第17話 魔王、ダンスパーティに参加する
ゲストルームにはきらびやかなドレスが用意され、フローラがリリトヴェールの手を引いて、案内していた。
「リリー様の明日のドレスを選びましょう。お好きなお色はなにかしら?」
リリトヴェールは少し考えるようにして答えた。
「ドレスといったら黒かな」
それを聞いたフローラは眉間に皺を寄せた。
「まぁ。お祝いの席なのですよ。華やかなドレスを着ないと。こちらはいかがですか? リリー様に似合いそうです」
フローラはピンクのフリルがふんだんに使われたドレスを手に取った。
今度はリリトヴェールが眉間に皺を寄せた。
――そんな甘いドレスは勘弁してくれ……。パーティの時、人類はこういう華やかなカラードレスを着るんだな。
リリトヴェールはたくさんあるドレスを眺めながら、隣にいるフローラに尋ねた。
「この紫色のドレスはどうかな?」
フローラは紫色のドレスとリリトヴェールを交互に見た。
「似合いそうですね! 試着してみましょうか」
リリトヴェールは首を横に振った。
「いいよ。自分で用意できるから」
リリトヴェールは鏡の前で目を瞑り、ドレスをイメージする。
――紫色のドレスであまりフリルがないのがいいな。帽子もドレスに合わせて……。
「クローズチェンジ」
リリトヴェールがくるりと回ると、緑のワンピースから紫色のドレスに変わった。
ドレスの首の後ろにはリボンのアクセントがあり、背中は広く開いていて、腰からのスカートはソフトチュールを幾重にも重ねてふんわりとした仕上がりになっている。茶色い髪は纏め、ドレスと同じ紫色の帽子を被り、うしろにはヴェールのようにソフトチュールが添えられていた。
その姿を見たフローラは水色の瞳を輝かせた。
「リリー様、すっごく素敵です!」
リリトヴェールはフローラを振り返る。
「どう? これならパーティで浮かない?」
フローラはリリトヴェールの手を取った。
「もちろんですわ! むしろパーティの花になれます」
――目立ちすぎるのも勘弁なんだけどな……。角がばれたら大変だから、帽子はしっかり被っておこう。
リリトヴェールは帽子に手をやり、しっかりと被り直した。
ドレス選びが終わったリリトヴェールは寝室用に用意された部屋に案内されると、そこにはすでにアランがいてベッドに突っ伏していた。
リリトヴェールは驚いて尋ねた。
「どうしたの? アラン、なにかあった?」
アランはやつれた顔を上げた。
「どうもこうもないよ。明日の服を試着したり、王子の相手をしたりで疲れた……」
リリトヴェールはアランのベッドの端に腰掛ける。
「まさかパーティに出ることになるとは思わなかったもんね」
「パーティってなにするの?」
アランの問いにリリトヴェールは考えながら答えた。
「美味しい料理を食べたり、ダンスを踊ったりかな」
「おお! 俺、ダンスは得意だよ」
アランが立ち上がり、奇妙な踊りを踊り出した。
リリトヴェールはそれを見て声を上げて笑った。
「なにそれ、面白いダンスだね」
「村のお祭りの時に踊るダンスだよ。こういうのとは違うの?」
アランは首を横に傾げた。
リリトヴェールは立ち上がり、軽く踊って見せた。
「こういう感じで、男の人と女の人のペアで踊るんだよ」
リリトヴェールの踊りを見終えたアランは拍手した。
「リリーは何でもできるんだね」
「ちょっと練習しよう。アランならすぐに踊れるようになるよ。簡単なの教えてあげる」
リリトヴェールはそう提案して、二人はダンスの練習をはじめた。
「足引いて、一、二、三。そうだよ、アラン。いい調子」
アランはリリトヴェールに合わせながらステップを踏んだ。
――アランは、運動神経だけはいいんだよね。この様子なら明日のダンスは問題なさそう。
