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最強魔王、引退したい。でも勇者がだめすぎるので、育成はじめました。  作者: 冬木ゆあ


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第19話 魔王、遭難する①

 勇者のオーブを求めてフィッツロイ山に入ったリリトヴェールとアランは、温泉でのまったり感はどこへやら、猛吹雪に遭っていた。

 アランは震えながら言った。


「死んじゃうよ、リリー」

「分かっている。とにかく凌げるところを探さないと……」


 二人は息も絶え絶えに歩いていると、洞窟を見つけた。中は深いようで、先は真っ暗で見えない。

 二人は洞窟に入るとほっと息を吐いた。

 リリトヴェールは帽子に積もった雪を払いのけながら、外の様子を見た。


「これはしばらく止みそうにないね」


 すると、服の裾をくいくいと引っ張られ、リリトヴェールは傍らに座るアランを見た。


「なに? アラン」

「これを見て」


 アランは勇者の剣をリリトヴェールに見せた。勇者の剣がほのかに光を放っていて、リリトヴェールは凝視する。


「勇者の剣が光るのは、はじめてだね。もしかして、この洞窟の先に勇者のオーブがあるとか?」


 アランは洞窟の先を振り返った。


「まさかこの先に?」


 リリトヴェールも洞窟の先を見据えた。


「どの道、しばらく足止めだ。探索してみる価値はある」


 リリトヴェールが杖を翳すと、杖の先に光が宿った。その光を頼りに洞窟の先へ進んで行く。

 先に進めば進むほど、魔獣と行き会うことが増えてきて、アランが溜息を吐く。


「何? この魔獣の多さ……」


 リリトヴェールもそれは感じていた。


 ――私たちと同じように吹雪から逃れるために洞窟に入ったのなら、入り口付近に多いはず。なぜ洞窟の奥に行くにつれて増えているんだろう……。


 二人は不穏な雰囲気を感じながら先へと進んで行った。

 すると、リリトヴェールは突然何かに弾かれた。


「いたっ!」


 リリトヴェールの声に驚き、アランは振り返った。


「どうしたの? リリー」


 リリトヴェールは目の前の見えない壁に手を当てた。


「どうやら私はここから先には行けないようだ」

「引き返す?」


 リリトヴェールは呆れた顔をした。


「馬鹿を言え。私は行けなくて、勇者のお前は通れた。つまりこの先に勇者にまつわる何かがあるはずだ。勇者のオーブかもしれない。ひとりで行ってこい」


 アランは嫌そうな顔をした。


「ええ~。この先真っ暗だよ。俺、リリーみたいに光を出せないよ」

「ちょっとこっちに来て、アラン」


 アランは従うと、リリトヴェールはアランの鞄から松明を取り出し、それに火をつけた。


「ほら、これを持って行っておいで」

「はーい」


 アランは松明を手に、ひとり歩き出した。

 アランの姿が闇に消えてすぐに洞窟の先から情けない声が聞こえてきた。


「暗いよう。怖いよう。リリー……」


 リリトヴェールは呆れた顔で額に手を当てた。


「……まぁ、私はそれどころじゃなさそうだ。どうやら魔獣はここをめがけてやってきていたらしい」


 リリトヴェールの背後にビッグウルフが三体姿を現した。


「早く戻ってきてよね、アラン」


 リリトヴェールはビッグウルフを振り返り、杖を構えた。

 一方、アランは暗い洞窟を震える足で進んでいた。


「いったいどこまで続いているんだろう……」


 さっきまで多くの魔獣に襲われていたが、リリトヴェールが通れなかった先には、魔獣は居ないようだ。

 しばらく歩いた先には広場があって、アランが足を踏み入れた途端、壁の松明に火がついて、中が明るく照らされた。

 アランはびくりと体を震わせて、叫んだ。


「何? 怖い!」


 広場の中央には大きな岩があり、その上に宝箱が置かれていた。

 アランは恐る恐るその宝箱を開けた。そこには赤い宝玉が入っていた。


「これは勇者のオーブかな?」


 アランはそれを手に取り、勇者の剣のガードのくぼみに赤い宝玉を嵌めこむと、白い光を放った。


「はじめまして、勇者アラン」


 突然、女性の声がして、アランは、はっと顔を上げた。

 そこには先ほどまで誰もいなかったはずなのに、金の髪と瞳の女性が立っていた。白い衣姿は幻想的で、風もないのに揺れている。


「誰……? 俺を知っているの?」


 女性は口元に笑みを浮かべた。


「ずっと見守っていましたよ。わたくしは女神エレノアです」


 アランはぽかんとした顔で女神エレノアを見た。


「女神様……? ――ずっと聞きたかったんです。どうして俺を勇者にしたんですか?」

「今、わたくしの口から申し上げることはできません。しかし、いずれ魔王城にあなたが辿り着いた時、あなたが勇者になった意味を知るでしょう」


 女神エレノアはそれだけ言って消えてしまった。

 アランは慌てて尋ねた。


「どういうこと?」


 その問いには誰も答えることはなく、虚しく宙に消えた。

 アランは来た道を引き返し、リリトヴェールの元に戻ることにした。


 リリトヴェールは魔獣に囲まれていた。


「サンダーボルト」


 リリトヴェールの呪文が洞窟内に木霊する。ずっと戦っていたのか、肩は呼吸に合わせて揺れていた。

 アランはリリトヴェールの横をすり抜け、ビッグウルフに斬りかかる。


「アラン、遅いよ!」

「ごめん! リリー」


 二人は共闘してあらかた片づけると、リリトヴェールはアランに尋ねた。


「洞窟の奥で何か見つけた?」


 アランは勇者の剣をリリトヴェールに見せながら言った。


「勇者のオーブがあったよ」


 リリトヴェールは満足そうに頷いた。


「これでフィッツロイ山での目的は果たしたね。吹雪が止んだら、さっさと下山しよう」

「そうだね。もう野宿はこりごりだよ」

「まぁ、暖かい時期になれば、野宿もしやすくなるよ」


 アランはそれでも嫌そうな顔をした。


「寝るのはベッドがいい」

「贅沢者め……」


 リリトヴェールとアランは洞窟の入口へと戻って行った。


 夜になっても吹雪は止まず、結局、洞窟内で野宿をする羽目になった。

 アランは焚火に背を向けて、今日あったことを思い出していた。


 ――女神エレノア。実在したんだ……。それに俺が勇者になった理由は、魔王城に行けば分かる……。そんなことを言っていたな。


 アランが寝返りを打つと、焚火越しにリリトヴェールと目が合った。


「アラン、寝つけないの?」

「うん、ちょっとね。考え事をしていた」


 すると、リリトヴェールが驚いた顔をした。


「アランでも考え事をすることがあるの?」

「あるよ! 失礼だな」


 そして、二人は噴き出して笑った。


 ――どの道リリーと魔王城まで行く予定だったし、まぁいいか。


 アランはそっと瞳を閉じた。


 翌朝。

 すっかり吹雪は止み、何事もなかったかのように空は青く晴れ渡っていた。

 リリトヴェールは伸びをしながら洞窟を出た。


「さて、下山するか。――それで、ここはどこだろう?」

「もしかして遭難している……? 俺たち」


 二人は顔を見合わせて、溜息を吐いた。

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