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最強魔王、引退したい。でも勇者がだめすぎるので、育成はじめました。  作者: 冬木ゆあ


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第15話 魔王、誘拐事件に挑む①

 デランジェ―ル王国の王都に着いた二人は、漂う物々しさを感じていた。

 人通りは疎らで、行き交う人々の表情は暗い。

 冒険者ギルドに行くと、いつもは賑やかな冒険者たちも暗い表情で、まるでお通夜の会場のようだった。

 リリトヴェールは受付の女性に声を潜めて尋ねた。


「なにかあったの?」


 受付の女性は深刻な表情で言った。


「三日前に、フローラ姫が攫われたの。冒険者たちはずっと誘拐犯を追っていたけど、成果が上がらなくて、その上、フローラ姫まで攫われたものだからショックが大きくて……」


 リリトヴェールは状況を把握して、気落ちしている冒険者たちを見た。


 ――こんなに大勢の冒険者たちがいる王都で、それも警備が厳重なお城からお姫様をさらうとは、誘拐犯は相当な手練れだな。


 リリトヴェールは更に女性に尋ねた。


「情報はある?」


 それに答えたのは近くにいた冒険者だった。


「王都を出たところにある森の中に犯人の根城があることまでは掴んでいるんだ」


 リリトヴェールはそれを聞いて不思議そうに首を傾げた。


「そこまで掴んでいて、どうして助けに行かないの?」


 冒険者は困ったような顔で言いづらそうに言った。


「もちろん俺たち冒険者も森に入ったさ。だが、幻惑の魔法がかかっているのか、根城に辿り着けない。気がつくと森の入り口に戻されているんだ。俺は三回挑んでいるから確かだよ」


 リリトヴェールは納得して頷いた。

 それから、隣にいるアランに声をかけた。


「私たちも行ってみよう」


 それを聞いた女性は二人を止めた。


「お待ちください。誘拐犯の件は危険度が高いので、Bランク以上の冒険者に依頼を出しているんです。お二人の冒険者カードを見せてください」


 リリトヴェールは女性を振り返った。


「私たちはCランクだけど、最近更新をしていなかったからちょうどいい」


 二人はレベルを測る魔道具で測定すると、Bランクの冒険者に昇格していた。

 女性は二人に新しい冒険者カードを渡しながら言った。


「リリーさん、アランさん、くれぐれも気をつけてくださいね。犯人の根城が分かっていると言っても、犯人の詳細までは分かっていないのです」


 リリトヴェールは力強く頷いた。


「今回は様子見で森に行くだけで、無理をする気はないよ。それにこう見えて、私たちは勇者一行なんだ」


 アランも笑みを浮かべながら言った。


「困っている人がいたら見過ごせないよ。ね、リリー」


 リリトヴェールも笑みを浮かべてアランの肩に手を置いた。


「アランも立派なことを言うようになったね」


 その会話を聞いていた冒険者たちが騒めいた。


「勇者一行だって?」

「おお! 頼んだぞ!」


 お通夜のようだった冒険者のギルドの酒場が活気づいた。

 冒険者ギルドを後にする二人を、冒険者たちは声援で見送った。

 二人は冒険者ギルドを出て、顔を見合わせ、アランが先に口を開く。


「わざわざ勇者一行だって言わなくても……。もう引くに引けないじゃん」


 リリトヴェールも小声で言い返す。


「アランだって乗り気で大見え切っていたじゃない。お互い様だよ。とりあえず、森に行って様子を見よう。幻惑の魔法だってどんなものだか確認してみないと分からない」


 二人は森に向かって歩き出した。


 森は鬱蒼としていて、鳥の鳴き声が重なり合い響いている。

 二人は慎重に森の中を進んで行った。

 リリトヴェールは気配を探りながら歩いて行く。


「人の気配がするからこっちの方角だと思う」


 時折、魔獣と戦い、特段他の森と変わらない様子だった。

 すると、二人の目の前に森の中には相応しくない豪邸が現れた。

 リリトヴェールはぽかんとした顔でそう言った。


「多分ここだよね。犯人の根城……」


 アランも隣でぽかんとしている。


「リリー、幻惑の魔法とかいうの感じた?」

「いいや。ただの森だった」


 それと同時にリリトヴェールは嫌な予感を感じていた。


 ――なんだこの違和感は。なぜ他の冒険者には幻惑の魔法がかかり、私たちには一切効かなかったのだろう……。


 今日は森で幻惑の魔法の様子見だけのつもりだった二人は顔を見合わせた。

 リリトヴェールはアランに尋ねる。


「どうする……? このまま行っちゃう?」


 アランはその問いに苦笑した。


「なにその聞き方。根城に乗り込むテンションじゃないでしょう」


 リリトヴェールは屋敷を指差した。


「だって、今まで誰一人として辿り着けなかったのに、こんなに簡単に辿り着いて、何もないわけないよ。罠だよ、絶対!」


 リリトヴェールとアランは犯人の根城の前で顔を見合わせて悩んでいた。


 ――屋敷内の気配からして、子供たちもいる。犯人もいるな。でも、この気配、なんだか心当たりがあるんだよな……。


 リリトヴェールは腹をくくった。


「……よし! 行こうか、アラン」

「おう!」


 二人は扉を開けてエントランスへ入った。

 内装もしっかりと豪邸で、リリトヴェールは首を傾げた。


「誘拐犯って、こんなお金持ちそうな家を根城にするかな? てっきり人身売買とかそういうの目的かと思っていたんだけど……」


 アランも頷く。


「お金に困ってなさそう。何が目的なんだろう」


 二人が目の前にある階段を上ろうとした時だった。

 リリトヴェールが光のボールの中に捕らわれた。


 ――家主が用があるのは私らしい。……まぁ、いい。私もできれば二人きりで会いたかった。


「アラン、地下だ! 子供たちは地下にいる。お前はそっちを頼んだ」


 リリトヴェールはそう言って、アランの目の前から消えた。

 アランは咄嗟のことに動けなかったが、リリトヴェールが消えたことで焦りを見せた。


「リリー! え! 消えちゃった……。俺、どうしよう。リリーを助けに行くべき? でも、リリーは地下に子供がいるって言っていた……」


 アランはがりがりと頭を掻いて、地下へと続く道を探して歩き出した。


 ――リリーは自分を『助けて』じゃなくて、子供たちを『助けて』って言っていた。俺はリリーを信じて、今は任された仕事をしよう。


 アランはそう覚悟を決めた。

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