二人は楽しげにダンスを踊っていた。
翌日。
リリトヴェールはフローラの部屋でパーティの準備をしていた。
昨日決めておいたドレスに着替えたリリトヴェールは、椅子に座ってフローラの支度を見ていた。
フローラもリリトヴェールに合わせ紫色のドレスを身にまとい、水色の髪はまとめ上げ、ティアラをつけている。
「さぁ、リリー様、会場に参りましょう」
リリトヴェールとフローラは並んで会場まで向かった。
会場の前ではタキシードに身を包んだアランと、同じくタキシード姿の水色の髪の男性が待っていた。
水色の髪の男性が一歩前に出て、リリトヴェールにお辞儀をした。
「妹を助け出していただき、感謝いたします。ご挨拶が遅れて申し訳ない。わたしは第一王子、ナイジェル・デランジェールと申します」
リリトヴェールはドレスの裾を軽く持ち上げてお辞儀をした。
「お初にお目にかかります。リリーと申します」
それからリリトヴェールはアランに視線を移した。
「似合っているじゃない。アラン、カッコいいよ」
アランは、はっとした様子で言った。
「ありがとう。リリーが可愛くてぼーっとしちゃった」
リリトヴェールはくすっと笑ってお礼を言った。
アランはリリトヴェールにそっと腕を差し出す。
「ナイジェル様から聞いたんだ。パーティでは男が女の子をリードするんだって」
リリトヴェールはアランの腕を掴んだ。
「よろしく頼むよ、アラン」
会場のドアが開き、衛兵が声を上げた。
「第一王子ナイジェル様、第一王女フローラ様、勇者アラン様、リリー嬢がご入場されます」
バルコニーからナイジェルとフローラが会場にいる人たちに手を振った後、ナイジェルと、その腕を掴んだフローラが階段を下りはじめる。その後を、リリトヴェールとアランが後を追うように下りた。
四人を歓迎するかのように温かい拍手が会場に響き渡る。
すると、音楽が流れはじめて、フローラがリリトヴェールの手を取った。
「リリー様、ぜひわたくしと一曲踊りましょう」
リリトヴェールはフローラに手を引かれてダンスホールへ向かった。
可愛らしい二人のダンスに周りは和み、笑顔で見ていた。
ふとリリトヴェールの視界の片隅にアランが入ると、アランは女の子たちに囲まれていた。
――アランの奴、女の子に囲まれていい気になっているに違いない。お灸をすえてやらねば。
フローラと踊り終わったリリトヴェールは、女の子たちの間に割って入り、アランに声をかけた。
「アラン、お前、なにを……」
「リリー、俺と踊ろう。一曲目はリリーと踊るって決めていたんだから!」
アランはリリトヴェールの手を取って、残念がっている女の子たちの輪を抜けた。
ダンスホールの端の方でアランはリリトヴェールに言った。
「俺のことひとりにして。女の子たちに囲まれて怖かったよ、リリー」
リリトヴェールはくすりと笑って、冗談めかして言った。
「可愛い子たちばっかりだったじゃない」
「あんなに女の子に囲まれることないから、どうしたらいいのか分からなかったよ」
「アランは勇者なんだから、これからこういうこともいっぱいあるよ。魔王を討伐すれば、フローラ姫みたいなお姫様と結婚できるかもよ?」
アランは首を横に振った。
「俺はそういうの興味ないよ。リリーと旅をしている方がよっぽど楽しい」
アランはそう言ってにっこりと笑った。
リリトヴェールはどきっとして、わずかに顔を赤らめた。
「そう? アランが楽しいのならよかった」
「踊ろう、リリー。昨日の特訓の成果をお披露目しないと」
「そうだね」
こうして二人はダンスを踊り、美味しい料理をたらふく食べ、パーティを楽しんだ。
翌日。
フローラとナイジェルに見送られ、二人はデランジェール王国の王都を後にした。




