


 ――言いたい放題言いやがって! このジェームズって人の攻撃をお前たちが受けてみろってんだ!


 アランは悔しさのあまり心の中で言い返した。

 止むことのないジェームズからの攻撃を受け流しながら、アランは気がついた。


 ――この人、攻撃がワンパターンだ。慣れてきたぞ。


 アランはタイミングを見計らって、ひょいっと右側に避けると、ジェームズはよろけた。そこをついてアランは背後を取り、剣をジェームズの首に突きつけた。ジェームズは僅かに振り向き、手を上げた。


「……参った」

「勝負あり! 勝者、勇者アラン!」


 わぁっと歓声が上がった。

 アランはほっとして、膝をついているジェームズに手を貸した。ジェームズはアランの手を取り、立ち上がった。


 その頃、リリトヴェールはと言うと、観客席でポップコーン片手に観戦していた。


「お、アラン勝ったな」


 ――しかし、この闘技場とやら、観客から金を巻き上げていいシステムだな。いつか魔族領内にも造ろう。


 そんなことを頭の片隅で考えながら武闘大会を見ていた。

 二回戦目、三回戦目と続き、リリトヴェールはあくびをしていた。


 ――アランの仲間にできる奴がいればいいと思ったが、大した戦士はいないな。


 そこへニコルが舞台に上がってきた。


 ――昨日の子だ。前回大会の優勝者だと言っていたな。ちょっと気になっていたんだ。


 リリトヴェールは興味を惹かれて、ニコルの試合を真剣に見はじめた。

 開始の合図とともに、ニコルは大きな盾を構えた。相手は鎧を身にまとった剣士だ。ニコルは剣士の剣戟を盾で防ぎ、微動だにしない。

 それを見てリリトヴェールは感心した。


 ――あの小柄な体でよく耐えているな。ドワーフかな。武器は持ってなさそうだけど、まさか拳で戦うんじゃないだろうな。


 すると、剣士の隙をついて、ニコルは盾を振りかざし、闘技場に響き渡る音で殴りつけた。地面に倒れた剣士を何度も何度も殴りつける。

 司会者が慌てて間に入った。


「ニコルさん、おしまい、おしまい! もう伸びているから!」


 ニコルはきょとんとした顔で、盾で殴るのをやめた。

 リリトヴェールはそれを見て、ひとり笑いそうになるのを堪えた。


 ――嘘でしょう。武器も盾なんだ。次の試合も楽しみだな。


 アランとニコルは順調に勝ち進み、とうとう決勝で当たった。

 舞台で二人は向き合い、先に声をかけたのはニコルだった。


「勇者なんだって?」

「まぁね。君の試合、さっき見ていたよ。盾で殴られるのは痛そうだ」

「ふふ。勇者君だって、なかなかやるじゃん」


 司会者が開始を告げると、アランもニコルも盾を構えた。

 会場中が息を呑んで双方を見守るが、しばらく経っても二人とも動かなかった。

 司会者が思わず口を挟む。


「お二人とも攻撃しないとはじまらないよ……?」


 二人が司会者を目だけでじろっとにらんだ。

 竦みあがった司会者は、


「すいませんでした!」


 と言って、舞台から飛び降りた。

 ニコルは溜息を吐いてから言った。


「しかたがないな。あたいから動くとするか」


 ニコルは盾でアランに殴りかかったが、アランは盾で受け流した。

 今度はアランが剣で斬りかかり、ニコルも盾で受け止めた、そして、お互いにらみ合って、また動かなくなった。

 アランはどうしたものかと思考をめぐらす。


 ――隙がないんだよな、この子。どんな攻撃もかわされるイメージしか沸かない。


 ニコルも同じようなことを考えていた。


 ――勇者君、前の試合を見ていて思ったけど、防御型なんだよな。あたいは攻撃を仕掛けられて、その隙をつきたいのに、なかなかつけない。


 アランが剣でニコルに攻撃を仕掛けた時だった。ニコルがにやっと笑った。


 ――ラッキー。隙みっけ。


 アランの剣を盾で弾き、そのままアランを盾で殴りに行った。すると、アランはその場でしゃがみ込み、ニコルは勢い余って頭から地面にめり込んだ。

 地面に伸びたニコルを見て、司会者は一瞬呆然としたが、アランの右手を掴んで上げた。


「……勝者、勇者アラン! 初出場にして、初優勝だぁ!」

「よっしゃ!」


 アランはそう言って、ガッツボーズをした。

 すると、何が起こったのか良く分からなかった観客たちから一歩遅れて歓声が沸き起こった。

 表彰式前にはニコルも復活し、Bランク大会の表彰式を終えた。


 選手控室にリリトヴェールは顔を出した。

 そこには試合を終えて、帰り支度をしている選手たちが互いの健闘を称え合っていた。アランはその中心で、盛り上がっている。

 リリトヴェールに気がついたアランが、手を上げた。


「リリー! 俺、勝ったよ」

「見ていたよ。最後こけたでしょう?」


 アランは気まずそうに笑った。


「えへへ。リリーにはばれていたか」


 ニコルは輪から離れたところで荷物をまとめて、ぶつぶつと言っていた。


「あーあ。今回は優勝賞金をもらい損ねた。仕事を探さないと……」


 リリトヴェールはにこやかにニコルに話しかける。


「ニコルだっけ? 君、強いね。勇者パーティーに入る気ない?」


 ニコルは怪訝そうに顔を上げて、リリトヴェールを見た。


「あたいが? 悪いけど、興味ないね。魔王討伐とか、一文にもならない」

「そんなこと言わないでさ、ちょっと話をしようよ」

「そもそも君、誰? 勇者君の仲間? あたいは里に帰って、病気の母さんと五人の姉弟の世話をしないといけないんだ。――そうだ、強い戦士を探しているのなら、ドワーフの里に来る? 強い戦士がいっぱいいるよ」


 リリトヴェールは少し悩んでから頷いた。


「そうさせてもらおうかな」


 ――ドワーフの里に行けばニコルのこともっと知れるだろうし、ニコルより強い戦士がいるのなら、それはそれで興味深い。


 リリトヴェールとアランは、ニコルと共にドワーフの里に行くことにした。

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